不器用な男は嫌いじゃないぜ(side 四天王視点)
俺はウーヴェ。
火の魔王様に使える四天王の一人にして、魔装鍛冶師の異名を持つ。
今は青の賢者シアンに協力しています。あの方は、なかなか鈍い方のようで火の魔王様と仲良くなって欲しいものです。お妃になっていただければ、火炎の国、世界も支配できそうです。
って俺一人だとこの口調疲れるから、普通にやるよ?
シアンが刀鍛冶をするために、実験場を兼ねた施設を作りたいと言ったわけ。
俺も賛成だし、俺が指揮するなら砦も欲しいところ。なかなか良い土地見つけるじゃないの。さすが賢者。
今二人は場所の見聞に行っているんだ。だが、俺は国境を守るためにここを離れるわけにはいかない。
数日に一回は少人数だが獣魔のクソ野郎どもが攻めてきやがる。
「いいこと思いついたのです」
賢者がこういうとき、だいたいろくでもないと後輩のローレに聞いた。
「この宿に求人票を貼りましょう。そして冒険者を募集するのです」
え。そりゃたまに冒険者くるよ? でもこれはねーだろ。俺はシアンが作った張り紙をみて声を失ったのだ。
【急募】
火の国四天王に匹敵する冒険者のあなた!
宿屋を経営してみませんか?
様々なサポートもありますよ!
とにかく必要なことは国境を守れる実力です!
我こそはと思う方は賢者シアンか四天王ウーヴェまで。
ぺろりと舌をだした自分のイラストまで添えてやがるよ。絵、うまいけどな。水着の自分描いてんじゃねーよ。これ可愛いな、おい。
って来るかー!
四天王っていったら、この国で上位五位よ? 一位はもちろん火の魔王様で。残り俺ら四人がどんぐりのせいくらべって感じ?
四天王最弱のフラックはさすがにちょっと弱すぎたけど、普通の魔族より強いのよ? あいつ。
最弱でも募集で来るレベルじゃねーよ!
普通の冒険者でいえば中ボスかエリアボスだよ?
ローレも顔が引きつってたよ。
それにあれよ? 求人って募集するのは簡単だけど、断るのも気を遣うんだからね? わかってるのかよ、シアン。
『お断りします』っていったら、目の前の求職者が闇墜ちしそうな顔になるんだよ?
「あの、この求人を」
っておい! もうきた! 誰だよ? 俺の背後取るとかただものじゃない。気配なかったよ。こえーよ。
顔半分が前髪で見えない、だが見るからに凄腕の剣士らしい男がそこにいた。
イケそうか?
「面接ですね。それでは伺いましょうか。私がウーヴェです」
宿屋の主人モードに切り替えるぜ!
椅子を勧め、早速誰もいない宿屋内で面接を開始する。
「あなたの名前と職業と年齢、今回の応募にいたってのアピールポイントを教えてください」
「俺の名前はエティ。職業は剣士で年齢は25。アピールポイントになるかはわからないが、オーガロードぐらいなら一撃で殺せる」
「一撃? マジで? って。えっといけません。エティさんですね。少々お待ちください」
あのタフいオーガロード一撃は俺でも難しい。話盛ってるタイプ? でもそうは見えないな。ぐらい、だし。
聞いたことあるぞ。剣士エティ。エティ……
剣鬼エティじゃねーか!
確かブラックドラゴンの迷宮を単身突破した、規格外の剣士。魔王様が戦いたがってた一人!
なんで宿屋の主人の面接にきてんだよ? 本物の剣鬼エティなら、俺よりぜってーつえーぞ。
「質問ですが、ブラックドラゴンの迷宮を単身制覇したことはありますか?」
「三年前に少々」
本物だよ……
「仕事はこの宿の経営と、国境に迫り来る獣魔の掃討です。獣魔に国境を抜けられては困ります。よろしいでしょうか」
「問題ない」
ないだろうな!
