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05

 アミはいつも通りのようだ。

 私が他の子と話していても邪魔をしてきたりはしない。

 それどころか暖かい場所ですやすやと寝ているのが常となっていた。


「(確かに気持ち良さそうだけど……)」


 無視していた私が完全に悪いのはわかっている。

 けれどあれからも全然来てくれないのは違うのでは?

 そりゃ、小楠さんやユミさんの方が魅力的なのは確かだけど。


「アミ、起きて」

「んー……あと5分」

「ここは学校だから」

「あ、そっか……んー! それでどうしたの?」


 ど、どうしたのって……この子は本当にもう……。

 私が離れた理由、聞いてなかったのと問い正したくなる。

 別にそういう意味で好きというわけではないけど、ずっと友達でいたいんだ。

 仮にあのふたりのどちらかとそういう関係に変わるのだとしても、ずっと友達として。

 そして危ない目に遭わないように見守っておかなければならない。

 最初はお兄ちゃんだってそうだったと思うんだよなあと。


「今日も会うの?」

「うん、ユミさんは来るって言ってたよ」


 興味があると言った小楠さんの方が来なくなっている。

 いや、本当は行きたいけど忙しくて無理だということだろうか。

 ユミさんは怪しいんだよなあ、なぜ急に興味を持ったのか。


「私も行っていい?」

「いいよ? 別になにかすることがあるというわけでもないし」


 確かに、一緒にいてもちょっと会話をして終了を繰り返し続けているようだ。

 でもユミさんの家はミカマルスーパーの近くだと言う、来るのもなかなか大変そうだけど。

 おまけに寒いのが好きではないことは昨日のでわかった、なのにわざわざ来る理由は?

 ただの友達だからという情報だけでは行動と合わないぞ。


「ユミさんってさ」

「あ、やっぱりウサちゃんは気になってたんだ」

「はい?」

「いや、昨日ずっと黙って見ていたからさ」


 違う、どうしてあんな綺麗な人がアミに興味を持ったのか気になっただけだ。

 アミは可愛い系だからというのもある、あのふたりがなにを考えているのかわからなくて怖い。

 悪用しようとしているわけではないからあまり構えなくてもいいんだろうけどね。

 とにかく、この子の中では私がユミさんに興味を抱いているということになっているらしい。

 それならそういう形にしておけば一緒にいやすくなるということで、敢えて訂正もしなかった。

 信じ込んで益々話を大きくしていくアミ、本人が気になっているというわけではないのか?

 結局放課後になって帰り道の最中もその話ばかりでどうしようもなく。


「あれ、今日はまだいないみたいだね、中に入っていよっか」

「うん」


 たまにはアミの部屋に行きたい。

 そう言ってみたら了承してくれたので遠慮なく自由にさせてもらう。

 ただまあ、ユミさんが来たら流石に寝転ぶのはやめたけど。


「ちょっと転んでもいい? 今日は疲れたのよ……」

「いいですよー」


 なっ!? それでどうしてベッド直になるんだ!

 私だって遠慮してクッションを抱きしめながら床に転んでいただけなのに!

 それでもアミがいてくれるならって暖かい気持ちになっていたのにぃ……。


「ふぅ……ふふ、アミといると疲れが吹き飛ぶわ」

「え、えー、そうですかねー? それなら嬉しいですけど」


 あからさまに表情が緩んでいる。

 こちらがアミといると落ち着く的なことを言っても伝わらなさそうだ。

 それどころか「なに言ってるの?」と不思議そうな顔すらしてきそう。


「意外とあの学校で生活するのは大変なのよ、告白ばかりされるから」

「すごいです、私なんて同性からも告白されたことなんてないですよっ」

「いいことばかりでもないわよ。最悪、毎休み時間に告白されるのよ?」


 それは確かに疲れそう。

 想像しただけでうへぇという気持ちになる。

 こっちは休み時間ギリギリに呼び出されて告白されたことがあるからちょっとわかってしまうのだ。


「スズさんはどうなんですか?」


 そうアミが聞いた瞬間にユミさんが口を閉じる。

 明らかにやってしまった感が漂っているのにこの子ときたら笑顔で「教えてください」なんて言うし。


「それは今度本人に聞きなさい」

「それもそうでしたっ、今度必ず聞いてみます!」


 この子って実は天然だった?

