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ナイト・チルドレン  作者: けふまろ
東風谷の初恋の少女
28/40

彩子と東風谷の行方。

 彩子と東風谷が揃いも揃って行方をくらました。

 そんな情報を聞きいれたのは、杏梨が「急にスクールカースト頂点の女子達に喧嘩を売って、挙句の果てに叫んだ頭おかしい小六女子」と語り継がれて早二週間経った頃だった。

 杏梨としては、彩子ともう関わることはないだろうな、と感じていた頃だった。オジサンと彩子の関係も、結局「お小遣いくれるオジサンでしょ」という立ち位置で迷宮入りしたし、彩子は杏梨が爆発したあの日から仲間外れにされることがなくなったという。その点は杏梨に感謝していたと透が言っていたのだ。その点は、ということが微妙に失礼だと感じていた杏梨だが、気にしないことにしていた。

 彩子の事件が一件落着し、これで一安心だ、と語り継がれていることを知らない杏梨が、お風呂上りにベッドの上でスマホで動画を見ていた時のこと。

 いきなりLINEから「ブーブー」と着信音が鳴ったのだ。

 差出人は友実から。


『東風谷と彩子さんがいなくなったって』


「…………はぁっっっ!?」

 動画を見ながらいきなり飛び跳ねたものだから、机の上で勉強していた海翔が、「るっせぇ杏梨! 動画ぐらい黙って見ろよ!」とこれまた杏梨よりデカイ声でしゃべる羽目になったのだが。

(兄ちゃんの方がうるさいんだよ! 勉強ぐらい黙ってしろよ!)

 そう言い返したかったが、杏梨は友実の送ってきた文面に、目を離せないでいた。

 続いて、里桜、咲希からもLINEが来た。


『東風谷と彩子さん、いなくなったらしいよ!』

『大丈夫? 杏梨』


 最初に送ってきたのは咲希、続いて送ってきたのは里桜だ。

 活発系と天然系、何故この二人が一緒に行動しているのか不思議でしょうがないが、今はそんなこと気にしている暇などないだろう。

 杏梨は急いで友実に送った。


【マジで言ってる!? ドッキリとかじゃないよね?】

『マジで言ってる。透が騒いでたから』


 透はどうやら、彩子から「お姉ちゃんは今から遠くへ行きます」とメールが来たらしい。

 そして東風谷は、朝、隣のベッドに弟がいないことを不審に思った祐真が友実達に連絡してきたらしい。

 そこでこの事件は発覚したらしく。

(……まさかの、まさかの駆け落ち!?)

 想像力の欠片もない杏梨の脳内からは、そんな考えしか出てこない。

 頭をがしがしとさすり、「あー」と声に出してみる。今度は海翔も相手にはしなかった。

「……どうしよう」

 杏梨が呟いても、海翔は相手にもしない。

(とりあえず、今後どうなるんだろう)

 杏梨がそう思った次の瞬間、タイミング良く、友実から『今から探しに行く?』とLINEが来た。

「……え? 今から?」

 そう言うと、海翔は「今からって何がだ」と気になった様子で振り向く。

(やっと食い付いたか。兄ちゃんめ)

 絶対教えないがな、と思いながら杏梨は【私は大丈夫】と送る。

 すると友実からも返信が返ってくる。


『皆、今から行きたいって言ってる』


(皆自由すぎだろ)

 杏梨はツッコミを入れながら、改めて年下の団結力の強さを感じた。


【ノリ良いね】

『全ては恋のためやろ』


(あえて誰の恋なのかは触れないのね)

 杏梨の恋なのか、はたまた友実の恋なのか。言わないところがまた不思議だ。

「……よしっ」

 杏梨はベッドから飛び起き、窓際にかけてあるハンガーからジャージを取る。

(今から、東風谷と彩子さん救出作戦、開始だ)

 杏梨はトイレに行くフリをして、部屋を出る。

 杏梨の父親は会社にいるし、母親は台所で音楽を聴きながら鼻歌を歌っている。子供がいるのにそんな大きな声で歌って、恥ずかしくないのかな、と思いつつも、聞こえてないだけマシだ、と杏梨はサンダルを履きながら思った。

 ガチャ、と玄関のドアを開けても、「どこに行くんだ?」という呼びかけは来ないままだった。


 もうすっかり肌寒くなり、ジャージだけでは心許ない季節となった。

 今いる場所は、東雲公園。外灯が杏梨の足元を明るく照らしてくれる。

 もこもこ素材のルームウェアに身を包んだ杏梨にとって、この寒さでは風邪を引かないか心配でたまらない。

「こんな服で来るんじゃなかった……」

 ため息をついたその瞬間。


 杏梨の視界の端に、彩子が映った。


(彩子さん……?)