「一つだけ懸念が」
「どうぞ」
うむ。求職者も自分の要求はいってもらわないとな。弊社はブラック企業ではないからな!
給料か? 給料なのか! そりゃ剣士エティなら、多少ふっかけられても仲間にしときたいところだな。
今、そんなに金ないけど。
「あの俺、口下手で。接客得意なサポート人員が欲しい…… ダメか……?」
あー。なる。口下手そうだもんなー。
「サポート人員守る自信はありますか?」
「獣魔100人ぐらいまでなら守れると思う。それ以上は守る人員と敵の人数次第」
無責任に守ることができると断言しないところに好感がもてる。
自分を客観評価できるこの男、間違いなく強い。
「では獣人族の若い女性を数人呼びましょう。これでよろしいでしょうか?」
「ありがとう。あらゆる侵略者を皆殺しする所存」
剣士が深々と頭を下げた。
やる気すっごいよ、この人。ちょっと怖いよ。
「私からの懸念もありますが、確認よろしいでしょうか」
おっと大事なことを聞くのを忘れていた。
「なんでも聞いてくれ」
「人間のネムス王国や勇者と敵対することになる可能性があります。その覚悟は?」
「勇者をぶん殴ってきたので、そこの心配は無用。ネムス王国が攻めてきたら、こちらも皆殺しにする」
エレクセレント!
パーフェクトな求職者だ!
俺が心配することじゃないんだけど、勇者っていったいなんなんだろうね?
「あの? 殴った理由を聞いても?」
「青の賢者シアンの敵」
ん? この人もシアン大好き? もしくは心酔している系か?
こういうのは、見抜くの得意なのよね。
確認はしとく。ストレートに聞いたりしないぜ?
「青の賢者シアン様は大変素晴らしいお方です。我ら避難民一同大変救われておりますし、シアン様を慕っておりますよ。それは良いことをしましたね」
丁寧に褒め讃えてみた。事実でもある。
うわ。剣士エティ。凄いいい笑顔になったよ!
男が惚れそうなレベルで!
心酔系だ、これ間違いない。女性への思慕とかじゃないっすわ。
「わかりますか? みんなに慕われているということは良いことです。シアンは火の魔王に会いたがっていた。だから勇者パーティーに紹介したんですが…… 勇者がとんだゲスでな」
シアンがみんなに慕われているという事実が嬉しかったのだろう。この寡黙な剣士がここまで語るのは珍しいに違いない。
「無理に敬語使わなくていいですよ、エティ。あのゲスは敵です。次シアン様にちょっかいだすようなことがあれば、一緒に殺りましょう。私たち二人でお守りせねば」
またいい笑顔になったよ。
会ったことないけど、勇者ごめんな。こういうとき話し合わせとくのがいいのよ。君、マジでゲスいのは聞いてるし。
次俺らとあったとき、多分勇者命ないから。マジごめん。
大切なことも判明した。
この男、シアンが火の魔王に会いたがっていると知っていて、積極的に協力しているということだ。
仮に恋愛感情をもっていたとしても、シアンの気持ちを優先することができる男、ってことだ。
みんな不器用すぎだよ。
ちょっとお兄さんさみしくなってきたよ。でも、嫌いじゃない。
「合格です。よろしくお願いします」
「なんというか、あなたとはうまくやっていけそうだ」
「私もです。今シアン様とプロジェクトを進めております。是非あなたもそのメンバーに」
絡めとこ! 今のうちに絡めて懐にいれておこ!
「その一端に加えてもらえるなら、この命惜しくはない」
間違いなく、シアンがこちら側の人間なら裏切らないわ。この剣士。
ていうかうちの四天王にならないかな? ちょうど一人抜けたし。勧誘はまだ早いか。
こうして俺は残党軍の指揮に専念できる状況になったわけだ。宿屋の主人からも解放される! 鍛冶もできる!
超戦力ゲットだぜ!
いやっふう!




