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修羅場の続きは異世界で。  作者: ピコピコ
第1章
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昔の話3。

 事件が起きたのは、それから数日経ったある日の事だった。

 いつもの様に城を抜け出してロジーの居る店に行くと、人集りが入り口を取り囲み、何やら大騒ぎとなっていた。

 人の隙間を潜り抜け店内を覗くと、そこには驚くべき光景が広がっていたのだ。

 乱雑に投げ出されたテーブルや椅子。パーテーションや観葉植物などが倒れ、食器やそれに盛られた料理が無残にぶち撒けられていた。まるでここだけ大地震でもあったかの様だ。

 その店内の中央に立つ四人の男。その内の二人はそれぞれ木刀を手にし、もう二人は召喚術用の小さなノートを手にしていた。前方には二体の獣が召喚されている。

 二つの頭を持つ真っ黒な蛇と、両耳と四本足が燃え盛るウサギ。どちらも、今にも飛び掛かりそうな臨戦態勢で、部屋の隅に追いやられた男に狙いを定めていた。

 そこに居たのはロジーだ。

 ロジーはいつも携えていた木刀二本を所持しておらず、丸腰であった。

「ねぇ、何があったの?」

 横に居た野次馬の一人である老人に尋ねてみた。

「食事をしていたら連中があの少年に詰め寄ってな。突然召喚術で襲い掛かったんだ」

 こんな公共の場で突然……。非常識な連中を訝しむ様に見ていると、ふと気付いた。そいつらは、私が最初にロジーに出会った時に、ロジーに絡んでいた連中だったのだ。

 あの時の報復に来たのだろうか。

 話を聞くと、連中が喚び出した蛇がロジーを不意打ちして、木刀二本を奪ってしまったとの事だった。

 あの日に感じた憤りを、再び覚えた。

 召喚術は、こんな使い方をされる為にあるのか?

 私が憧れた魔法は、他人を攻撃する手段でしか無いのか?

 苛立ちにも似た葛藤に頭が埋め尽くされ、目の前が不明瞭になった次の瞬間。

 足が勝手に動いている事に気付いた。

「うぁぁあああああ!!!」

 走り出していたのだ。無我夢中で、四人の男に向かって。勿論ケンカなんて経験の無い事だし、具体的にどうするつもりだったのかも良く分からない。

 だけどじっとして居られなかったのだ。

 こんな連中に手も足も出ない自分で在りたく無かったのかもしれない。

「なんだテメェは!!」

 怒号と共に振り下ろされた木刀が、右肩に直撃する。激しい痛みに重心がぐらついて、無様に転倒してしまった。

 今まで感じた事の無い痛みに肩を抑える。情けない……けど、これが現実だった。

 その頃の私に戦闘経験などある筈が無く、こんな戦い慣れた上に召喚術まで扱う連中に、敵うわけが無かったのだ。

 太刀打ち出来ない事よりも、意思を主張出来ない未熟さが悔しかった。強くなければ、自分の在り方さえ貫けないのか、と。

 そこに。私と連中との間に割って入る様に、ロジーが立つ。

「ザイン、出てくるなよ。怪我するぞ。俺がこんな奴らに負けるとでも思ったのか?」

「……さすがに武器も無しじゃツライと思って。だけど悪い、奪えなかった」

「安心しろよ。代わりなんて幾らでもある」

 そう言うとロジーは、足元にあった割れた皿とスプーンを手に取った。……まさか、これで戦うつもりなのか?

「……ッ! 行けっ!!」

 連中の掛け声と共に、蛇とウサギが突進して来た。同時に、ロジーも走り出す。

 ウサギが回転して炎の輪となったのを確認したロジーは、近くに倒れていたテーブルの陰に身を隠し、そのままテーブルを肩で推し進めた。

 ドカンッ!!

 テーブルの表側で何かが爆発する。間髪入れずにテーブルから飛び出したロジーは、おもむろに割れた皿を地面に叩きつけた。

 ガシャァアン!!

 耳を劈く破砕音の下には、双頭の黒い蛇。見事に二つの頭に直撃し、動けなくなっていた。

 そしてロジーは止まらない。

 そのままの勢いで、木刀を持った男に向かって走り出した。

「……! この野郎!!」

「慣れない武器は使うな。足枷なだけだ」

 大きく振りかぶったその男の、木刀を握る親指をスプーンで強く突く。その途端、木刀は投げ出され、男は手を抑えながら後退りした。

 凄い。改めて、感心する。

 一瞬の内に攻撃を防ぎ、召喚獣一匹を倒し、男から木刀を取り上げた。私は呆然と一連の流れを目で追うしか出来なかった。木刀を持つもう一人の男が同じ様に動けないで居たのは、私と同じで呆気に取られていたわけでは無くて、威圧されていたからだろう。

