不可解な結末
「もしかして“オットー”が盗んだんじゃないか?」
「なんでそう思うんだ?」ベントは首を傾げながら聞く。
「アイツが授かった能力は【盗みの極意】だろ?
だったら、能力を授かった直後に試しに使って、その時たまたまエマのブレスレットを盗んだ可能性がある。」
俺も能力を受け取った後、すぐに使ってみた。
十歳そこらの子供なら、好奇心で能力をすぐ使いたくなる可能性は高い。
「確かに、それはあり得るかも。それじゃあ、すぐにオットーを探そう。」
そう言ってベントは走り出そうとした。
「ちょっと待て。仮に俺たちがオットーを見つけて、ブレスレットを持っているか問い詰めたとしても、嘘をついて言い逃れるだけじゃないか?」
この世界では物的証拠を得ることがほとんどできない。
防犯カメラがないだけで、ここまで大変なのか……。
「その時は無理やり服の中を調べればいいんじゃないか?
相手は平民なんだから、貴族が多少乱暴なことをしても怒られないだろ?」
「確かにそうかもしれないけど、私なら盗んだ物をずっと持ち歩いたりはしないよ。」
普通、盗品を犯人がずっと持ち歩くことは少ない。
どこかに隠している可能性の方が高い。
「それじゃあ、どうしろって言うんだよ!」ベントは少し怒ったように言う。
「そんなの簡単だよ。貴族は何をやっても許されるんだろ?」
前の世界ならかなり危ない行為だけど……。
【第三ホール】
「なんで俺たちは貴族なのに、平民の後ろをこそこそ歩いてるんだ?」
ベントは相当プライドが高いようだ。
子供の頃から“貴族は偉い”と教え込まれてきたのだろう。
「これは尾行だよ。」
「尾行?」ベントは横で首を傾げる。
「尾行っていうのは、相手を監視して行動を調べたり、証拠を集めたりすること。」
「つまり、俺たちは今オットーを監視して証拠を集めてるのか?」
「そういうこと。」
「でも、なんでオットーが第三ホールにいるって分かったんだ?」
「執事さんに“オットーっていう平民はどこにいますか?”って聞いたんだよ。
そしたら第三ホールにいるって教えてくれた。」
前の世界なら、プライバシーの観点から居場所なんて普通は教えてもらえない。
しかも今の俺たちは探偵でもないから、尾行なんて普通に犯罪だ。
……これは悪行にならないよね、神様。
「これからどうするんだ?」
「まず、オットーがブレスレットを持っているかどうか、私が確認する。」
「そんなことできるのか!?」
「せっかくの能力なんだから、有効活用しないとね。」
鑑定を発動させると、平民たちが身に着けている物の情報が頭の中になだれ込んできた。
『マリーおばさんの手製の服』、『兄のおさがり』など様々だ。
全員分を確認したが、ブレスレットのような装飾品は一つも見当たらなかった。
「駄目だ。誰もブレスレットみたいな装飾品は持ってない。」
「どうやってそんなこと確認したんだ!?」ベントが驚きながら尋ねる。
俺はさっきやったことをベントに説明した。
「じゃあ、お前……さっきの数秒で数十人分の持ち物を鑑定したのか?」
「そうだよ。」
文字を読む必要がなく、情報が直接頭に流れ込んでくるから楽だな。
「鑑定にそんな使い方があったんだな……」ベントは感心したように呟く。
「そういえば、ベントはどんな能力を獲得したの?」
「俺の能力は、お前みたいに応用は利かないぜ? 【超再生】だ。
怪我をしてもすぐ治るらしい。」
ベントは少し残念そうに言うが、絶対その能力強いだろ……。
数分ほど待っていると、神父たちが平民たちに声をかけ始めた。
どうやらそろそろ解散らしい。
貴族は終わればすぐ帰れるが、平民はまとめて帰されるようだ。
「シュゲル、オットーが他の平民と違う方向に歩き出したぞ!」
確かにオットーは、他の平民とは逆方向へ向かっている。
