熱いたい焼きの温度(お題:たい焼き、成人の日、カラオケ/著者:ゆりいか)
めでたい日には鯛を食べて願掛けする。というジンクスが日本にはあるわけで。
しかし、この1月はまだ鯛のシーズンではないので、買うのははばかられる。
なので、手軽に食べられるたい焼きを、成人式の会場近くの屋台で買ってかぶりついた。
「成人になってみたはいいけど、なにが変わったのかな?」
「なにも変わってないんじゃない? こんなおべべ着て、ね。親に買ってもらった物着てる次点で、大人じゃないよ」
俺は背広に身を包み、隣の幼馴染は振り袖ばっちし極めている。
こうやって立派な服を着てみたはいいものの、お互い大学生なので絶賛モラトリアム中だ。
「もう、この歳で働いてる子がいるのに。軽いバイトしかしてない俺らってなんなんだろうか」
スーパーの品出しのアルバイトで小銭しか稼げていない自分。もちろん、ちゃんと大学で勉強してるけど。
それは、隣りにいる幼馴染も同じくで。子供のままの関係もそうだけど、大人っぽさとはお互い無縁だ。
「いいんじゃない? あんまり気にしても仕方ないし」
「それもそっか……」
きっぱりと言われてしまうと、俺はなにも言えなくなる。
けれど、成人になったのだから、それ相応に男になってみたいと思うのも当然なのかもしれない。
「あのさ、馴染。俺、言いたいことがあるんだけど」
「改まってなんなのさ?」
「こう、20年も一緒にいるわけだから……その」
こんなハレの日に告白をしようと、ずっと考えていた。というか、タイミングをずっと逃していた。
だから、この際思いっきり言っていしまおうかと決意していた。うん、ここは度胸の見せ所。
「あんたって、たい焼き食べる時はいつも頭から食べるよね?」
「え。うん、そうだけど」
「頭から食べる人って、くよくよしない人らしいよ。今のあんたはどうなのさ?」
ちらっちらと俺の横顔を見る幼馴染。これはもう、あれなのだろうか。振ってくれているのだろうか。
「その、……お付き合い、願えんでしょうか?」
ぼそぼそと小さい声で言うしか無かった。けれど、これは幼馴染が告白しやすいようにしてくれたから言えた。
「とりあえず、カラオケに行こう。うん、付き合ってもらおう」
その言葉は幼馴染なりのごまかしなのかもしれない。けど、OKを貰えたってことでいいんだよな。
「いやはや、あっつあつだね。うん」
「な、なにが?」
「たい焼きのことに決まってるでしょ? それとも、あんたの真っ赤な顔?」
くすりと意地悪く笑った幼馴染は先へ先へと歩いていく。それに追いつこうと歩きを早める。
相も変わらず幼馴染は俺より大人で、成人になった今でも俺は子供の頃のままなんだと、少し笑えてしまった。