 銀色に光るスプーンが、真っ直ぐ、男に向けられていた。

 剣先などでは無い。殺傷能力も皆無であろうその武器が、今はとても重く、強力な物に見える。

 羨ましいと思った。

 仮に力付くになろうとも、強さは説得力を生む。

 私がどれだけ召喚術の在り方について問おうが、他人のそれを是正しようが、弱者の戯言など一笑に付されるだろう。

「調子に乗るな!!」

 召喚師の怒号を合図に、爆発の噴煙が舞うテーブルの脇からウサギが飛び出した。そして再び炎の輪っかとなったそいつが、今度は私に向かって突撃して来たのだ。

「!? ザイン、逃げろ!」

「ッ!!」

 状況から予想するに、先程テーブルで爆発したのはこのウサギだ。あんな攻撃を直接受けたら、どれだけの大怪我をするか想像出来ない。

 私は咄嗟にロジーと同じ手段を選んだ。あちこちに散乱したテーブルの中から、壁になりそうな一番近い場所に大急ぎで避難する。

 そして。

 ドカンッ!!

 分厚いテーブルの向こう側で、激突と同時に爆発を感じた。壁一枚挟んでいるとは言え、その衝撃はビリビリと振動を持って伝わり、炎の熱を感じる。

 恐い、と思った。

 悪意のある召喚術は、恐い。

「ぐぁっ!」

 私に気を取られていた隙を突いて、ロジーが召喚師の一人を攻撃した。床に崩れ落ちた勢いで、そいつが持っていた小さいノートが私の足元に転がり落ちる。

 開かれたそのページには、蛇かウサギ、どちらかの物であろう召喚図形が描かれていた。

「ザイン! そこの召喚獣二体を送還しちまえ。この狭い店内じゃ鬱陶しくて仕方ねぇ。蛇の方もいつ眼が覚めるか分からねぇぞ」

 投げ出された木刀を拾い上げながら、ロジーが言った。どうやら、召喚術のルールを知らないらしい。

「ロジー、無理だ。召喚獣は、召喚した者で無いと送還する事は出来ない」

「あぁ? 案外不便な魔法なんだな」

 だったら、と付け足しながら、ロジーが手にした木刀を構える。

 対峙するは、男二人とウサギ一匹。ロジーの強さならば、なんとかなりそうな信頼感がある。

 だけど情けなかった。私は何の力にもなれないのか、と。無計画に飛び出して、結局足手纏いになってしまっている気がしていた。

「だったら……」

 そんな私の心情を読み取ったのか、詳しく知らないが故なのか。ロジーは、私に向けて声を上げた。


「お前が、何か召喚しろ!」


 まるで、当然出来るんだろ、と言わんばかりの口調で。信じ切った顔をこちらに向けてくる。

「無茶言うな! 図形も詠唱も何も知らないし、第一、召喚術にはそれ相応の素質が必要なんだよ。いきなり俺に出来るわけが……」

 そこで声が詰まる。言い様の無い謎の不安が、私の喉を遮った。

 出来るわけが、ない……のか? それを断言したら、何故だか本当に出来なくなる気がした。

 私は憧れていたはずだ。

 それは手の届かない存在に対する客観的な羨望などでは無かった。

 この国に於ける召喚術関連の問題。私が幼い頃に抱いたのは、それらを是正する為の法基盤を作ろうという途方も無い目標だったのだ。

 そしてその為に、私は無謀にも決意した。

 召喚術を……極めようと。

 今ここで出来ないのなら、いつ出来ると言うのだろう。何を以って出来ないと決め付けようとしたのか。

 素質など後から問おう。

 これは現状を打開する為でも無ければ、この不届き者達を成敗する為でも無い。

 自分自身の在り方への問い掛けだ。

 考えろ。思い出せ。私の知る召喚術を。何かきっとある筈だ。

「!?」

 頭に電流が走る感覚。そうだ。最初にロジーに会ったあの日……。

 ロジーを囲む連中の一人が、召喚術を発動させた。ロジーはその溢れ出る光を利用して攻撃に転じた。そのポテンシャルに思わず目を奪われたけど。

 あの時喚び出された召喚獣は……。

「ウサギだった」

 あの時私は詠唱を聞いた。そして覚えている。

 今足元に転がるノートに描かれている図形が、そのウサギの召喚図形なのか、それとも蛇の方なのか。

 そんな迷いはあっという間に払拭され、私はノートを手にしていた。そして色々な物が散乱する床から、アンケート用紙に付属していたボールペンを見付け出す。

 何もかもが必然かの様に、流れる様に、新たに図形を描き写す。

 応えてくれ、と祈りながら。

 私は……詠唱を口にした。


 そして瞬間、眩い光が視界を埋め尽くしていったのだ。

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