04
ウサちゃんとは話せなくなったけどスズさんとユミさんとは仲良くできていた。
休日に一緒にお出かけしたりなんかもした、その時に着てきた服が可愛くて物凄く癒えたぐらい。
さすがに毎日家に来ることはなかったものの、高頻度で来てくれていることには変わらず。
「アミ、これの続きはないの?」
「はい、まだ最新巻が発売していないんです」
その本はその巻が出てからもう3年が経過してしまっている。
ということはつまり、そこで終わりの可能性があるわけだ。
俺たちの戦いはこれからだENDでもない、なにか明確な区切りがついているわけでもない。
ただただ普通の日常シーンが終わってそのままだった、それはまるで私とウサちゃんのように。
「面白いのにもったないわね」
「色々な事情があるんでしょうね」
お金を払って買っていたのだから有りえないって思うけど、作者さんだって好き好んで自分の作品を中途半端なところでは終わらせたくなんかないだろう。
でも本当にいい作品なんだよなあと、モヤモヤするのは確かだった。
「ユミさんはスズさんと喧嘩したことってありますか?」
「ないわね、自分勝手に感情をぶつけてもいいことはないもの」
「それは自分だけで片付けられるということですか?」
「ええ」
私だったらやけ食いとかやけ飲みとかしちゃいそうだ。
それでも落ち着かなければ涙を流して時間に任せる、そうすれば意外となんとかなる。
そのうえでその話を兄や両親に聞いてもらえば完璧だった。
だけど、やっぱり人を頼らなければ私は無理そう。
すてきで格好いい人、私の理想と言える存在。
その人が自分の方から友達になってほしいと言ってくれたのは幸せで――って、この前も同じようなこと考えたなと苦笑した。
「そういえばアミは告白されたそうね」
「あ、はい、友達のお兄さんに」
「どうして断ったの?」
「……どうしても友達のお兄さんから変わらなかったからです」
初日に断っておけば良かった。
そうすれば変な期待すら抱けず終わるから。
夏津さんに意地悪をしたいわけじゃない、大切だからこそ対応をミスったなと考えている。
やはり非モテはだめだなとわかる1例だろう、慣れていれば断ることだって気にせずできるはず。
「ユミさんはモテますか?」
「同性から告白されることはよくあるわ」
や、やはりあの場所は男の子にとっての楽園のようだ。
年上の女の人と年下の女の子が仲良くして、ふふ、想像するだけですごい。
うーむ、でもその度に断っているんだろうなあ。
クールにごめんなさいと謝ってね、容易に想像できる、格好いい!
「私、ユミさんみたいになりたいですっ」
「そう、なら髪の毛を伸ばすことね」
「え、私も十分長いと思いますけど」
大体胸の辺りぐらいまでは伸びている。
冬は温かくていいけど、夏は大変暑いですはい。
「なら話し方かしら」
「こ、こうかしら?」
「ふふ、無理している感じが物凄く伝わってくるわ」
とはいえ、すぐに真似できるとすれば話し方ぐらいしか無理と。
今日1日限定で望月アミ、ユミさんバージョンでいることにした。
「あの、怒らないでくださいね?」
「急になに?」
「ユミ、送って行ってあげるわ」
「そう? それなら送ってもらおうかしら」
って、家なんて知らないんだけど。
無理したところで寒い思いをするだけだから聞いておいた。
するとスズさんの家の近くだということがわかった。
これは今後役に立つかもしれない情報だから知れて良かったと内心で笑う。
「そういえば今日、スズさんはどうしたの?」
「今日はすぐに家に帰ったわ、用があったみたいね」
怒られてないからと続行するのは違う気が。
結局すぐに「そうなんですね」と敬語に戻しておいた。
やはり年下が敬語を解除する際は本人に求められてからにした方がいい。
関係をずっと続けていきたいのならなおさらのこと。
「スズに興味があるの?」
「ユミさんとスズさんはふたりが一緒にいるのが普通のように見えるので」
というか、いまさら思い出したけどスズさんが言っていたことを守れてないなと。
だってウサちゃんと仲良くしてくれと言われたのにこれだ。
私にしかできないこととも言ってくれたのに、申し訳ないなあ……。
「スズの家は知っているでしょう? 行ってきたらいいじゃない」
「いえ、いいです、来てくれる時だけ対応すればいいと考えていますから」
私から友達になってほしいと言ったわけではないからこのスタンスのままでいい。
だからユミさんを贔屓しているわけでもない、来てくれているから対応しているだけで。
スズさんがいない時は暇だからと来てくれているんだろうし、悪くはないはずだ。
「それとも、私といられるだけでいいの?」
「ユミさんといるのは好きですよ、格好いいですしね」
「そう、ならこれからもあなたの家に行くわ」
「はい! それでは」
「ええ、気をつけなさいよ」
帰りは走って帰った。
ウサちゃんとはあんな感じだからこういうやり取りができて満たされていたから。
「ただいま!」
「お、おかえり、今日は元気だね」
「うん! 沖くんも元気そうで良かった!