 明らかに嫌そうな顔をしているのに。

 そのくせ、私が興味があるとかそういうこと言い出すし。

 確かに美人だよ? でもそれでもアミには敵わない。

 私にとってはアミが1番、お兄ちゃんが気に入っているのと同じこと。

 というかさ、本当はユミさんがスズさんを来られないようにしているのではないだろうか。

 これが2回目だからわからないだけ? ……思っていても言わないから安心してほしい。


「ウサ、なに突っ立ってるの?」

「えっ?」


 別にアミだからじゃないんだ、呼び捨てにするのって。


「あなたも来なさい」


 近づいたらそのまま優しく手を引かれた。

 ああ、横にいるのはアミじゃないけどアミのベッドだ。

 いつもこの子が寝ている場所、部屋よりもよっぽど――いや、普通にいい匂い。

 消臭スプレーとかまいてそう、別にそんなことしなくてもいいのにと思うのは……変態なのかも。


「あなた、さっきから難しい顔ばかりしているわ」

「私も同性から告白されたことがあるのでちょっとわかるなあと」

「それってアミから?」

「へ? あ、いえ違います、他の子ですね」


 女子バスケ部のエースの子からだったから驚いた。

 いやだって運動部のエースの子とかって男の子で同じような子と恋愛しそうだし。

 その証拠に中学生時代の部活仲間は常に彼氏が欲しいとか言っていたけどな。


「あのぉ、私だけ仲間外れですか?」

「そうね、私はウサと仲良くしたいの」

「えぇ……それならウサちゃんの家でやってくださいよ」


 うーん、アミにだけ興味があるけど隠しているだけだよね?

 それより小楠さんとはどうなんだろう。

 はっ! 逆に小楠さんからアミを遠ざけている可能性もある!


「冗談よ、あなたも来なさい」

「私もベッドなんで――きゃあ!?」


 ガーンッ、私とアミの間に壁ができました。

 そのためにわざわざ中央に移動し、しかもそのうえでアミを抱きしめているユミさん。

 これは明らかにそうですやん……この人がほいほい抱きしめるわけもないだろうし。


「どうしてそんなに縮こまっているの?」

「ひゃっ、み、耳元で囁かないでください!」


 なにこのプレイ、寝取らせているということ?

