45話 "躊躇はない"
目が覚めると、薄暗い石造りの部屋に居た。
眠気で思考が回らないし、視界はぼやけて明確に見えない。
なんでこんなところにいるんだろう。
体を動かそうとして違和感を感じる。
手が縛られてる、立った状態で縛り付けられているみたいだ。
足が痺れて倒れそうだったが、手が縛られているおかげで倒れなかった。
少しずつ記憶が戻ってきた。
路地で少女を助けようとしたら、細身の男に眠らされたんだ。
小太りと細身の二人組。小太りは明らかに悪い輩といった感じだったが、細身の男はこっちの警戒が和らぐように話しながら、不意を突いて無力化してきた。
そういえば少女は?
段々と戻ってきた視界、頭を動かして周りを観察する。
ジメジメした湿った空気、石造りで薄暗い小部屋。
天井からつるされた金具や不気味な木製器具。
地下牢の拷問部屋としか感じ取れない。
狭い部屋の中に少女の姿はないが、代わりに一人の男が居た。
小太りで腹立つ顔、私を攫った奴だ。
男はテーブルで何かをいじっている。
綺麗な長剣。あれ?なんかだいぶ見覚えのあるような...
「ちょっと!それ、私の剣!」
「...んん?ああ、なんだ起きたのか」
男が剣をテーブルに置いて近寄ってくる。
下卑た笑い、オークくらい醜い顔だ。
「あなた達が拉致とかやってる賊?これから私は奴隷として売られるの?」
「ハッ!話が早いじゃねえか」
ケタケタと気色悪く笑う男。
行動の全てがムカついてくる。
「本当はあのガキだけの予定だったが、お前が割り込んできたからな」
「あの女の子は?あの子はどこ?」
「牢に入ってるよ。出荷する奴は牢に入れとくんだが、お前は員数外なんだよ」
「...員数外?」
「予定にないんだよ。ウチから出す分はとっくに満たした、そうなるとお前はここに置いとくことになる」
ゆっくりと近づいてくる。
私の体を舐めまわすように、物色するような目で見る。
縛られた手を動かして縄を触る、結構古い縄みたいだ。
「出荷する奴に手を出したら殺されるが、員数外なら何してもいいんだよ...」
「ちょっと、臭いから近寄らないで」
「口はクソ生意気だが、体はまあまあ良さそうじゃねえか」
男は私の目の前まで近づくと、ズボンを下ろし始めた。
武器は持っていないようだ。
「ずっと籠りっぱなしで溜まってたんだよ...、ちょうどいグボギャッ!」
手の縄を引きちぎり、男の頭を掴んで向こうの壁に叩きつける。
思い切り壁に叩きつけたから、頭の形が少し変形した。
男が痛みで地面に崩れ落ちている間に、テーブルに置かれていた剣を取る。
「よかったぁ、剣が壊されてたらどうしようかと...」
刃も欠けてないし、鞘や柄も問題ない。
剣を抜いて男の方を向く。
「ゴホッ...ゴホッ...、おい待て!」
「ん?」
「俺を殺す気か?お前みたいなガキに、人を殺した経験があるのか?」
血を吐きながら男が喋っている。
「ないよ、モンスターしか殺したことはないもん」
「ほらな...。人を、殺す覚悟があるのか?ゴホッ...、ないだろ?ここからの出方を教えてやるよ、どうやって一人で出る気なんだ?」
「一人じゃないよ、私の相棒が来てるはずだから。それと...」
「は?」
剣を振り上げる。
「師匠に教わったんだ。『救いようのない悪人を斬るのに、躊躇は不要』って」
「おい待っ」
短槍が見当たらないので探していたけど、棚の方に置かれていた。
これで装備は全部元通り、脱がされていた革鎧も着なおせた。
床に転がる頭を蹴らないよう気をつけながら、ドアに耳を当てて外を探る。
人通りがないのを確認したら、ゆっくり開けて慎重に外を見る。
どうやら廊下があるみたいだ。
人は見当たらない、慎重に慎重を重ねてこっそり部屋を出る。
右側は廊下の突き当り、左側しか道がない。
きっと、シュウはここを探し出して来てくれている。
なんとなくそう信じているが、探して見つけるまでに時間はかかるだろう。
それまでの間に、ここに捕まっている人たちを助けなきゃ。
あの小太りは牢に入れてる、って言っていた。
まず牢を探さそう。
私が縛られていたのは一番下の階だったらしい。
同じ階には拷問部屋らしき部屋がいくつかあるだけで、人は一切居なかった。
あいつが私で遊ぶためだけにこの階に来たのだろうか、本当に気持ち悪かった。
上につながる階段を登り、少しだけ顔を出して覗く。
一瞬人が通っていったが、それ以外に人通りはなさそうだ。
近くに空いていたドアを見つけ、剣を片手に滑り込む。
中に見えるのは賊が一人、後ろ手にドアを閉め、賊が振り向く前に近づく。
一閃、驚く時間すら与えずに首を落とす。
すぐに剣を構えなおし、他の賊を探す。
が、部屋の中には他に見当たらない。
小さな牢が並ぶ部屋、牢の中には数人の少女や女性が閉じ込められていた。
急に部屋に現れ、賊を切り殺した私を全員が驚きと恐怖の目で見ている。
幸い口が布で塞がれていたので、悲鳴が響くことはなかった。
助けることしか考えていなかったから、ここから何をするべきかが思いつかない。
「えーっと...。私、みんなを助けに来たんだよ!賊じゃないからね!」




