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Ⅹ話 死について


「マスク=ブラッドマン(マスク)はブラッドマン家の長男として生まれました。普通の家の普通の子どもでした。ある時、両親がマスクの異変に気づきます。マスクはしきりに耳を塞ぐようになっていたのです。両親は病院に連れていきました。その結果、その子は耳が聞こえすぎる特性を持った子だとわかりました。それ以来、ヘッドホンをして生活をするようになりました。小学校、中学校と成長していくときも、ずっとそれをつけていました。しかし、高校で素晴らしい出会いをします。エリクサンドラ=グロウビッツとの出会いは、彼の病気をなおしてしまいました。それが何故か、彼はわかりませんでした。ですが、おそらく話をしたいという気持ちがそうさせたのだと思いました。ヘッドホンをつけていると、自分を閉じ込めてしまって人に興味をあまり示さないようになっていました。それでも高校で出会ったその友人には、なにか他の人とはちがうものを感じたのでしょう。自分から心を開き、開かせ、仲良くなりたい。話を聞きたいという思いが、彼の耳を使えるようにしたのだと思います。そのときから、音に縛られる人生から自分を解放してくれたエリクサンドラ=グロウビッツを相棒と呼び、一生をかけて恩返しをすると誓いました。エリクサンドラ=グロウビッツは、心に傷を負った男でした。幼いとき、家族を戦争で亡くしたのです。そしてその敵を自分で倒したい。と言っていました。そんな危険なところに一人で行かせるわけにはいかないと思ったので、自分も兵士になりました。耳がいいので、通信兵になりました。そして、生計を立てるために、パン屋になりました。そこで、シリという女性と知り合い、結婚の約束をしました。そして行った戦場で、命を落としました。これが、私の知るマスク=ブラッドマンの人生です。」そう語った。

「シリさん。ごめんなさい急に押しかけて。まずはそのお詫びからです。それと、こんな話をさせてごめんなさい。辛いだろうに。」エリクサンドラ=グロウビッツは頭を下げた。

「いいんです。マスクの、恩人さんですから。」

「マスクは、だから戦場に来ていたんですね。僕はそんなことも知らなかった。それを不思議にも思っていなかった。」

「そうですか。」

「僕は兵士をやめます。」

「そんなこと言ったって……。」シリは目に涙を浮かべていた。

「そんなことしても、あなたが兵士を辞めても、マスクは戻ってこない!なんでもっと早くそう思えなかったの?妹殺されました。憎いので兵士になります。相棒殺されました。悲しいので兵士辞めます。って、勝手じゃない!あなたがはやく辞めてれば、あの人は死ななくて済んだ!」シリは泣きじゃくりながら言った。エリックは黙ることしかできなかった。


 墓石の前に立つ。

「マスク、すまない。」エリックは花をもって話しかける。

「すまない。本当にすまない。なんでお前も戦場にいるのか、不思議に思ったことがなかった。まさか俺が行くからって来てたのか。」エリックの鳶色の目が涙で滲む。ガラスのブレスレットを外した。

「これを、俺はずっともっていた。どう思った?形見だとは言ったが、家族を失ったことのないお前にはどう映った?多分、俺の原動力になっているとか考えたんだろうな。それはちょっと違う。これは、俺の生きる意味だ。これをもって、人を撃って、人が死んでる横で自分だけ生きて。そんなときにこれがなきゃ死んでしまいたくなるんだ。」

ブレスレットをつけ直す。

「なあ、お前の生きる意味は何だったんだ?俺についてきて、ヘッドホンが外れたのがそんなに嬉しかったのか?それだけで、そんなに犠牲になれるのか?なあ。教えてくれ。これからの俺の生きる意味はなんだ?」花を備えて、エリックは去った。



 翌年、ある楽曲が世界的大ヒットを記録した。シリ=グレイはまたたく間に国を代表する歌手になった。彼女の歌う歌は、人々のよりどころとなっていた。その歌に心動かされた人物が二人。

「オキ、覚えているか?エリックとマスクという二人組。」

「ああ。」

「マスクのほうが死んだらしい。」

「そうか。」

「そしていま話題のシリ=グレイはその恋人だってよ。」

「そうなのか。」

「そいつが歌うには、仇うちほど馬鹿なことはこの世にはないって。そしてその次に馬鹿なのはそれを肯定することだってよ。」

「皮肉を言いやがる。」

「なあ、俺は仇討ちが馬鹿だとは認めねえ。でも、オキ、それを支えるのが馬鹿だってのはそうだと思う。お前は俺を置いて普通の生活をしてもいいんだぜ。」

「そうはいかん。俺がいなければお前は仇討ちをいつまでもできん。俺が手伝ってさっさと終わらせるぞ。」

「そうか。帰りたいか。俺がいいなら戻りたいってことだろ。じゃあ、俺もやめるよ。」

「何を言っているんだ?」

「俺が邪魔で戻れないなら、俺はどくよ。俺のせいでお前が死んじまったら最悪だ。」

「いいのか?お前はそれで。」

「ああ。ここ最近、思ってたんだ。これやって、死んだあの人が喜ぶのかなって。きっと喜ばない。そしてもう俺は若くない。やめどきだ。」

「そうか。」

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