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修羅場の続きは異世界で。  作者: ピコピコ
第1章
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昔の話5。

 それからはまさに怒涛の日々だった。

 私はついに始動した『ミノンアーチ警備団体』の一員となったが、その活動に付いていくのに必死だったのだ。

 街のあちこちで起こる召喚術関連の揉め事。その現場にいち早く駆け付けて事態の収束を図る。基本的には既存の警察とは管轄を分ける形となったが、稀に合同で対応する事例もあった。

 そして想定していた通り、激昂した連中に応戦する場面も多々あった。中にはそれなりの熟練召喚師も居て、戦力の充分で無い我々では苦戦を強いられる展開も見られた。

 そんな中で早い段階から頭角を現したのは、やはりロジーだ。

 当時の北スラム。その繁華街の一角で召喚術を利用した違法賭博が行われているという情報があり、我々は充分な準備をして現場に向かった。そこでは召喚獣同士を戦わせ、その勝敗に金銭が賭けられていたのだ。

 少し脱線するが、今ではその行為は法令遵守の元に、一つの競技という形で認められている。勿論、金銭の授受は御法度だがな。

 我々の介入に連中は、今そこで戦わせていた召喚獣をこちらに仕向けてきた。昂ぶっていた獣達の猛攻は凄まじいものだったが、ロジーはそれらをあっという間に沈めてしまった。それどころか、その場に居た召喚師全てをほとんど一人で制圧してしまったのだ。

 警備団体の中でも、ロジーの強さは圧倒的だった。

 その頃には私も多少の召喚術は扱える様になっていたが、それでもロジーには敵わなかった。だからこそ私は武器を駆使する戦士では無く、召喚師としてロジーと渡り合える強さを目指したのだ。

 数多の戦闘を経験して実感した事がある。召喚師の強さとは、強力な召喚術が使えるかどうかでは無いという事。図形や詠唱の速さ、タイミング、正確性。そして隙の多い魔法だからこそ、展開に対応する柔軟性と、最適解を瞬時に選ぶ判断力と瞬発力。それら全てを踏まえて、優れた召喚技術と言えるのだろう。

 私は死に物狂いで戦い、技術を磨いた。その相手は敵以上に、自分自身への挑戦であった。そしてロジーへの、いい意味でのライバル心も内在していた。

 表面化した揉め事から徐々に地下社会に足を踏み入れる中で、戦闘は激しさを増していった。実戦での経験は、リスクと比例して戦闘技術を否応無く身に染み込ませ……私は強くなっていった。

 いつしか私とロジーは、団体の中でも群を抜いた実力を誇る程になっていた。周囲からは戦士のロジー、召喚のザインと評され、おこがましい事だが、向かう所敵無しといった扱いを受けていた。

 それでもお互いの向上心は止まらない。ロジーは好んで使っていた木刀を手放し、長刀や弓矢、槍など、あらゆる武器の扱いを実践の中で身に付けていった。

ロジー曰く、「その場にあるどんな物でもが自分にとって最強の武器になる様、全ての手段に精通していたい」のだそうだ。

 そんなロジーに突き動かされるが如く、私も日々技術の向上に尽力した。必死にしがみ付いて行く立場の私には、現状に満足する余裕などあり得なかったのだ。

 強い召喚師の条件とは何か。それが私の命題となっていた。召喚技術を向上させる鍛錬の一方で、召喚術自体の強化も疎かには出来ない。古文書を調べ、継承者に弟子入りし、強力な召喚術を学び続けたが、本質的な強さにはまだまだ届かない焦燥感の様なものを感じていた。

 だが同時に、毎日が充実していた。相変わらず友達はロジーたった一人だったけど、より絆の深い仲間と呼べる関係性に変化した。そして警備団体に、そんな仲間という存在が何人も在ったからだ。親から与えられた仕事では無い、能動的に選んだ現場で成果を上げているという実感が、何よりも嬉しかった。


 20歳を過ぎた頃だ。

 私が犯した過ちが、小さな綻びを生んでしまったのは。


 その頃には、私はミノンアーチ警備団体の団長を務めるまでになっていた。これは異例の若さでの快挙と言われているが、特別私が優れていたわけでは無い。実力的にはロジーの方が上だったが、私が次期国王であるという点と、ロジーが地位を拒んだという理由から、私が就任する運びとなった次第だ。

