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転生者の異世界旅行記  作者: 豆板醤
第3章 冬の旅と戦
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65話 "聖騎士"

「右リザードフォーク!市内に入られるぞ!」

「サーシャ下がって、孤立してる!」


九日目、昨日に一瞬収まった勢いから一転し、大量に敵が押し寄せている。

モンスターの勢いが強まったのはここだけでなく、全域で周辺にいたすべてのモンスターが城壁に押し寄せていた。


森林を駆け抜けるリザードフォークを衛兵が止め、その隙に魔術を撃ち込む。

衛兵たちも激しい戦いの中で負傷し、何人かは傷がひどい。


前方からトロールたちが現れ咆哮する。


あらゆる場所から敵が押し寄せ、地面は血と死体にまみれている。

サーシャも絶えず剣を振るっているが、押し寄せる敵との連戦に疲れているのか、いつもの威力が出ていない。


トロールが腕を振りかぶる。

その手には岩。


「...っ、プロテクト!」

「シュウ、大丈夫?!」

「下がって!」


岩が投げられ、障壁にぶつかる。

込めれるだけの力を込めたおかげで何とか防いだが、一瞬で障壁は崩れ落ちた。

かなり体力を消耗したが、まだ休んでいられない。


「アイスランス!マジックミサっ...ゴホッゴホッ...」


猛烈な痛みと吐き気。

魔力を一度に使いすぎたから、体内の魔力が薄れてしまった。

外気の魔力が体を侵食する痛み。

思わず膝をついてしまう。


押し寄せる敵を前に防衛線は崩れてしまった。

今立っているのはオストルフィさんとサーシャ、辛うじて二人の衛兵が膝をつかずに耐えている。


今もトロールたちは数を増し、オーガは地面を踏みしめている。


「...限界だな」


オストルフィさんがつぶやく。

鎧は打撃でへこみ、メイスを振るう手は鈍い。


諦めたような声で言葉を続ける。


「サーシャ君、シュウ君と動けなくなった衛兵を連れて市内に戻ってくれ」

「戻ってどうしたら?!」

「誰でもいい、援軍を連れてきてくれ。このままじゃ全員が犠牲になってしまう」


ゴブリンをメイスで押し倒し、頭に全体重をかけて踏みつぶす。

まだ動ける二人の衛兵はハルバードを構えなおし、切っ先をモンスターへ向ける。


「...たった三人で、耐えられるんですか?」

「大丈夫だ。早く行きなさい」

「すぐに、呼んできます!」


サーシャが衛兵を担ぎ上げる。

痛む体に鞭を打ち、自分の体から魔力を絞り出して体を強化する。

もう一人の衛兵を担ぎ、振り返らずに走る。


すぐに背後から戦いの音が聞こえてきた。




オストルフィはボロボロの体を引き摺り、大群を押しとどめる。

力の入らない腕を気力で持ち上げ、迫るオークにメイスを叩きつける。

鎧とメイスに付与されていた祝福はすでに消え、血と傷に汚れている。


祈りを口にすれば聖なる魔力が体に流れ込む。

魔術学でも解明の難しいこの力は理論でも法則でもなく、人の意思に従う。


リザードフォークが槍を突き出す。

やや遅れて掲げた盾は貫かれ、切っ先が腕を刺した。

出血と痛みを聖なる魔力で誤魔化し、オストルフィは再びメイスを持ち上げる。


激しい殴り合いで鎧はへこみ、動きは阻害されている。

今にも膝をつきそうな体を何とか立たせ、何度もモンスターに武器を振るう。


彼の思うことはただ一つだった。

家に帰り、家族に会いたい。


それでもなおここで戦い続けるのは、街を守りかったからだ。


オストルフィは優しかった。

熱心な信仰はないが、自分の力で誰かを助けるために教会に入信した。

戦闘経験はまったくもってないが、家族を養うために聖騎士の道を選んだ。

家族に会うためにすぐにでも逃げ出したかった。

だが罪のない市民が、心優しく若い修道女達が犠牲になる事は許せなかった。

それだけの理由で街に残り、槌を振るっていた。



祈祷を扱う力は神が与えたものではない。

ただ扱う素質を持って偶然生まれるだけだった。


主神は素質を持ったものに目を向ける。

善人にその素質があれば、主神はその力の成長を手助けする。

信仰心は関係なく、ただ善い心の持ち主かどうかで判断していた。


皆が納得するような道徳者や、支離滅裂な狂人に力が与えられることもあった。



オストルフィの傷が徐々に塞がっていく。

再び足を踏み出し、メイスを振るう手に力がこもる。

無から現れた聖なる魔力が体に宿り、彼の戦を手助けする。


衛兵に治癒が分け与えられ、ボロボロだった三人の戦士が武器を振るう。


ゴブリンを薙ぎ払い、リザードフォークの鱗を貫き、オークを叩き潰す。

トロールでさえも近づきききれず、モンスターの猛攻は一瞬勢いを失った。


しかし、一瞬だった。

森林からゆっくりと姿を現したアラクネが闇魔術を振るうと、彼らの体は見えない何かに締め付けられていった。


不可視の意思が与えた力は消え、彼らに抗う術は失われた。


モンスターが忌々しい力を使う敵にとどめを刺そうと迫る。

衛兵は倒れ、オストルフィは膝をついた。

眼前にはアラクネが、死が近づいている。



彼らとモンスターの境界に聖なる防壁が現れた。

強力な結界に阻まれ、退くことしかできない。


「オストルフィ卿、貴方の奮戦に敬意を表します」


足音が近づく。

甲冑が揺れる音、一つじゃない。


白銀の聖鎧と祝福を受けたバスタードソード。

強力な祈祷を行使する聖騎士。



「ホルスカ司教区聖騎士隊、到着いたしました」

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