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修羅場の続きは異世界で。  作者: ピコピコ
第1章
33/87

お祭りにて2。

 大通り沿いの小道に入ると、川岸の緑地公園との間に大きな円状の広場があった。広場の中央には噴水が設けてあり、そこから四方に伸びるように水路が引かれている。頭上に点在する提灯の灯りが、噴水や水路に鮮やかに反射してとても幻想的だ。この場所も人と屋台で賑わっていて、はぐれたら簡単に迷子になってしまいそうである。

 噴水近くのベンチに座って、4人並んでクレープを食べる。そんな俺の頭には、目を真っ赤に充血させ三角に口を突き出したひょっとこのお面が乗っている。選んだのは千佳だ。これを装着して射的を構える姿に、トアは大笑いし、千佳に至っては写真まで撮っていた。千佳も(どうやら絵里も)俺と同様、制服のポケットに携帯電話が入っていて、この世界に持ち込んでいたらしい。充電器が無いのでいずれ力尽きるだろうが、圏外の為写真を撮るくらいしか使い道が無いので、電池が切れる事にあまり不安は無い。元の世界では考えられない発想だ。

「ねぇトアちゃん。この世界でお金を稼ぐにはどうすればいいの?」

 絵里が唐突に尋ねる。トアはクレープを口に咥えながらきょとんとしている。

「どうしたの? 急に」

「いや、ここのお金全部トアちゃんに出して貰っちゃって、申し訳ないなって。私達で稼げるなら、それで返したいんだけど」

「そんなの全然気にしなくていいわよ。一応ザインの娘なんだし、お金なんていくらでもあるわ」

 なんて頼もしい言葉だ。確かにこの国の発展ぶりを見ると経済は潤っていそうだし、利益も大きいのだろう。いや、だけどそういう訳にもいかない。

 「んー」もぐもぐと咀嚼しながら、トアが何かを考えている。

「でもそーねー。気が引けるって言うなら何かしら仕事を探す感じかしらね。せっかく召喚術が使えるなら、野生化して凶暴になった召喚獣を討伐する仕事なんてのもあるけど」

 軽々しく言ってるが、なかなか危険っぽい仕事だ。出来ればそれは遠慮したい。

「そういうのはちょっとなぁ。召喚して野生化して、凶暴になったから討伐するっていうのは、なんか納得出来ないというか。違う気がする」

 スプーンで生クリームを掬いながら、千佳が召喚師の在り方について持論を展開した。何故ちゃんとスプーンを使っているのにほっぺたに生クリームが付いているのか謎だ。

 でも千佳の言う通りだ。それは少々身勝手な言い分に聞こえる。

「そうね。実際そういう信念から被召喚対象の庇護団体も発足されて、無責任な召喚と送還義務の放棄について問題提起する声も上がっているわ」

 言いながらトアが苦い顔をしたのは、食べていたクレープに入っていたクロボーの実の味に由来するものでは無いだろう。それはそっくりそのまま、自分が俺達に対してやっている事だもんな。俺達が凶暴化したら団体から糾弾されるかもしれない。

 まぁ、その話は置いといて。お金の面は確かに大事だ。なにせもうしばらくはこの世界に滞在する事になりそうだし。

「あのさ、トア。さっきグラウンさんとも話したんだけど、俺達もう少しこの世界に居る事に決めたんだ」

「えっ! 結婚してくれるの!?」

「ちがーーう!!」

 あっという間に笑顔に変わるトアを、凄い勢いで千佳が否定した。助かる。千佳が居てくれなかったら話がなかなか進まなそうだ。

「そもそも柳君は私と結婚するんです」

 そこに唐突に絵里が割って入る。絵里と千佳とは、付き合うかどうかという話だったはずなのに、明らかにトアのせいで段階が飛躍してしまっていた。

「プロポーズは私の方が先でしょう!?」

「こら絵里! 抜け駆け禁止!」

 そして大騒ぎが始まってしまった。うーむ、どうしてもこうなってしまうな。こんな公の場では周囲の目が気になってしまう。幸いお祭りの最中なので賑やかな景色の一つとして溶け込んでいるが、一国の王女がそこに居るなんて知れたらどうなるんだろう。

「違うんだよ、トア。俺達のせいでラシックスと揉める事になって、結果的にトアが怪我する事になって、このまま全部放り投げて元の世界に戻るわけにはいかないと思ったんだ」

 トアに対する気持ちについて、リッシュへの対抗心のような感情が生まれた事は伏せた。俺自身それをどう説明すればいいか分からないし、なんとなくだけど酷く無責任な代物に思えたから。

「結婚とかそーいう話とはまた別だからね」

 千佳が念を押す。だけどそっちの問題もいつまでも保留にするわけにはいかないよなぁ。

「それは……エリもチカも思ってるの? そもそも私が招いた事態なのに、そんな風に考えてくれているの?」

 トアが不安そうに、恐る恐るといった様子で2人の顔を覗く。俺達の召喚に、やっぱり罪悪感があるんだろうか。さっきの庇護団体の件しかり、どうにもトアは欲望優先で強行手段に出るくせに、それについて責められる事に怯えている節がある。子供みたいな奴だなぁと頭に浮かぶが、口には出さない。

「もちろん! トアちゃんとはもう友達だもん」

「あの危険なリッシュって奴から守ってあげる。柳は渡さないけどね!」

 力強く言ってのける。本当にこの2人は、なんていい奴らなんだろうと思う。

 支えてくれる優しさと、引っ張ってくれる明るさ。どちらも俺にとって大切な存在だった。出会ってから今まで、俺はこの2人にいつも救われてきたんだ。

 そしてこの世界に来て、今度はトアにも救われた。順番なんて決められない。誰が一番なんて無い。3人とも俺の恩人で、今度は俺が3人を守らなければならない。

 だから動くのだ。自ら。俺の意思で。


「だからトア、案内してほしい。ラシックスのリッシュの所へ」

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