50話 "鎖鎧"
肌寒い。
毛布に包まれて寝ていたが、いつもより寒さを感じて目が覚めてきた。
もぞもぞ動くと、隣に居るはずの熱源がない。
記憶に新しいことが思い起こされる。
勢いよく飛び起き、部屋を見渡す。
サーシャはテーブルに座り、貯金を数えていた。
安堵で胸をなでおろし、再びベッドに潜る。
「二度寝しないでよ!ほら起きて!」
「ええぇ...」
叩き起こされるようにベッドから引き釣り出される。
サーシャがテーブルの上を叩いて指し示す。
「これ!60万グロスも貯まったんだよ!」
テーブルの上には金貨の山、60万もあるらしい。
賊を打ち倒したことに対する褒賞で50万グロスが市から払われ、貯金の10万と合わせて60万、かなりの額が貯まった。
「これだけあればさ、シュウの防具買えるんじゃない?」
「サーシャの防具の新調を優先した方がいいんじゃない?」
「え?じゃあシュウの防具はどうするの?」
「サーシャが今着てるやつを着ればいいよ。少し調整すれば着れるんじゃない?」
俺の身長は175cm、サーシャが171cmくらい。
4cmくらいしか差がない。肩幅の差はあるが、もともと少し大きめの革鎧だったので、少し紐を緩めれば着れるだろう。
「70万もあればチェーンメイルとか買えるだろうし、サーシャはそれを着て俺は革鎧を着ればいいよ」
「うーん...。なら、そうしよっか」
そうして向かった防具屋。
目的はもちろんチェーンメイル、鎖帷子だ。
小さな鎖の輪を編んで作られた鎧、防御力は革鎧より遥かに上だ。
ただ、作る手間の問題で価格も革鎧の遥か上。
価格は40万グロス、ルヴニツァにはチェーンメイルの制作に長けた技術者が多いらしく、他の都市よりは少し安い。
「革鎧より重いね...、動きづらいや」
「なんでそんな重いのを着てジャンプできるの...」
15か17kgはあるのに。
ぴょんぴょん飛んで回転してる、力の塊だ。
ちょうどいいサイズのが在庫にあったので、すぐに買うことができた。
手入れがかなり面倒らしく、定期的に油で磨かなきゃいけないらしい。
「毎日油で磨くのって、かなり面倒だね...」
「手入れ道具、また別に買わなきゃだね」
革鎧も鎖鎧も、定期的にメンテナンスをしないとダメになる。
「そういえば、錬金術の本に書いてなかったっけ?保全の何とかってやつ」
そういわれて思い出した。
錬成工房の人がくれた本に書いてあった技術、道具の保全などができる保全技術。
これを覚えれば、メンテナンスはだいぶ楽になる。
「ちょっと練習してみようかな、錬成術...」
「シュウが普段使ってる魔法とどれくらい違うの?」
「うーん...、大本の技術から違うかな」
魔力を使う技術という分類なら、魔術も錬成術も祈祷術も同じ。
ただ、魔術は魔力で生み出すもので、錬成術は魔力で変える物、祈祷術は魔力で奇跡を降ろす物、とかなり違う。
「錬成術師の冒険者っているのかな」
「攻撃とかができないし、いないんじゃないかな?」
職人などが使うような技術で、戦闘向きじゃない。
召喚術を使う冒険者は居るらしいが、錬成術で戦う冒険者は居ないだろう。
宿に帰り、さっそく本を読む。
そして数日が経った。
錬成術の本をずっと読み、ようやく基礎の技術を覚えられた。
「部屋がもう石だらけになっちゃうよ...」
拾ってきた石を使い、宿で練習を続けていた。
そのせいでいくつも金属が生えた石が床に転がっている。
「基本的なのは覚えれたけど、修繕や保全はまだ遠そうかな」
「よくわかんないなあ...、魔法って難しいや」
覗き込んでいたサーシャが離れ、剣と鎧の手入れを始める。
活発的で元気と力の塊のような性格だが、かなり几帳面な性格だったりする。
毎日の軽い確認と、使用後の念入りな手入れは欠かさないし、貯金の管理もサーシャが自分からやっている。
俺は鎧の手入れが苦手なので、サーシャがまとめてやってくれている。
装備品や金銭の管理をサーシャに任せる代わりに、俺は旅程や受ける依頼の調整をしている。
ルヴニツァに滞在し大体二ヵ月が経過、十二月の最中だ。
一月中には次の目的地、ボロヴィツに着きたいので、そろそろ出発になる。
徒歩で長くて五日間か、それくらいはかかる。
冬季の旅、かなり念入りに準備をしないと凍死してもおかしくない。
それでも向かいたいのは、普通に温泉が入りたいからだ。
割と強行軍だが、道中の宿などを使えば少しは安全に向かえるはずだ。
それに、冬季の旅用の道具もしっかりある。
前世の中世だと、この時期に旅をすれば死んでしまうだろう。
魔法があるこの世界だと、魔道具を使った防寒具がある。
それに今年は例年より比較的寒くはならない、らしい。
「それ、次の旅程?」
手入れが終わったサーシャが地図を覗きに来る。
宿、野宿、野宿、宿、野宿のざっくりとした旅程。
「うん。ルヴニツァで年越ししたら、何日か後にボロヴィツに向かう予定だよ」
「ボロヴィツの近くに温泉があるんでしょ、どこらへんなの?」
「山岳の方にある村、らしいけど、現地に行ってみないとわからなさそう...」
地図にはその山岳が書かれていない。
本では確か、南部の山脈の近くと書かれていたが、ボロヴィツから山脈まで300kmほどはある。
古い本だったので間違いが多いんだろう。
そう考えて納得し、旅程の調整を進めた。




