241-歓迎パレード
その日、帝都サルバンは大賑わいであった。
内乱の英雄であるハフニマル・ジェレネア...多くの子供がその英雄譚を聞いて育ったことは間違いない。
その彼を、あろう事か戦乱の英雄、艦隊戦、白兵戦共に武勇を誇る彼を、危機より救った英雄が現れたというのだ。
帝国民が感動をあらわにするのも、笑えない事情があった。
そして何より、目を引き耳を張るのは、それが女性であるということだ。
美しい女性であるとハフニマルが語った事により、女好きの帝都民は歓喜した。
『これより歓迎式典を開始します。帝都臣民の皆様は、指定の閲覧スペースを利用してください。無許可のパレードルートへの侵入は最悪の場合、射殺となります』
放送が響くと同時に、帝都は動き出す。
警備員として雇われた者たちは、パレードのルートに何者も侵入させないように防備を固め、野次馬たちは美女を、英雄を一目見ようと観覧スペースへと詰めかける。
ルート沿いの飲食店やコンビニエンスストアは大盛況である。
そして、一番人の多い場所は...出発地点である。
厳重にバリケードで塞がれたその中では、衣装に身を包んだリリーが車両に乗り込んで待っていた。
アルはひと足先に帝城へと向かっており、今は彼女一人である。
「では、手筈通りに」
「ええ」
側に立っていたジャミアンが、リリーの元を離れて最前部へ向かう。
そして、そこにいた車に乗り込む。
「ジャミアン様」
「構わない、始めてくれ」
「はっ!」
都市全体に放送が響き渡る。
それはパレードの開始を宣言するものであり...国歌を斉唱する合図であった。
誰ともなしに声に出し、皆がそれに続く。
「黎明より暮れまで」
「秩序の道を刻む者」
「星は帝を祝福し」
「陽光の如く輝けり」
誰もが国歌など、練習せずとも歌うことができる。
それは愛国心からではない、ただの慣習だ。
歌は何万人もの人々の力で消えることなく響き渡っていく。
「例え幾千の死が襲おうと」
「我等の英雄は消えることなく」
「星は穂先にて潰え」
「永遠に帝の元で栄えたり」
国歌の斉唱が終われば、スピーカーから国歌のメロディを引き継ぐように音楽が流れ始める。
帝国国民ホールにいる楽隊による演奏である。
「近衛隊、前へ! 進めぇ!」
近衛騎士団第二隊長であるジャミアンが、車内から号令を飛ばす。
そうすることで、ようやく車列が動き出す。
機動戦車二台を先頭とする近衛騎士団の先鋒は、内部を露出させた突入装甲車、輜重装甲車と続く。
そして、リリーは知らなかったが、その後に続くのは皇室の車列である。
皇室騎士団がフロートボードに乗って参上し、その真ん中の車からナスカが姿を現す。
「ま、そうだよな」
だが、ナスカを歓迎する声はない。
ナスカは薄ら笑いを貼り付けて、群衆に手を振る。
勿論、全く歓声が上がらないわけではない。
ただ、彼はこの場の主役ではないというだけの話だ。
そして、
「(緊張する...ええい、ままよ)」
主役が現れた。
その姿を一目見た者たちは、とりあえず歓声を上げた。
それがどのような感情であれ、英雄をこの目で見れたのである。
歓声を上げるには充分な理由だ。
「...!」
その音圧に、リリーは一瞬怯む。
だが、すぐに持ち直して精一杯の笑顔を浮かべる。
どうせもう二度と関わることのない場であるため、この場を演じ切ればそれで終わりなのだ。
パレードのルートは曲がりくねり、なるべく多くの人間にそれを見せるために構成されている。
本来なら暗殺を警戒する場面だが、車にはシールドが張られているためその心配はない。
このような厳戒態勢時に発砲者は即特定されるため、そんな無謀を犯そうとするのは宗教過激派かいい様に使われる鉄砲玉だけである。
「おい、あれを見ろ!」
そして、パレードの車列が帝城への一本道へと差し掛かった時。
誰かが叫ぶ。
呼応するように皆が、東の空を見る。
陽光を浴びて、オリオンがそこに浮かんでいた。
その左右には巡洋艦ノイランデルが展開している。
それはゆっくりと、雄大に降りてくる。
本来であれば輸送艦だが、この場においては戦闘艦に見えるほどの威容であった。
「オリオン....」
リリーは呟く。
車列は貴族街へと入っていく。
帝城を囲む、貴族が住まう屋敷の集中するエリアである。
帝都も広大だが、貴族街こそが最も広い場所であるといえる。
貴族街を囲む古い防壁を超えれば、帝城が見えてくる。
「.......!」
それは、リリーの知る「城」のイメージとは大きく異なっていた。
四つの美しく空を映すビルが建ち、そのビルを繋ぐように円環状の渡り廊下が存在する。
その円環の中央に、まるでバビロンの空中庭園を思わせるような、山のような建造物がそこにあった。
そして、車列と上空の船は、そこへ向けて真っすぐに向かっていくのであった。
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