これだったらなんでも頑張れちゃうぞぉ! と意気込んでいた私。
が、翌日もその翌々日もふたりが来られないことがわかってすぐに沈む羽目になった。
いや待て、こういう時にしかできないこともある。
「ウサちゃん!」
ひとりのところを狙った。
当然、彼女は発言通りに逃げようとする。
視線すらこちらに向けずに頬杖をついて私とは逆側を見ている彼女。
諦めないよ、このままじゃスズさんだって満足できないだろうし。
いや違う、やっぱり一緒にいられないと嫌なんだよ!
「……小楠さんと仲良くしてるの?」
「え、あー、どちらかと言えばユミさんとかな」
「は? 誰それ?」
「スズさんのお友達さん」
大きいため息をついてから私の腕を掴んで教室から出る彼女。
「今日会わせなさい、いいわね?」
「あ、ウサちゃんもユミさんのモノマネ? 格好いい――」
「いいから、必ず守りなさいよ」
ちょうどいい、だって私が会いたいもん。
そのうえでウサちゃんと仲良くできるなら最高だろう。
こんな機会は早々ない、大切にしなければならない。
メッセージを送り、しっかり通信がオンになっていることを確認してから電源を消した。
放課後までいつも通り真面目に授業を受けて、今度は私が逆に腕を掴んで外に出る。
「集合場所は?」
「私の家かな」
「は? まさか家教えたの? はぁ、もっと気をつけなきゃだめだって!」
「ふふ、優しいんだね」
「ばっ……」
それにしょうがないんだ、だって教える前に向こうがわかっていたのだから。
恐らく兄が影響しているのだと思う、困ったことがあったらいつでも来てとか言っていたんだろう。
他の子にはとにかく甘いからつけ込まれるしまうのではないかと妹としては結構た大変なわけで。
「こんにちはー」
「あ、こんにちは!」
家の前にいたのはスズさんだった。
どうやら兄が既にユミさんを家の中に入れているらしい。
寒いから外で待っていたくはなかったみたいだ、その気持ちはよくわかる。
とりあえず3人で中に入ったら、最強家具のコタツ内に入って寛いでいるユミさんが。
スズさんがそれをからかう、が、ユミさんは至って大人の対応を見せた。
暖かいところを求めてなにが悪いの、と。
「あ、ユミさん、この子がこの前言っていた子です」
「そう」
ユミさんはすぐに興味を失くしたのかスズさんと話し始めた。
隣にいるウサちゃんは先程から黙ったまま、もしかして綺麗すぎたか?
それかもしくは一目惚れでぼへぇと眺めているのか、どちらにしても悪くないよね。
「アミ、あなたも入りなさい」
「はい」
立ったままだと寒いだろうからとウサちゃんも無理やり入らせる。
それにしても気になるな、目的は達成されたのだから反応ぐらいしてもいいと思うけど。
いや、私が馬鹿だったのかこれは。
「ウサちゃん、この人がユミさんだよ」
「……わかってる、アミに呼ばれて反応してたし」
「あ、そうだよね」
一緒にいても全員で盛り上がるわけじゃない。
私たちはほぼ必然的にふたりが仲良くしているところを見ているだけだった。
その内、スズさんが母に呼ばれたとかで帰ってからもあまり変わらず。
「あなたのことはスズから聞いているわ」
「…………」
「あなたのお兄さんがアミに告白したそうね」
「…………」
ガン無視、惚れたとかではなさそう。
なぜなら表情が物凄く堅いというか、怒っているようにも見えるからだ。
それでもユミさんが怒るようなことはなかった、そのままずっと言いたいことを言うだけ。
なんのために私たちは集まっているんだろうという気持ちにさせてくれる光景。
「どうやら嫌われているようね」
「……あなたもアミに興味があるんですか」
「ええ、興味があるわ、そうでもなければわざわざ来たりしないもの」
寧ろそう言うウサちゃんはもう私には興味すらないと。
兄に用があると家に来たのがきっかけだった。
最初から兄と夏津さんは知り合いだったから彼女とも接点があったんだと思う。
友達になってもらってからは色々なことがあった。
夏津さんと喧嘩したから家に泊めてとか、たまには家に泊まりに来てとか、私が嫌いとかってぶつけてきて喧嘩になったこともある。
まだ関係が続いていたのは兄妹揃ってふたりが優しかったから。
それはつまり我慢させてしまっていたということでもあるのに私は全くそういうことを考えていなかったというのが実際の話だった。
だから逆に今回のこれを好都合に感じたのだろうなと私は判断したわけだが、どうなんだろうかね本当のところは。こうして来ているということはそうじゃないのかな?
