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異世界に転生したら、妹が増えた  作者: 鈴木すばる
8/8

8話 ハナ




俺は深夜に目覚めた。隣には、センとハナの安らかな寝息が聞こえて、穏やかで静かな夜だった、が。

動けない。

そう、妹たちが俺の両腕を抱いて眠ていた。本来ならば、なんて幸せなことだろうけど、今は違う。なぜなら……。

トイレに行きたい。


センの腕からこっすり抜け出したけど、ハナはアナコンダのように強く抱き締めた。

いたいたいた、馬鹿強いんじゃねーか!

そうだった、ずっとシュレディンガーの妹のために無視したけど、俺の隣にはモンスターがいる。あいつ、誰なのか、何がしたいのか、ちっとも分からない。今更だけど、その馬鹿強い腕力で改めて自覚した。口を押えて我慢したけど、結構痛い。

「お兄ちゃん、行かないで」

起こしたと思ったけど、ハナの方を見ると、悪夢を見ている様子だった。

寝言か。

「俺、どこにも行かないよ」

と、二人ともを起こさないように囁いた。

そうすると、ハナはやっと腕の力を脱いで、落ち着いた。その口元に笑みを浮かべた寝顔を見ると、罪悪感が湧いてきた。


なぜだろう。俺の隣には、確かにモンスターがいるけど、その可愛い寝顔、モンスターには出来るものか? ハナはモンスター、化け物、妖怪、何でもいい。俺の隣に寝ているのはハナだ。それ以上それ以下でもない。

その気づきに鼻で笑った。

しかし、その瞬間、本来の目的を思い出した。

そうだった! トイレ!

ハナからも抜けだして、急いでトイレに走った。



戻て来たら、部屋のドアを開こうとしたその時、声が聞こえた。

「ね、セン、起きている?」

「うん、起きているよ。お兄ちゃんにくっついても、何もしてくれないね」

寝たフリしたか⁈

「セン、私のこと、嫌い?」

少しの間、センは何も言わなかった。

「嫌いじゃないよ」

「本当に?」

「最初は怖かったけど、今はあまり怖くない。もちろん、モンスターだってことは分かるけど、ハナがいたから、異世界に転生しても私たちは寂しくない。本気でそう思えるようになったよ。私にとって、ハナはこの世界の初めての友達だ。そして、私の大切な妹だよ」

「セン! 大好き!」

ハナの声で分かった。あいつは泣いていた。


「泣かないでよ。お姉ちゃんがいるから、泣かないで。よしよし、よしよし」

「お姉ちゃんと呼んでもいい?」

「いいよ」

「ずっと一人であの洞窟に閉じ込まれたけど、あの日、お姉ちゃんの声が聞こえて本当に嬉しかったよ。でも、私はとても醜いから、怖くて、センに変身した。でも、もう隠さない。明日、お兄ちゃんにすべてを話す」

「お兄ちゃんなら、きっと分かるよ。私からもお願いするから、ハナをずっと私たちの妹にいさせてって」

「ありがとう、お姉ちゃん」

その夜、胸が痛くて、ちっとも眠らなかった。



「おはようございます! 今日も早く私のために働いてください!」

夜が明けたら、いつも通りオパールがドアをドンと開けて、訳の分からいことを言った。

「お前のために働いていねーよ! かわいい妹たちのために働いている!」

「まあ、どっちでも金になるし、構いませんけどね。はっはっは! それでは朝ごはんの準備しますから、ごゆっくり」

ごゆっくりって、お前が俺たちを起こしたんじゃねーか⁉ 何がごゆっくりって? 嵐のような女だよね。


「お兄ちゃん、おはよう」

「あ、ハナ、おはよう」

センがよほど疲れたみたいで、まだ眠ていたけど、ハナがすぐに起きた。いや、俺と同じく、眠れなかったかもしれない。

「あ、あの、お兄ちゃん。大事な話があるんだけど……」

その先も言わせずにハナを抱き着いた。

「大丈夫だ。何も言わなくても、分かる」

ハナは驚いて、しばらくの間何もい言わなかった。


「でも、私、モンスターだから、迷惑を掛けるかもしれない」

「それでもいい。もう、一人にはさせないよ」

「私の正体でも受け入れてくれる?」

「うん、どんな姿でも、お前は俺のかわいい妹だ」

涙が溢れても、ハナは純粋な笑顔を浮かべて、俺から離れた。

「本当に怖がらない?」

「本当に」

「じゃ、行くよ」


ハナは布団を出て、不安そうに詠唱を始めた。

『さみさみさみす、正体に戻て』

何だよ、この世界の詠唱は?

「お兄ちゃん、私、怖い?」

俺の目の前に最高にかわいい少女がいた。目も髪も暗くて、頭から角が生えた。その角のせいで醜いと思っただろうけど、俺的にはむしろ完全にタイプだ! ヲタクの夢だろう?


「その角、とても綺麗と思うよ」

良し、約束のエヴェント、決めた!

「もちろん、角が綺麗けど、その他のすべてが醜くって、ずっと洞窟に隠れた!」

え、えええええええぇぇぇぇぇ? そっち⁈


「いや、俺は普通にかわいいと思うけど」

「私が? かわいい?」

「うん、すごく」

「ここにいてもいい?」

「いいに決まてるじゃないか? ハナ、今更だけど、俺の妹になってください」

「お兄ちゃん!」


その瞬間、俺の頭の中に、声が聞こえた。

『特殊スキル、妹の王、発生』


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