3話
ルールーが離縁して、3年後。
遡った時間から7年後のことである。
「ただいまー」
そう言い、とある一軒家にルールーは帰ってくる。
「お帰りなさい、ルールー」
そんな彼女を元メイドだった女性は迎えに来る。
「今日は肉も魚もいっぱい穫れたよ。村長に渡したから、後でみんなで食べよう」
離縁する前に始まった戦争は、この数年の間に激化した。
何とか無事に実家のある領地に戻ることはできた。
しかし、激しくなる戦争に、後を継いでいた兄や弟は徴兵された。
家に残ったのは、隠居していた父や母、まだ嫁いでいない妹。
領地も安全ではなく、さらに外れた田舎の方に領民を連れて、疎開していった。
既に村はあったが、彼らは快く受け入れてくれた。
大きな屋敷はなかった。
でも、小さな一軒家でも構わなかった。
しかし、女性が多めとはいえ、大人5人で暮らすには手狭だったので、父母妹と別の家で暮らすことにした。
その村で何もしないで過ごす訳にはいかない。
ノブレスオブリージュ。
または働かざるもの食うべからず。
最初は母や妹とともに、村の女性陣と炊き出しを行っていた。
しかし、ルールーは、他にも貢献したいと考えていた。
狩りの心得があったメイドから教えてもらい、狩りに出かけるようにもなった。
村を襲いに来るモンスターを討伐したりもした。
治安の悪化で、頻繁にやってくる野盗を追い返したりもした。
まだ戦火が及んでいないこの村でルールーは、充実した日々を過ごしていた。
「まさか私が弓を扱えるようになるとはね」
狩りに使っていた弓の弦を弾く。
「あなたの教え方が上手いおかげだよ」
「昔教えてもらったことあるんです。私は剣の方が合っていたから、ずっとそっちでしたけど」
「私もバサバサ斬り倒せたらいいのにな」
「ルールーには、近距離より遠距離の方が安心ですから。あなたが後ろにいてくれるから、私は安心して戦えます」
2人は向かい合って、微笑み合う。
そのとき、ドアがバンと開く。
「大変だ!」
村の男衆の1人だった。
「森から魔物が大量に襲ってきた!」
そう言われ、2人は家を出て、駆け出していく。
「まさかスタンピードか」
「スタンピード?」
「魔物が大量発生する現象のことです。何度か遭遇したことがあります」
「そんなの初めて知った」
「だいたい人気のないところで起きることが多いので」
走って、村外れの森までやってきた。
ルールーが帰ってきたときは、まだ黒からオレンジのグラデーションだった空は、すっかり暗くなっている。
森は、おどろおどろしい空気を出していた。
暗いなか、たくさんの目が光っている。
背筋がぞくりとした。
村の男性たちが森の前に集まっている。
女性陣や子供、年老いた人たちは避難している。
父も残ろうとしたが、避難しているときに、野盗や他の魔物に遭遇する可能性もあるので、数人男性もいる。
しかし、他の村までの距離は遠く、王都に近づいていくため、戦火に巻き込まれる可能性が高い。
「女子供たちには手を出させねえぞ!」
「おー!」
村長の掛け声に皆雄叫びを上げる。
最初、ルールーたちも避難させるつもりだった。
しかし、狩りの腕前は並の男たちよりは上で、本人たちの家族たちを守るために戦いたいという意思が強かったため、それを尊重し、残ることになった。
「後ろはお願いします、ルールー」
「任された!」
ルールーは弓を引いて、放つ。
心臓に直撃する。
剣などの近接舞台も、攻撃を始める。
魔物の力は強大で、すぐに犠牲者も出始める。
しかし、その骸に悲しんでいる暇はない。
また、この村で暮らすために、敵を殲滅。
それが、難しいならば、避難している人たちの時間稼ぎをしなければならない。
それには、一日かけて戦わないと厳しいが。
どこも、魔物による被害は問題で、武器を新しく手配する余裕はなかった。
矢の数には限度があるし、剣なども折れてしまったら、予備はほとんどない。
魔物は亡くなった仲間の骸どころか、武器も食べてしまうので、どんどん減っていく。
仲間の数も減っていき、ジリ貧になっていく。
息も絶え絶えだ。
村の家族や仲間を守る意思のみで動いている。
そのときに、まるで大きな重力がかかったように、皆その場に伏せる。
魔法を使えない村の人たちも、魔物に司っている魔力の圧だと分かる。
強大な魔力がスタンピードを引き起こすが、強大すぎる魔力は魔物を滅ぼす。
圧に負けて、灰になる魔物も出ている。
しかし、人にも被害は及ぶ。
圧によって、多くの人が亡くなった。
圧の発生源、上空から一人の男が降りてくる。
禍々しい魔力を纏っている。
人型の魔物もいるが、あれは人間だ。
ただの人がこれだけの魔力を持つことは珍しかった。
男は、ニヤリと口角を上げる。
「ミツケタ」
そろりそろりと歩き出す。
「その女共を差し出せば、お前らの命は助けてやろう。魔物も全て殲滅してやる」
そんなこと言われても、村の人たちは差し出すことはないという信頼があった。
しかし、男がやってきたことで、圧で何も言えない。
交渉のために抑えてはいるが、それでも多くが気絶している。
自分で身を差し出せば、皆が助かる。
男に差し出された女がどんな末路を辿るか、分からないような子供ではない。
何とかメイドだけでも逃がすことができれば。
「嘘をつくな!」
メイドが声を荒げる。
「そんなこと言うなら、あのとき城にいた人たちを皆殺しになんてしない!」
そのエピソードに心当たりがある。
それを新聞で読んだとき、これからどうなるか不安に駆られた。
予想通り、彼は全世界に宣戦布告をし、侵略を始める。
戦争の始まりだった。
ルールーの住む国、リーテルの近隣諸国の1つ。
ルーキスの呪われた王様。
「だから、私は後悔したんだ。女だけでも生け捕りにすればよかったと」
「この外道が!」
ネルトに対して悪態をついていたものの、ここまで声を荒げるのを見たのは、ルールーは初めてであった。
それまでに、彼女のこの暴君に対する憎しみは大きい。
「交渉決裂のようだ。無理矢理連れて行っても、抵抗するのは分かりきっているからな。この村を殲滅することにしよう」
王が空に手を掲げると、黒い魔力が集まっている。
魔物が息絶えていくので、魔物から回収しているのだろう。
何とか止めようと思った。
近くの仲間の骸が持っていた剣を持ち、圧に耐えながら斬りかかる。
力を集めている今が隙だと思った。
しかし、片方の手から放たれた魔力がルールーの身体に穴を開ける。
「ルールー!」
「自分の魔力だけでも全滅させられるんだよ。ただ、温存しているだけだ」
ルールーは倒れていく。
(短い一生だったな)
彼との力の差は歴然だった。
諦めて、目を閉じる。
辺りは白い火に包まれた。
「たすけて」
そんな声が聞こえた気がした。