「アミは私にとって大切な存在です、決して傷つけるようなことはしないでください」
「しないわよ、そんなことをしても自分も嫌な気分になるだけじゃない」
「……それならいいです、先程は無視してすみませんでした」
大切、ウサちゃんにとって私が?
かなり嬉しい発言ではあるが、勘違いして甘えすぎてしまうと負担をかけてしまうことになる。
それに彼女は事実、他の子を優先することが多い。
勘違いするなということと、本当に一緒にいたい人といてほしい気持ちによってなんとか押し留めた。
「その割には別行動をしているようだけれど?」
「うっ……それはアミがあなたたちと仲良くするからです」
「どうして駄目なの?」
「だ、駄目というわけではありません、ただ……」
「ただ?」
ユミさんは相手から引き出すのが上手い。
こうなったら絶対に勝てない、こうならないようにしなければ。
「い、言う必要ありますか?」
「あるわよ、だってひとりでは気になるでしょう? 大切とか口にする割には行動に矛盾が生じているじゃない、本当に大切ならできる限り一緒にいてあげなさい」
「だって……」
最近はそうでなくてもその頻度が高くなっただけ。
彼女にとっては普通に生活しているだけに過ぎないわけだ。
だからこそどうしたって納得できなくてこういう反応になると。
私はそこを責めようとは思わない、たまにでも相手をしてくれればそれで良かった。
あくまで友達でずっといたいんだ、すぐに諦めてしまったけどそれだけが願いである。
「よし、今日はもう帰るわ」
「送りますよ」
「いいわ、たまにはゆっくりふたり話しなさい」
ふたりでって……そうやって改めようとすると言葉が出ないんだけど。
しかも彼女は別に以前までに戻すなんて言っていない。
結局いつもの他人の前ではという可能性だってあった。
そのうえ、今日の目的はあくまでユミさんに会うこと。
本人が消えてしまったここにいる理由が失くなってしまう。
そうしたらまた……。
「アミはまだ友達でいてくれる?」
「いや、それはこっちの……」
「私……もうアミにとって不必要な人間になったかなって思ったの」
なんでそんな不安を抱く必要があるのか。
スズさんやユミさんと一緒で私から友達になってほしいと頼んだのに。
切るか、続行するかを選ぶのは彼女の方だぞ。
「え、でもさ、ウサちゃんはよく他の子を優先していたでしょ?」
「だって……アミに切られたらひとりになっちゃうでしょ? だから友達を必死に増やしてたんだよ」
ひとりって、だからそれもこちらのセリフ。
しかも自分から動かなくたってみんながら「ウサちゃん」って近づいて来てくれるぐらいなのに。
「私、アミといたい」
「えぇ、一緒にいたいって言ったのに断ったのはウサちゃんだよ?」
「……嫌なの?」
「いや、嫌じゃないよ、嫌なわけないでしょ」
あのふたりに会えない時はやはり寂しくなる。
そういう時に利用するわけじゃないけど、ウサちゃんといられたらいいと思った。
先程ユミさんも言っていたことでもある、ひとりは寂しくて嫌なんだ。
特にいまみたいな冬はそう、帰っている時とかもなんか神妙な気持ちになってしまう。
大好きな家にいて両親や兄といられても。
「……ん」
「え?」
「仲直りの握手」
「あはは、うん、ぎゅー」
よし、ユミさんのおかげでウサちゃんとも関係を戻せた。
やはり凄く嬉しくて、その日は彼女に泊まってもらったのだった。




