今日の明日
そこは空白であった。
自分と世界の区別もつかぬ、言われるがままに問われる世界。
存在というものが私というものがそうであるというならば・・・
今の世界においての今というのは何なのだろうか・・・・
そこで気づいた。意識があることに。
「 」
意識があってもそれを発することができない。
「 」
呼吸すら出来ないことに気づいた。
「 」
そしてもう一つ気づいた。苦しくない・・・・と。
改めて自分という存在を見なおしてみる。
今目の前に見えている空白の世界は何なのだろうか。
手を目の前に伸ばしてみる。だが伸びる手はなくあるのは虚無のみ。
視線を下に向けてみるそこには何もなく空白の世界が広がるのみ。
なら自分は一体何なのだろうか・・・・
唐突に光が迸る。
光、白、明、輝、神
---頭に流れる。否、魂に流れる言葉。
「君の問いかけに答えよう」
不意に吐かれる言葉。
視線を左右上下見回してみるが言葉の発生源は見当たらない。
「君に僕は見えないよ」
「 」
疑問を口に出すが、それを成すべき機関が無いためにその言葉は魂にだけに語られる。
「うん。大丈夫。ちゃんと僕には伝わるから安心して」
「君の疑問は勿論だし。君の問に答える気も僕にはある」
淡白な中性的な言葉の持ち主。男か女かすらわからない。そもそもここはどこなのか。自分は誰なのか。体は口はこの空白は全部全部わからない。
「そうだね。順番に・・・そう順序よく話していこう」
言葉の主はそう呟くや否、言葉を綴りだした。
「まず君の一番の質問に答えよう。君はだれか・・・だね。そうだね、その答えなら・・・誰でもないとも言えるし誰かであるとも言える」
抽象的な物言いに自分が心の中で戸惑うと、
「ああすまない・・・これは私の悪い癖だ。治そうとは思っているのだが中々癖というものは厄介でね。で続きだが君は”生前”誰かであった。でも今は誰でもない。なら答えは一つだろう?」
その言葉が出す答えとは・・・・
「 」
自分は死んだのか。記憶も何もないが、自分という存在は確認できる。
「そう・・・君は死んだのだよ。” ”君」
・・・君の前はノイズがかかったような声で聞き取れなかった。
・・・本来であればもっと驚くべきなのであろう。
だが自分にはその記憶が無いために驚きも悲しさに何もなかった。
「君は死んだ。そしてここへきた。いや・・・-----というべきなのだろうか・・・まあそこは置いておくとしよう。ともあれ君は私の空間にきた。ここが重要なのだよ。」
「私の空間に人の魂が辿り着くなど本来ではありえないのだが・・・ふふ興味深い。君という存在がね。私は恋しかったのだよ。私には与えられることがない存在がこうして身近に目の前に魂がある。私の生というのもこうするためにあったのではないかと思ってしまう。それくらい長い長い間ずっと待ち続けた・・・・いや望んでいた。こうなることを。ずっとずっとずっとずっとずっとずっと望んでいた。それくらい私は君という存在を愛さなければいけない。だから・・・」
不意に声が絞まる。嵐の前の静けさというべきか言葉を堪えて吐き出す。
「君を祝福しよう。君の今までの人生がどうであったかは関係ない。君がここへきた!私に!私の!私へ!会いにきた!!素晴らしい素晴らしいよ。」
声が震える。それは喜びと狂気が漂う喜び。
「君を認めよう。誰がなんと言おうと私は君の味方だ。君を思い、君を手助けする。--ここに誓おうじゃないか」
圧倒的感情。圧縮された空間が解き放たれるように、ただひたすら愛を呟く。
「君と契約しよう。我が名において。新たなる君の旅路への力を。」
結ばれた絆。一方的で絶大な力が流れ込む。自分の価値もわからぬまま力だけが注ぎ込まれる。ああ・・・これが”力”圧倒的で他の者の追従を許さぬ。
「アガトリスの名において、ここに契約は結ばれた。」
一方的な流れが止まった。
「さて、そろそろ時間もない。契約というたいそれた言葉だが私に出来るのは君に力を与えることだけなんだ。私が直接助けることはできないであろう。そのことについては素直に謝罪しよう。だが私の与えた力が君の役にきっと立つだろう。ではまた会う日まで・・・」
-------------------------------------------------------------------------------------------------
白い光の向こうへ吸い込まれる。彼方へ遠くへ行く宛もわからぬまま。
-形成される。
--魂が
---体が
----足が
-----腕が
------頭が
--------------形創られていく
「はじまり」