 行方不明だったはずではないだろうか? ならば何故、皆が遊びに行く東雲公園にいるのだろう。

「公園に住んでる?」

 杏梨は自分で言ったにも関わらずに、「それは違うな」と否定した。

(あんな人がホームレスみたいな真似をするわけないじゃん)

 でもまさかな、と思いつつ、杏梨は彩子のいた方向に歩み寄る。

「…………」

 そこまで行ったとき、杏梨は絶望した。


 彩子の左手と東風谷の右手が鎖で繋がれていて。

 その隣には、ニヤニヤと気色悪い笑みを持つ、彩子にお金をくれるという()()()()だった。

「……は?」

 杏梨は三人に見付からないように、木の陰に隠れる。

(何をしているの? 何をされているの?)

 杏梨は今度こそルームウェアで来たことを後悔した。足がチクチクする。サンダルだから更に足元の葉っぱの当たる面積が広くなる。

「……痛い」

 ぼそっと呟くと、ふいに、オジサンがこっちを向いた。

(やばっ)

 杏梨は木陰に隠れて、オジサンが何か言うのを待った。

「……何だ、ただの風か」

 別に今は風も何もなかったのだが、勘違いしてくれたのならそれでいい。

「さ、そんなことは気にしないで、何で僕の家に忍び込んでいたのか、教えてほしいな、東風谷君」

(忍び込む……?)

 杏梨は、「忍び込む」というワードに少しだけ身震いする。東風谷らしからぬ行動に、少なからず杏梨も驚いていた。

「忍び込んで……これ、出そうとしたよね?」

 バサッという音がする。杏梨は反射的に、木陰から顔を出す。

 それはどうやらノートのようで、ごくごく普通の杏梨も使っているノートだった。何が書いてあるのかは分からないが、オジサンの怒っているような声から、重要な物だったのだろう。


「……『篠塚彩子殺害計画』。……どこから聞き出した」


(殺害計画……!?)

 杏梨は今度こそ、少しだけではなく大いに驚き、目を見開く。

「お前が、殺害計画なんてクソみたいなこと考えたからだろ!」

 東風谷が牙を剥く。東風谷が右手でオジサンを殴ろうとする度に、彩子が左手を引きずられながら「きゃっ」と叫んだ。

(……おかしい。やっぱりおかしいよ、私。しょうがないことなのに。何で、彩子さんと東風谷が並んでいるところで、胸が痛くなるの?)

 ヤキモチはしょうがないのに、何故か痛くなる胸を、杏梨は押さえたい気持ちでいっぱいだった。

 今はそれよりもするべきことが他に沢山あるというのに。

「何が殺害計画だよ、何が聞き出しただよ。何もしていないのにお金貰ってるって時点でおかしかったんだよ!」

 東風谷は隣に彩子がいたことも忘れたようで、右手の不自由がない範囲で拳を振り上げている。

「篠塚ぶっ殺して、何がしたいんだよ! てめーは!」

(東風谷がこんなに怒っているのを、始めて見た……)

 杏梨は妙な寂しさを覚え、三人を見つめた。

「篠塚は、人のこと考えて行動してて、ちゃんと頑張ってて、俺の……俺の初恋の人なんだ」

 やっぱり、と杏梨は落胆し、視線を落とした。

(分かってた。分かってたよ、そんなこと)

 東風谷の視線は、彩子に注がれている。杏梨の視線は、東風谷をすり抜けてしまう。

 いくら東風谷の幸せを願っていても、やっぱりどうにも寂しい思いがしてしまうのは、何故なのだろう。

「……篠塚。あいつは、俺の弟を殺したんだ。……分かるか? あいつは、金を根こそぎ横取りしやがって、弟の家族を、壊したんだ。それはもう、巧妙な手口だったよ」

 いきなり、オジサンはそんな話をし始めた。

(出たよ、過去語る奴)

 杏梨は流暢なツッコミをしながらも、緊迫しながら見つめていた。

 一連の出来事で体が火照ってきたため、杏梨はジャージを脱ぐ。

「あの後、弟は自殺した。……全ては、お前の父親のせいだ!」

「っ……」

 戸惑う彩子。そりゃそうだ、と杏梨は思う。彼女は今、父親とは別居しているし、娘の彼女には何の罪もない。それなのに殺されなければならないなんて、随分おかしな話だ。

「お前らなんて……小さい頃、一緒に遊んだ弟をぶっ殺した奴らなんて……」

(彩子さんと東風谷は何も悪くねぇって言ってんだろ……ん?)

 オジサンは、ふいに後ろポケットから、何かを取り出した。

 杏梨には、それが何なのか、分かった。

 ただ、あまりにも唐突な出来事だったので、身構えるのが数分遅れた。



「お前ら、二人とも死ね!」

「ざっけんな!」



 杏梨は、二人にハンマーを振り上げるオジサンに向かって、ジャージを振り下ろす。

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