第12話「愛」
アレクシーナは最後になる議長席に立っていた。幾つかの案件が通され、最後の議題へと移る。
「最後に・・・・・皆さんもご承知の通り、私は議長の座を降りると公約した。」
アレクシーナはそう口火を切った。
「私の議長としての仕事は今日で終わりという事になる。この先も世界平和統一連合の道は困難を極めると思う。事実、私もこの世界平和統一連合を発起した時、これは私の一人よがりではないのかと何度も思ったものだ。」
場内に軽い笑みが満ちる。
「だが、実際にはこれ程多くの人の賛同を得、この連合に参加したいという意思表明、連合には即座に加われないものの協力を惜しまないとという国家も後を絶たない。世界の皆が真なる平和と地球規模での愛を真に望んでいたのだと・・・・私は・・・・・信じる事が出来た。この先の様々な困難に力ではなく、愛と倫理で立ち向かっていって欲しい、私はそう思っている。」
アレクシーナ辞めるな!場内の誰かがそう叫んだ。次々と各国の言葉で辞めるなという言葉が飛び交い。最後には「アレクシーナ」という声の大合唱となった。アレクシーナはそれを手で制した。その後、騒ぎが収まるのを待ってアレクシーナは静かに言う。
「皆さんの気持ちは嬉しい。だが、この連合が世界征服の道具などと言われたのでは、やはり居た堪れない。私は身を持って、世界にこの連合が真に平和を望む者の連合である事を示さねばならない。そう、誰かが身を持って示さねばならない事だったのだ。それが私だったというだけに過ぎない。これからも、この連合が世界で役に立っていく事を心から望んでいる。長い挨拶など退屈なだけだろうから、短いがこれを私の辞任の挨拶と代える。」
拍手が起こった。アレクシーナは拍手の中、静かに演台を去った。廊下に出て暫く行くと、後ろから一人の議員が追いかけてきた。最初に「アレクシーナ辞めるな!」と言った男・・・・ジョー・アルシュである。
「アレクシーナ陛下、見事な去り際でした。これで、世界平和統一連合はまた一歩力をつけていくでしょう。」
アレクシーナはSPを下がらせ、ジョーを傍に引き寄せた。
「ジョー、柄にもない事を言うな。」
アレクシーナはその後、SPにも聞こえないように耳元に口をあてた。「野心も過ぎれば、身を滅ぼすぞ」アレクシーナは小声でしかしハッキリとそう言った。ジョーは首を横に振る。
「滅相もない。私ごときが、大それた野心など持ちようもありませんよ。」
「ふむ・・・・・ならば、いいが・・・・・・」
「アレクシーナ様、少し気になったのですが・・・・・・・」
「なんだ?」
「愛という言葉はいささか抽象的過ぎませんでしたでしょうか・・・・・・・」
「そうかな?私はそうは思わないが・・・・・」
ジョーが少し口をつむり、思案してから言った。
「アレクシーナ様の考えられる愛とは何なのですか?私には愛という言葉はまやかしにしか聞こえない。いや、少なからずの人がそう思っているはずです。」
「「大いなる自己満足」・・・・私はそう捉えている。」
「自己満足ですか!?」
「大いなる・・・・・だ。」
アレクシーナはそう言って、SPを再び周りに戻し議場の外へと向かった。ジョー・アルシュは呆けた様にアレクシーナの後ろ姿を見詰め続けた。そして暫くして顔を引き締め、他人に見せる顔を作った。
・・・・・自己満足・・・・・・うまい事を言う。与える愛も捧げる愛も所詮自己満足に過ぎない・・・・・・・・・・・そう言ってしまえばそうなのかもしれない。ストーカーが描く愛も相思相愛の愛も、自己満足に過ぎない、そう言ってしまえばそうだ・・・・・・・・あなたはその自己満足の為に、俺に世界制覇の階段を用意した・・・・・・・あなたのなし得なかった夢は俺が必ず実現してみせる・・・・・・・・そして、あなたが捧げた世界への自己満足も平和連合への自己満足も、全ては私の為にあった。あなたが言った「愛」の為にリューヤも小夜子も死ぬ・・・・・・・・・・それも、何もかも人の欲望よりも誇りを取ったあなたの誤算だ・・・・・・・ちっぽけな自己満足の為にあなたは滅んでいく・・・・・・・・もし・・・・・・あなたが本当に世界制覇を望んでいれば、β能力者も裏切る事もなかった・・・・・・その「大いなる自己満足」の為に・・・・・・あなたは道を誤った・・・・・・・・・・・あなたの政治生命は長くない・・・・・・・
その三日後、アレクシーナ攻撃の急先鋒だったラスア・エラーラが暗殺された・・・・・・・・・
ご愛読くださった。皆様に休載のお知らせを致します。
この度、私事において、非常にショッキングな事がありまして、少しの間、考える時間を頂きたいと思います。
およそ、心は決まっているのですが、本当にこの考えでいいのかなどと、考えてしまっている状況です。
心の整理をするのに少し時間が必要です。ご愛読頂いた皆様には悪いのですが、どうしても考える時間が必要なのです。
だいたい平日にUPしていたのですが、その事すら忘れてしまうような状況でした。
この話は第4章で完結します。今後、必ずUPし、完結させる事は約束します。
少し、時間を下さい。
月読天舞より、読者へ




