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選んだお題で千文字ワンライ!  作者: アマチュア小説家同好会
五周目(お題:『文字』『砂糖菓子』『シュレディンガーの猫』)/日付:2018/12/1)
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極めて小規模な文学(お題:文字/著者:ゆりいか)

 僕のクラスにいる藤宮さんは言葉を話すことが出来ない。心因性のものらしい。

 コミュニケーションには困っているみたいだ。誤って、現国の授業で教科書を読ませられそうになるとか。

 一応、文字でのコミュニケーションは出来るので、僕たちは特に問題なくお話をしたりする。

 

「今日も愚痴を聞いていたの?」


 藤宮さんは話すことが出来ないから、色んな人の愚痴を聞くことが多い。

 なぜかって? 藤宮さんが愚痴の内容を話すことが無いからだ。いや、出来ないから。

 

『うん、みんな色々抱えてるみたいだし。私で良ければ全然』


 いつも持ち歩いているクロッキー帳に文字が書き込まれていく。とても美しい文字。

 無責任な愚痴に対して、藤宮さんは諦観を決め込んでいると言うか。人柄がいいから道具として使われてるんだ。

 ストレスのはけ口として藤宮さんを使うのは、僕としてはあまりよろしい気持ちにはなれない。

 

『愚痴ってやっぱり溜め込んでもいけないし。それに、人の話を聞くのは好きなんだ』


 イエスかノーかなんて、彼女はそれすら言うことは出来ない。だから、遠慮なく話せる。

 相槌を打って人の話を聞き続けることが、どれだけ億劫なんだろうと邪推してしまう。

 

「藤宮さんはとっても字が綺麗だよね」


 書道でも全国レベルの腕を持っている。彼女の才能の1つだ。


「字はその人の心の綺麗さを表すらしいね。僕は藤宮さんはとっても優しい人だと思うよ」

『そんなことないよ。でも、ありがとうね』


 ニコリと笑う藤宮さんの顔は枝垂れ桜のように綺麗だ。

 柔和な笑顔はとても自然で、藤宮さんはやっぱり優しい人なんだと確信する。

 

「もし、言葉が話せることになったら。藤宮さんはもう愚痴を聞いたりしないのかな?」

『……分からない。それでも、聞いてほしいのなら、私は構わないよ』


 内緒にするのが前提で藤宮さんは愚痴を聞いている。もし話せるようになったら……口封じをされるのかも。

 それでもなお、藤宮さんが愚痴を聞こうと思うのは、きっと心の傷の痛さを知ってるからなんだと思う。

 痛みを知ってるから、とっても優しいんだろう。

 

「藤宮さんの文字が見れなくなったら、それはちょっと寂しいかも」

『私にとって文字は便利な道具だと思ってる。こうやって書き続けると、まるで私はちょっとしたエッセイを書いている気分になれるのよ』


 言葉が話せない藤宮さんにとって、美しい文字が人生を紡ぐただ1つの道具かもしれない。

 人の話を聞いて自分の世界を膨らまし、それを綴っていく。

 藤宮さんは極めて小規模な文学を描きながら、この世界で生きているんだと僕は思った。

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