溶けてく吐息(お題:ココア/著者:髭虎)
降りしきる雪に、吐いた息が白く絡まって溶けていく。
近所のスーパーのレジ袋を片手に、俺はようやく見えてきた自宅の玄関へと足を早めた。
「ただいまっと。ふぃ、寒ぃ寒ぃ」
ドアを開けた瞬間、ムワッと薫る温かい空気。自分の家という安心感。
時間にして数十分ほどではあるが、こう寒いと短時間の外出でも、あぁやっと帰ってこれたという感慨があるものだ。
そんな疲労感にも似た感覚に浸っていると、リビングの方から間延びした声が返ってきた。
「おかえり~」
「ったく、人に買い物行かせといて自分はコタツかよ」
「まぁね~」
コタツで伸び切った女に声を掛けながら、俺もいそいそと彼女の隣に腰を下ろした。
「うわっ、なんでわざわざ横に来るんだ貴様ぁ~。冷気が寒ぃ~」
「俺の苦労を少しは味わえッ」
そのまま冷たくなった手を背中に突っ込んでやると、飛んできたのは労いの言葉ではなく顔面への拳であった。解せぬ。
「で、ちゃんと買ってきてくれた?」
「ほらよ」
「おぉ、ありがと~」
頼まれたココアと牛乳を取り出して見せる。たったこれだけを買いに行かせた彼女への怒りもあるが、ゆるい笑顔と感謝の言葉一つでそれが溶けていくのだから、これが惚れた弱みというのだろう。
「じゃあ、さっそく作って~」
「はいはい、言うと思ったよ」
しぶしぶ台所へと向かい、お湯を沸かす。
彼女用のコップと自分のものにココアパウダーを入れて、出来上がったお湯を少量注ぐとスプーンでかき混ぜた。あとは牛乳を入れて電子レンジでチンするだけ。
茶色いココアに白い牛乳が溶けていくのを眺めながら、俺は少し笑ってしまった。
こんなに他人の世話を焼くようになってしまったのも、きっと彼女に惚れてしまったせいだろう。
電子レンジにコップが二つ。ぐるぐる、ぐるぐる、回りながら温まる。熱くなる。
「おーい、できたぞ」
「おー、ありがと~」
にへら、と笑う彼女に、俺もつられて頬を釣り上げる。
「あり? なんで笑ってんの?」
「お前が笑ったからだろ」
「変なの」
「お前もな」
冬は嫌いじゃない。彼女と飲むココアが美味いから。
「ふぅ~」
「ふぅ」
ココアを一口。ほっと吐き出した俺たちの息が混ざり合って溶けていった。




