殺し文句はお兄ちゃん!
調査から宿屋に戻った私は、思いがけない人物と再会した。
「エティ! あなた何故ここに!」
「シアン。元気そうでよかった」
私の恩人、エティが宿屋にいたのだ。
ウーヴェに聞くと、どうやら国境を守る仕事を彼が引き受けてくれたらしい。
心強い。誰よりも安心できます。
「シアン、教えてくださいな。この方はシアンの友人ですか?」
「この方は剣士エティ。私が一番信頼している、兄のような人。エティ、このエルフのローレは私の古い友人で仲間よ」
「エティだ。よろしく」
「シアンの一番信頼できる人って凄いですね! よろしくお願いします!」
エティのほうが先に手を出し、二人は握手していた。
エティと私は、絶望的な戦いを共に生き延びた戦友です。
十歳の時、神官の最後の試練として戦女神に魔物の【大暴走】を鎮圧せよ! という啓示が下されたのです。今思うと無理ゲーですよね。
攻撃魔法は生前のものがそのまま使えるものの、MPの最大値がまだまだ低い私には苦戦が必至でした。
そんなとき、私を助けてくれたのがエティなのです。
彼もまた、配下の騎士を逃し、単身【大暴走】に立ち向かおうとしていたのです。エティも無茶やるんですよね。
しかもネムス王国は救援も出しませんでした。孤立無援の騎士。それでも皆を守ろうと決死の覚悟をしていたのです。
私たちはお互い背を預け、あの戦いを生き延びた。私一人では絶対無理でした。この凄腕の剣士、エティがいたからこそ乗り越えることができたのです。
私がMPを回復する間、彼はずっと私を守ってくれて。彼が傷ついた時、私が癒やしたのです。
凄腕の騎士と甘いロマンス? あーないない。そのときの私十歳ですよ?
「シアン。水着、その……似合っているな」
「ありがとう!」
エティが褒めてくれた。素直に嬉しい。彼は私のことを痴女とか変な服装とかいわないのです。
「あと、謝らないといけないことがある…… 勇者のことだ。知らなかったんだ、あんな屑だと」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるエティ。
ちょっとまって! あなたは悪くないんですからね!
「エティ! 頭を上げて。あなたは悪くないですよ! 将軍のお願いでもあったんですよね?」
「それもあるが…… 勇者と一緒にいれば、シアンが火の魔王に会えると思ったんだ」
「ありがとう。あなたのおかげで、火の魔王に会えました」
そっか。火の魔王に再会したいという私の夢、覚えていてくれたから紹介してくれたんだ。
勇者なら魔王討伐は避けられませんからね。
エティは私のことをいつも考えてくれる、本当にお兄さんだ。お兄ちゃんって言いたいぐらいです。今がチャンスなのかなっ!
「魔王討伐は心配していなかったんだ。聞いた話、魔王がお前を殺すとは思えないし、勇者が手に負える相手でもないのはわかっていた」
「読み通りです。相変わらず、戦いに関しては鋭いですね」
「勇者にいじめられたりはしなかったか?」
「押し倒されたけど、絞め技で落として貞操は守りました…… ってエティ! 落ち着いて!」
しまった!エティは私のことになると、我が身より激怒するんでした! 久しぶりだから忘れてた!
ちょっとしたぼやき兼笑い話のつもりだったのに。
エティの髪の毛が怒りのあまり逆立っています。リアルの怒髪天って奴です。ローレがガチでひいてるから!
「……」
これあかんやつや。
エティ、怒りのあまり声もでなくなっています。ちょっとしたぼやきが勇者の危機になってしまいました。いや、根には持っているんですけどね。
「エティ。落ち着きましょう。今はここにいるシアン様をお守りすることに専念をするほうが大切では? 勇者は後日、我々が八つ裂きにいきましょう」
さすがウーヴェ。口先が上手い。にっこり笑ってエティをなだめます。
「あ、ああ。そうだな。ウーヴェの言うとおりだな。シアン、何か困ったことがあればすぐに言え。――八つ裂きは後日念入りに、だな」
「はい。死なせてくれと泣き叫ぶような」
「うむ」
ウーヴェがフォローをいれてくれました!
