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転生者の異世界旅行記  作者: 豆板醤
第3章 冬の旅と戦
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54話 "伝令"

矢がクロスボウから落ちないよう抑え、警戒を強める。

ザクザクと霜を踏む音、時々鳥の鳴き声が聞こえる。


少し離れた地面で魔力が収縮した。


すぐに照準を合わせ、引き金を引く。

奇妙な水音の後、地面からタコモドキの死体が現れた。


同時に地面から飛び出すタコモドキ。

サーシャが飛び掛かり、空中でそれらを両断した。


「これが普通のモラスク?あんまり変わんないんだね」

「ブラッドモラスクよりは一回り小さいかな」

「なんか擬態してたし、こっちの方がちょっと厄介かも」



ボロヴィツ市内の隅、木造りの柵壁をくぐった先の森。

俺らはタコみたいなモンスター、モラスクを討伐しに来ていた。


ブルトヴァルト近辺で出るブラッドモラスクとは少し違う。

あの森の魔力を吸収した個体は一回り大きく、放つ水弾も強力になる。

ただ、普通のモラスクはブラッドモラスクと違い、周囲の環境に擬態する。


「えーっと、こいつで六体目っと。他は居なさそう?」

「いなさそうだね。こいつら、冬眠とかってしないのかな」

「確かに。変な生物だなぁほんと」


土気色の陸に棲むタコ、味はかなりおいしくない。

人喰い陸タコと考えると、変というよりかなり恐ろしい。


「よし、これで全部集め終わったね」

「じゃあ帰ろ!お腹すいたし、なんか食べようよ!」


スキップしながら街へ戻るサーシャ。

街へと戻る道、再び木製の柵璧をくぐる。

都市をぐるりと囲む石造りの城壁、ここだけは木の柵になっている。

建設中に冬が到来し、工事が止まっているみたいだ。


「何食べる?」

「寒いし、スープでも食べようかな」

「私もそうしようかなぁ。あっ、その前にギルドに行こっか」

「だね。報告だけ終わらせちゃおう」


モラスク討伐、報酬は8000グロス。

かなり街に近い場所に居て危険だったからか、報酬がちょっと高い。


冬の依頼はかなり少なく、稼ぎが難しい。

こういう依頼をできるだけこなして冬を無事に越したい。





「で、ルヴニツァの賊がガキ二人に潰されちまったんだんだってよ」

「それ本当か?どうせまたあの酔っ払いの話だろ」

「酔っ払いも一日に二度は正しいかもしれないだろ?」


おしゃべりをする四人の冒険者たち、それぞれ武器を携えている。

剣、槍、杖、弓。どれも傷がつき、長く使われている。


「そろそろ目的地に着くはずだ」


弓を持った男が言う。


ボロヴィツから南西に約80km、ブルトヴァルトに近い地帯。

『ブルトヴァルトの情報収集』の依頼を受けた彼らは、森の近辺にある監視櫓に向かっていた。


森と平原の境界線。その近辺には監視のための櫓が立っている。

グロズスキ領の領主が設けたもので、数km間隔で狼煙と共に配置されている。


依頼はこの櫓に向かい、兵士たちから最近の状況について聞くことだ。

情報の伝達などの依頼は当然、信頼できる冒険者にしか頼めない。

四人は十年以上冒険者を務めたBランクの上位、この依頼にふさわしい人材だ。



「なあ、迷ったんじゃないか?」

「そんなはずないけどな...」

「監視櫓なんて見えないぞ、どっかで道を間違えたかもな」


本来なら、監視櫓が目前に見えてもいいはずだ。

しかし彼らの目の前には何もなく、ただ平原とその先に森が見えるだけだ。


「方角は間違ってない、どこかにはあるはずなんだがな」


首をひねる冒険者たち。

しきりにあたりを見回していた槍使いが、一つの異常に気付いた。


「おい、それが監視所なんじゃ...?」


槍使いが少し離れた場所にある物を指さす。

瓦礫と土砂の混ざり合った小山、古い村の跡か何かだと思っていた。

近づくと、それが何かよくわかった。


潰れた櫓と死体、一瞬の出来事だったようだ。

恐らくつい最近の出来事、一昨日か昨日だろう。


「賊や軍じゃないな、モンスターにやられたのか?」

「ただのモンスターが狼煙を焚かせる暇もなく櫓を潰せるか?かなり強いモンスターの仕業だろう」

「だとしたら...、すぐに街に戻って知らせるぞ。...おいティント、何見てんだ?」


弓使いはその呼びかけに反応しなかった。

平原の遥か先を、目を見開いて眺めている。



黒く、巨大な何かが蠢いている。

土煙が昇り、ブルトヴァルトからにじみ出てくる。

モゾモゾとした動き、いくつもの黒い点がかなりの速さで近づいてくる。


「...あれ全部、モンスターなのか...?」


全員が呆然とする。しかし、熟練らしく一瞬で正気に戻った。


「クソッ、レイドだ!それも相当の規模の!」

「あのままくれば街に着く、急いで戻るぞ」

「ダメだ、もう追いつかれる!」


蠢く集団から孤立する黒い点は凄まじい速度で迫る。

僅かな間で、その点が鮮明に見えるようになった。


「アラクネ?!あいつ集団から孤立して突っ込んできやがる!」


一言仲間と言葉を交わせば、その間に数十m近づいてくる。

リーダーの男は一瞬考え、決断した。



「ティント、街に走れ。俺らはアラクネを引き付ける」

「...わかった。また、会おう」


弓使いは仲間に背を向け、街へと走りだした。

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