「多分、あっちに盗品を隠してるんだ。静かについて行こう。」
気づかれないようオットーを追うと、彼は大きな壺の前で立ち止まった。
周囲を見回してから、壺の中へ手を入れる。
その瞬間、ベントが後ろから飛びかかった。
「うわっ!?」
驚いたオットーは、そのまま壺の中へ落ちてしまった。
急いで中を覗き込むと、オットーは大事そうに何かを抱えている。
「ベント、多分あれがブレスレットだ!」
ベントはオットーを壺の中から引っ張り出した。
「お前、何を持ってるんだ?」ベントが問い詰める。
オットーは怯えた様子で、手の中の物を差し出した。
ああ、この顔を俺は見たかったんだ。
“絶対にバレない”と思っていたトリックが暴かれた時の、怒りと驚愕、そして絶望が入り混じった表情を。
やはり子供の方が感情が顔に出やすい分、美しい。
『善行を行いました!!』
そんな言葉が頭の中に響いた。
どうやら善行を行うと、こうして知らせてくれるらしい。
ベントがオットーから奪い取った物を確認する。
しかし、それは俺たちが探していたブレスレットではなかった。
「これは……羊皮紙?」
オットーが持っていたのは、丸められた羊皮紙だった。
「なんでこんな物を平民のお前が持ってるんだ!?」
確かに、中世では羊皮紙は高級品で、普通は貴族しか持てないはずだ。
「僕が壇上で能力を授かった時、試しに能力を使ったらポケットに入ってたんだ。
売ればお金になると思って取っておいたんだよ。」
「もう戻っていいぞ。ただし、この羊皮紙は没収する。」
オットーは悲しそうに肩を落としながら、平民たちの集団へ戻っていった。
ベントが羊皮紙を広げる。
「シュゲル、お前って魔力壁を壊せるか?」
「いや、そんなことできるわけないだろ。」
おそらく“魔力壁”とは、魔力による封印のようなものだろう。
「だよなぁ。この紙、読もうとしても魔力壁でぼやけて見えないんだ。」
覗き込むと、文字の部分だけが薄くぼやけていて読むことができない。
「見た感じ、これは契約書じゃないかな?」
下の方には、赤い血判が二つ押されている。
「鑑定で調べられないのか?」
「分かった。やってみる。」
鑑定を発動すると、この紙の情報が頭に浮かんできた。
『魔力壁により、持ち主のみ判別可能。
ルキア教・中神官バルバトスが所有者です』
「持ち主は、バルバトスって人らしい。」
「バルバトスって、さっき俺たちの儀式を担当してた神官だぞ!
これ、届けた方がいいよな?」
「確かに。」
落とし物を届ければ、また善行になるかもしれない。
急いで、先ほどまで儀式が行われていた“与えの間”へ向かった。
どうやら貴族の儀式はすでに終わっているようで、中にはエマと老執事しかいなかった。
「ベント、シュゲル! 私のブレスレットは見つかった!?」
「いや……見つからなかった。ごめん。」
するとエマは再び泣き出してしまった。
そんなに大事な物だったのか……。
「とりあえず、この落とし物をバルバトスさんに届けよう。」
「そうだな。まだ壇上にいるみたいだし。」
ベントが壇上を指差す。
「バルバトスさん、これ落としませんでしたか?」
ベントが羊皮紙を差し出した。
「ああ、それ私が探していた物だよ。見つけてくれてありがとう。」
バルバトスは笑顔で受け取る。
「すまないが、中身は見ていないよね?」
「はい。魔力壁があって読めませんでした。」
その瞬間、一瞬だけバルバトスの表情が歪んだ。
だがすぐに笑顔へ戻る。
「それなら問題ない。これは重要な契約書でね、他人に見られてはいけない物なんだ。」
やはり契約書だったのか……。
エマたちのところへ戻った時、頭の中に不可解な声が響いた。
『悪行を行いました。』
少し文章の書き方を変えてみました。
読んでくれてありがとうございました




