第五章:さよならの代償18
遠い昔の話をしよう。
どのくらい昔かって、そりゃぁ遥か彼方の大昔さ。
じぃさまのじぃさまが生きてた頃かだって?
もっと、もっとずぅーっと昔のことさ。
なんたってタハルはまだ無かったのだからね。あのエスタニアもアリオスも。もちろんジキルドだって存在しなかった。
そんな時代があったのかって?
あったのさ。
ササン大陸がたった一人の王様を戴いて豊かで幸せな時がね。
彼は絶対王。
強く常に正しい王だった。
餓える民はどこにもおらず、貴族連中も今ほど愚かではなかったのさ。
幸せな時間はあっという間に過ぎる。
絶対王も人の子だ。身体は次第に老いていく。
自分が王位を退いた後のことを良く考えるようになった。
彼の子どもは4人、いいや5人いた。
息子が4人に娘が1人だ。
皆、それぞれに聡明だった。
さて、困った。
次の王を誰にしよう。
彼は考えた。
毎朝、毎晩考えた。
貴族に側近、民衆にも誰が相応しいか聞いてみたが、皆それぞれにすばらしいと語るので決まらない。
考えて考えても決まらない。
けれど、いいことを思いついた。
皆を王にすればいい。
ササン大陸は広大だ。
一人の手には余るだろう。
だから王様は大陸を4つに分けてそれぞれに与えることにしたのさ。
ん?
なぜ4つかって?
子どもは5人いるのに?
そう。
これが問題だった。
末の子どもたちは、なんと双子だったのさ。
今はそんなこと無いけれど、絶対王の時代は双子は禁忌だった。
一つになるべきものが分かれたとね。
片方が善なる魂を持って生まれ片方が悪なる魂を持って生まれたと信じられていたんだ。
どちらがどちらなのか見極めなければいけない。
悪なる魂を持つものは善なるものは何一つもたないため処分しなくてはならないとまで考えられていた。
だがこの考えを古いと一蹴したものがいた。
エスタニアの初代王になるユスティニアスさ。
一つのものが二つに分かれたのならば常に共にあればいいということで、二人は常に共にいることで生きることを許されたのだよ。
だから国を与えられた時も、彼らは二人の王で国を治めることになった。
賢く新しい道を行くことを選んだユスティニアスは、大陸の中央を与えられエスタニアを作った。
思慮深く静けさを好んだリールゥは常宵の森を与えられジキルドを作った。
闊達で自然を愛したギルは様々な動植物の溢れる北の地を与えられタハルを作った。
そして件の双子は
最も少なく荒れた土地を与えられユザを作ったのさ。
ユザなんて国は知らない?
そうだろうとも。
ユザは兄弟たちによって滅ぼされてしまったのだからね。
そして
双子の片割れが興した国がアリオスなのさ。