エティの扱いにさっそく慣れるというのは、さすが四天王です。勇者の八つ裂きは確定事項のようです。
それでいいのかって? ノーコメントでお願いします。
「私も初耳でした。勇者、聞きしに勝る屑ですね」
ローレも呆れています。そこは否定しません。
「それな。エティさんも色々あったらしいし」
ウーヴェがローレに話している。
「エティ? 私のせいで何か迷惑が?」
「迷惑なんてない。ネムス王国には愛想が尽きた。シアンに申し訳なさすぎるんだ。むしろ、シアンと合流できて嬉しい」
私もネムス王国には戻る気全然ないので、問題ないですね。エティを巻き込んでしまったのは申し訳ないですが……
きっとあの国にいるよりはいいのかな、とも思ってしまいます。
最初会ったときも、穿った見方をすれば捨て駒にされてましたからね。
「あなたが国境を守ってくれるなら、安心できます」
「任せろ」
そういってくれたエティの顔をじっと見詰めていた私は、思いきって言ってみた!
「やっぱりエティは私の頼れるお兄ちゃんですね」
ちょっとこのタイミングでお兄ちゃんと言ってみます。くすっと笑ってしまう。私も少々照れくさいのですよ。
でも仲のよい人に対しお兄ちゃん呼びは普通ですよね。
よし。顔を真っ赤にして照れてはいますが嫌がってないですね。たまにそう呼びましょう。
「火の魔王が失踪し、この国は侵攻されているんです。魔王を探し、皆を守りたいのです。エティ、力を貸して」
「最後まで付き合うさ。安心しろ」
頼もしい人が味方になってくれました。
順調です!
そして私のしらないところで、また盛り上がっている人たちがいたようです。
◆ ◆ ◆
「お兄ちゃん…… 俺がシアンの頼れるお兄ちゃん」
「良かったですね、エティ」
「ありがとうウーヴェ。君が俺を拾ってくれなかったらこんな奇跡無理だった」
「奇跡なんかじゃないですってば! シアンのあの信頼は本物ですよ」
「もういっそ、四天王になって欲しいですね、ね。ローレ」
「四天王か。それもいいな。火の魔王と妃シアンを守る四天王。悪くない」
「!」
「ちょ!」
「何を驚くローレ? 16歳のシアンの古い知り合いというと、前世からの付き合いということだろ? あの娘は前世から火の魔王が好きだったようだ。本人はにぶいから気付いていないが」
「前世のことまで把握しているの?! 切れ者すぎです。エティさん。さすがシアンのお兄ちゃん……」
「戦いには勝利条件というものがある。俺の勝利条件はシアンの幸せだ。その最適解を追求すれば、自明の理」
「納得です。そして私の望みも火の魔王と妃シアンの実現でして」
「私もー! シアンには幸せになって欲しいし!」
「なんだお前ら。ただの俺の仲間か」
「はい。仲間ですよ」
「なかまですぅー!」
「これからもよろしく頼む」
「こちらこそ。よっしゃ。今から仲間同士の宅飲みしよう。準備だローレ!」
「はいな!」
「仲間はいいものだ、な……。ネムス王国だとそんな存在いなかった。ここは、良い場所だ」
◆ ◆ ◆
私が翌朝目を覚めると、どうやら昨日は皆で酒盛りがあったようです。酔いを翌日に残していないのはさすがです。
三人で仲良く片付けしているのですが……
エティとウーヴェはわかるんです。ええ。
なんでエティとローレまで仲良くなっているんですか! 彼は女性が苦手かつ超がつく人見知りですよ!
この宿、私が知らない間に色々起きすぎです!