 召喚技術の発達と共に国も発展した。だがそれに比例して犯罪もまた増え、凶悪さを増した様な印象すらあった。

 いつの時代も強さを求める事に変わりは無い。だけど今まで以上に必要性を感じた。それも、他を牽制する程の圧倒的な強さが。

 そんな時だ。

「ザインよ、面白い物があるぞ」

 国の運営部門と並行して警備団体の活動報告や事後処理など、事務関係を兼任していたヒストが古臭い本を持って来た。

「それってもしかして、古文書?」

 近くでコーヒーを飲んでいたロジーが話に入ってくる。ヒストは得意気に頷いて話を続けた。

「その通り。だがそれだけじゃ無いぞ。これは今回お前らが、違法に入国した行商人を検挙した際に押収した証拠品なんだがな」

 丁寧にパラパラと本を捲り、開かれたページに描かれた図形を指差す。

「調べた結果、恐らくこれは……紺碧の竜の召喚に関する資料だ」

「……竜!?」

 ページには、見た事も無い古代文字が羅列されていた。教育の一つで多少学んだ経験もあるが、語学は私には苦手分野だった。ヒストは研究機関にも出入りする事が多く、触れる機会が多かった為ある程度なら読めるらしい。

「へぇ、そいつは……俺らに捕まらなければ半端ねぇ額儲けたんだろうな」

 ロジーが「残念」と呟きながら空き缶をゴミ箱に捨てた。確かに、ロジーの言う通りだ。

 竜の召喚術なんて滅多に御目に掛かれる代物じゃない。この世界に数える程度しか存在しないのだ。噂ではこのミノンアーチ国にも一つ保管されていると聞くが、真偽は定かでは無い。そのほとんどはどこかに封印されていたり、各家系で代々秘密裏に受け継がれていたりするらしい。

 そんな物が仮に売買の対象になっていたとしたら、きっと凄まじい金額が動いただろう。

「或いは……取引か」

 そこまでおどけていたロジーだったが、不意に神妙な面持ちに変わる。何を危惧しているかは、私にもすぐに理解出来た。

「売買にしろ取引にしろ……もしかしたら大きな裏ビジネスだったのかもな。それを我々が潰してしまったわけだ。関係者が報復に来るかもしれない」

 一瞬不穏な空気に包まれる。……でもまぁ、だからと言ってどうという事は無い。我々がやる事はいつも同じだ。

 整備されつつある召喚法の名の下に、悪事を叩く。それだけだ。

「そんな事よりもさ」

 同じタイミングで頭を切り替えたロジーが、嬉々として古文書を手に取った。

「紺碧の竜……凄い戦力になりそうじゃないか。ザイン、今度召喚してみろよ」

 期待の顔をこちらに向けてきた。竜は他とは一線を画す特別な召喚術だ。私だってそうそう見る機会など無い。ワクワクする気持ちは分かるが……。

「きっと無理だ。竜の召喚術というのは誰でもが安易に使用出来る物では無い。それなりの資質が要るし、家系によっては制約や触媒などが設定されている。これがどの様な経緯で行商人の手に渡ったか分からないが、図形や詠唱に何らかの細工が施されている可能性だって否定出来ない」

 私だって召喚してみたい。戦力の強化にもなるし、資質が認められれば自信に繋がるだろう。

 だがもしも失敗してしまったら……制御出来ず暴走してしまったら。未知であるが故に被害は計り知れない。立場上、無計画にそんな危険な行為が出来るはずも無い。

 ロジーは「そうなのか」と渋々納得した。

「送還の時といい、相変わらず面倒臭いんだなぁ召喚術ってのは。強そうな召喚術が手に入っても使えないなんてよ」

 数年前の、飲食店での一件を思い出す。初めてロジーと共闘した場所で、私は初めて召喚術を使用したのだ。

「だったら」

 他者の召喚獣は送還出来ない。その事を説明した際、ロジーは予想外の提案をして来た。

 お前が何か召喚しろ、と。

 私自身が召喚術を使うなんて発想は、その時まで微塵も持ち合わせていなかった。だけどその言葉のお陰で、私は召喚のザインなどと持ち上げられ、この地位に就くまでに至った。


「だったら、いっその事自分で作れちまえばいいのにな」


 ロジーの言葉はいつだって、私に大きな変化を与える。

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