 もしアミが彼女だとしてさ、こんなところをこんな至近距離で見つめていたら血涙が出そうだ。

 でも、なんだかドキドキする、ずっと見ていたいと思えるようなそんな魅力があった。


「「抱きしめるのはやめてください!」」


 けれど言わなければならない、少なくとも小楠さんの正直なところを聞くまでは。

 だって私と仲良くしてほしいって言ってたんだよ? これじゃあ契約違反になってしまう。

 いまはもう脅してくるようなことがないってわかったけど、なんか傷ついてほしくないしさ。


「残念ね、それならやめておくわ」


 そのままベッドから下りて帰るとも口にした。

 長居してもあれだからと一緒に外に出る。


「寒いですね……」

「ええ、早く春になってほしいわ」


 私は1番秋が好きだ。

 本を読んでもいいし、とにかく空腹を感じたら食べ物を詰め込んでもいいなんて。

 それは春も同じだけど、あのなんとも言えない雰囲気が好きだった。


「なんであなたのお兄さんからの告白を断ったのでしょうね」

「本人曰く――」

「それは聞いたわ、けれど受け入れてみるのもいいわけじゃない」

「断っているあなたが言うのは矛盾していると思うんですけど」

「それを言われるとアレだけれど」


 いつまでも望月家の前で話していてもしょうがないから解散。

 家に帰ってすぐにやることはペットのハムスターに挨拶をすること。


「ただいま~」


 特につぶらな瞳が可愛い。

 あんまり触るとストレスになるから接触は禁止にされているけど。


「おかえり」

「ただいま」

「アミちゃんの家に行ってたんでしょ?」

「お兄ちゃんも行きたかった?」

「そうだね、恋愛感情云々は抜きにしても仲良くしたいから、それに沖くんとも話したいし」


 そういえば沖さんは帰ってこなかったな。

 普段あの時間なら家にいるから意外だ。

 もしかして彼女さんができたのかも、優しくてモテそうではあるからそれでも違和感はない。


「お兄ちゃんは小楠さんとユミさんのこと知ってるの?」

「え、誰?」


 知らないんだ、きっかけは沖さんということか。

 それでアミと出会ったって、私の時と同じじゃん。

 いつだって沖さんの存在が重要になるのかと私はいつまでもそう考えたのだった。




「今日も会えませんでした……」


 日記帳を棚に戻してベッドに転ぶ。

 いつの間にかユミさんの方がアミさんと仲良くしている気がする。

 忙しくなければ一緒にいたい、もちろんアミさんがそう思ってくれていたらの場合だけど。


「いいですよね……」


 会えないなら連絡ぐらい。

 大体、私には全く連絡してくれないのはおかしい。

 ウサさんと仲良くしてくださいとお願いしたことも守ってくれていないし……。


「もしもし?」

「あ、い、いま大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、後は寝るだけなので」


 うっ、そう言われるとあまり長時間話すことが不可能になってしまう。

 寂しいからといって後輩の女の子に甘えすぎる年上というのはちょっと。

 その点、ユミさんは普通に一緒にいるだけだから本当に取られかねないと、はぁ……。


「スズさん?」

「あ……今日はどうでした?」

「ユミさんが抱きしめてきて困りましたよ」


 なっ、なにもすることもできずに敗北する予感がした。

 どうしてそれを報告してきてしまうの……隠しておいてくれればいいのに。


「あ、あの、ユミさんにそこまで許しているんですか?」

「いえ、すぐにやめてもらいました」


 でも、どうせ普通に会うんだろうな。

 なんであの時の私は手を握らないでなんて言ったんだろう。

 正直に言って恥ずかしかったからだけど、言い方というのがある。

 その後も逃げるように別れちゃったし、あれじゃいいイメージなんて抱けない。

 私がそれをされたら傷つくのに、本当に考えなしだった。


「あの、この前はごめんなさい」

「え?」

「手を……」

「ああ、あれは私が悪かったですから、いきなり握られたら嫌ですよね」

「ち、違います!」


 ここで少しでも責任を感じさせてはならない。

 ただ恥ずかしかっただけなのに、そのようなことを考えさせてしまったのは駄目だ。


「わぁ!? み、耳がっ!」

「あ……」


 ごめんなさい……。

 こういうところを見せていたら益々、ユミさんのことを気に入ってしまう。

 ユミさんもいつの間にか気に入っているようだし、会っていない間になにが……?


「あの、今度は来てくださいね、寂しいので」

「わ、私も求めてくれるんですか?」

「元々、あなたから始まったことじゃないですか、そりゃ来てくれないと嫌ですよ。ウサちゃんとは仲直りしましたけど、あなたとユミさんもいて私の日常ですから」


 おかしい、明らかに。

 出会ってからすぐなのに、年上としてリードしなければならないのに。

 ただそう言ってもらえただけでかなり嬉しい、勝手に満たされてしまっている。

 助けてくれたのは沖くんだ。

 どうすればいいのかわからない私をあの場所から連れ出してくれた。

 普通なら、優しくしてくれた沖くんに惹かれているところだと思う。

 でも、なぜか妹さんの話になって写真を見せてくれた時、私は震えたぐらいだった。

 ある意味、沖くんと出会ったのは運命だったのではないかと。


「あのっ」

「はい?」

「……いまから行ってもいいですか?」

「え、危ないですよ、あ、それならちょっと待っていてください、家には最強の護衛がいますから!」


 最強の護衛とはお父様?

 え、い、いきなり挨拶なんてしたら「近づくな!」なんて言われかねない。

 通話を切られてしまったのでその先はわからず、そのためモンモンとした時間を過ごすことになった。

 終わったのは約20分後、外に直接アミさんが来てくれた時。

 横には眠そうな顔をした沖くんがいた、良かった、さすがにまだ早い。

 しかもユミさんに先を越されているという状況でできることではなかった。

 望月家へと向かう前にミカマルスーパーでお菓子を買うことになって。


「遅くまで話しましょうねっ」


 と、笑いかけてくれたアミさんの顔を本気で描いて残したいと思ったのは内緒にしておきたい。

 ひとつだけ安心できたのは本当に私にも同じような対応をしてくれるのだということ。

 ユミさんを贔屓しているわけではないとわかっただけで言って良かったと思えることだった。

 お風呂には入っていたため、望月家に着いたらお部屋にそのまま移動。

 あ、アミさんのお部屋……落ち着けと何度も言い聞かせなければ狂ってしまいそう。


「寒くないですか? 寒いならひざ掛けもありますよ?」

「それっていつもアミさんが使用している物ですか?」


 な、なに聞いているの!

 彼女のお部屋にある物なのだからそうに決まっているのに。


「そうですよ、嫌なら……」

「嫌じゃないですっ、貸してください!」

「はい、どうぞ」


 純粋に暖かった。

 かけてすぐに冷えた体を暖めてくれて助かった。

 意外と冷え性であるから感謝しかない。


「ふたりきりなのはあの時以来ですね」

「あ……そうですね」

「だから、こうしてふたりきりでゆっくり話せるのは嬉しいです」


 抱きしめたい気持ちをぐっと我慢した。

 ユミさんがしてもすぐに断ったと聞いたからというのもある。

 拒まれたら駄目になってしまうから。


「もう、スズさんっ」

「へ、ち、ちかっ!?」


 そんなに近寄っちゃ駄目……。

 そろそろ限界だ、自分の手を握っているだけでは抑えられなくなる。

 そんなことをしたら嫌われてしまう、我慢、いまはとにかくそれだけが重要だ。


「もう、さっきからずっとこっちのこと見てくれてませんよね、そういうのって傷ついちゃうなー」


 話してみるとわかる、こういう子と接するのは初めてだと。

 無自覚に相手をその気にさせてしまう恐ろしい相手。

 だからこそこちらは……ずっと苦しい思いをする羽目になるのだ。

 自分にだけしてくれるわけじゃない、大勢の中のひとりでしかないことに。


「え、ちょ……な、なんで泣いているんですか?」

「泣いて……いませんよ」


 それではただただ痛い女になってしまう。

 本当にこみ上げてこようとする涙を必死に堪えたのだった。

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