9話 この娘を守りたい ★
無事に攫われたダビデを救出できたヤコブ。
アジトを突き止め、要請していた城の警備員達の協力で囚われていた女性達も解放することができた。
ボスである獣人の男は逃してしまったが、これ以上被害が出ることはないだろうと思いひとまず安心することができたのである。
城に戻り報告を済ませた後、ヤコブは王から報酬を受け取ることになったのだがーー
「本当にご苦労だったな、ヤコブ殿。おかげで我が民達が救われた」
「いえ。貴方方の警備員のご協力があったこそです」
「そなたの作戦と機転は見事であった。我が国の諜報員にならぬか?優遇するぞ?」
冗談めかしく笑いながら言う王に、苦笑しながら返す。
「ありがたいお誘いですが遠慮しておきます。私にはやるべきことがあります故、申し訳ありません」
「そうか残念じゃのう……だがそなた達には使命があるように感じておる。そなた達さえ良ければ我が国認定の冒険者の資格を授けようと思うのだがどうだ?」
「え?しかしもう報酬は十分過ぎるほどいただいております。そこまでしていただくのは…」
「遠慮には及ばん。それにそなた…意外としたたかな男と見た。ただの善意だけでは動かぬであろう?」
王はニヤリと笑いながら言った。どうやら見抜かれているようだ。流石一国の王といったところだろうか。
「……恐れ入りました。それではありがたく頂戴いたします」
「うむ、これからもよろしく頼むぞ?」
こうして報酬と国認定の冒険者の資格を得ることになったのだった。
国認定の冒険者とは、表に出ない特別な案件を請け負うことができたり時に諜報員や軍隊の力を頼ることができる。
また特別な魔法を習得できたり、異世界の乗り物を入手できたりするなど様々な恩恵があるのだ。
危険な仕事を依頼されるなどデメリットもあるがメリットの方が多いだろうと判断したため受けることに決めたのだ。
(今回の件でこの国との縁故ができたのは大きいな。だが…ダビデの心の傷が心配だ……)
処女は守られたようだが、裸でベッドの上にいた状況を考えると心に深い傷を負っているかもしれないと思ったからだ。
案の定ダビデは元気がなく食事も取ろうとしない状態だった。
その様子を心配した周りの者達が声をかけていたが反応はなく虚ろな目をしているだけだったという。
その様子を見てこのままではいけないと感じたので、ヤコブはある決断をしたのだったーーー
***
翌日ーー
ダビデはまだ暗い顔をしていたものの少しは落ち着きを取り戻していたようだ。
そんな彼女の前にヤコブが現れた。その手には大きなバスケットを持っているようだ。
それを見たダビデは首を傾げる。なぜこんな物を持ってきたのだろうと思っているに違いない。
彼女は困惑しながらも尋ねてきた。
「……ご先祖さま……?これは一体……?」
「ダビデの為に作った料理だよ。食べてみてくれ」
そう言って蓋を開けると中には豆のスープや果物、サンドイッチなどが入っていた。どれも美味しそうに見えるものばかりだった。
ダビデは恐る恐る手を伸ばすが躊躇っている様子だったので代わりに食べさせてあげることにした。
スプーンを手に取り口に運んでやる。すると彼女は目を輝かせて食べ始めた。
食欲が出てきたのか次々と平らげていく様子はまるで小動物のようだった。
「おいしい…」
ポロポロと涙をこぼしながら食べている姿を見て、やはり辛かったんだなと思うと同時に愛おしく感じてしまう自分がいることに気がつく。
(守りたい……この娘を)
そんな想いが込み上げてくるのを感じていたのだったーー
そしてその感情が何であるか、蓋をして気づかないふりをしていることを自覚するのはもう少し先のことであった……




