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第4話 占い。

「勇敢なお嬢さん、助けてくれてありがとう。お礼にお前さんの未来を占ってあげよう。」


深くしわを刻んだ老婆が、テントの前の蹴散らされたテーブルと椅子を戻すと、僕にそこに座るようにと椅子を勧める。


ビダル国の秋祭りは盛大だ。


元々、金を産出する国であるので、自国に軍も持っており、北の大国フールと南にセルブロ帝国と二大勢力に挟まれても独立を保っていられるのも、それゆえのところは大きい。秋祭りは収穫祭と、金鉱山が大雪のために閉鎖する前のほんの少しの息抜きの時間でもある。冬になると鉱夫は山を下り、夏の間に大河近くまで降ろして置いた鉱石の選別作業をする。もちろんすべて国家管理下だ。


王都はその金鉱山の麓にある。


祭りは近隣住民が野菜を売りに来て居たり、出店を出したり、いろいろな国の商人が思い思いのものを売っていたり、ワイン蔵の新酒が出たりする。歌ったり、踊ったりで毎年賑やかに1週間ほど行われる。国中外から人が集まってくる。

山の鉱夫が酒に酔って暴れたり、喧嘩が始まったりするので、軍が出て警備している。

僕も今回は祭りを楽しみながら、側近のカミロと馬で警備に入っていた。

レマ、と呼ばれる旅をする人々がテントを張り、にぎやかに踊っている。そこに酔っぱらった山の鉱夫がからんで喧嘩になっていたのを止めたところだ。


「お嬢さんだ?この方はアインゲル第一王子殿下だ。無礼は許さないぞ?」

「まあまあ、カミロ。いいじゃないか。祭りだ、もめるな。」


自分自身でも、線が細いとは思っている。剣術の稽古も手を抜かないが、筋肉が付きにくい体質なのかもしれない。もともと、母親に似たので、そうなのかもな。


酔っ払いが蹴散らかしたテーブルを整えて、座りなおしたばあさんが、僕に席を勧める。向かい合って座る。


そう言えば、レマのカード占いをしてもらってきたと侍女たちがよく話してたなあ…。大方は恋の占いとか?


そのばあさんは…若い頃は黒髪だったんだろう。被ったショールから少し見える長い髪はすっかり白くなって、顔のしわもすごい。目は…読み切れない。褐色の指の爪が綺麗に磨かれているのがなんとなくアンバランスで不思議だ。

カミロは先の酔っ払いたちを衛兵に引き渡している。


ばあさんは使い込んだ古いカードを両手で回し始める。整えて、僕から見たら、かなり適当に、3枚のカードを並べたように見えた。角が丸まって、もう何十年もこうやって回され続けたカードなんだろうな、と、ぼんやり考える。


「この3枚のカードはお前さんの、過去、現在、そして未来さ。見てみようかね。」


そう言ってばあさんが、過去、と言ったカードをひっくり返す。よくわからない絵柄が丁寧に書き込まれている。男がテーブルを前に棒のようなものをかざしている?そんな絵柄だ。


「ほお。これは魔術師さ。お前さんはきちんと自分の使命を自覚して努力して来たんだねえ。」

「……」

なんとコメントしていいのかわからず、黙る。まあ、一国の王子として恥ずかしくない生き方をしようと努力はしてきた。


「さて、じゃあ、現在、お前が置かれている状況。」


ばあさんが真ん中のカードをひっくり返すと、高い塔に雷が落ちたような絵柄。


「ほう…突然の出来事、混乱…喪失…」

「……」

「でもな、手放すことで新しい道が見つかる。決して悪いカードではない。お前の身の上に起きることを転機だと思え。」

「……」


「さて、お前の未来だ。よく見ておきな。」

そう言ってばあさんが最後のカードをひっくり返す。空で廻る車輪?


「ああ、すごい。運命の輪が出たね。先のことかもしれない、何年後になるかもわからないが、これが幸運の波だ!と思う時があったら、何も迷わずにその波に乗るんだよ?いいね?幸いあれ!」


「……」


ばあさんは満足そうにうなずくと、僕に手を出した。

「500リル。」


…金とるのかよ?


僕はポケットを探って、ばあさんの手に金貨を一枚握らせる。


「おやおやおや、気前いいねえ!」


ばあさんは深いしわをもっと深くして笑い、おまけのように言った。


「じゃあ、金貨のお礼に一つだけ。何かあったら南に逃げな。いいね?」


…いや、今のところ何も逃げる要素なんかないけどな?そう思いながら、頷く。


「あたしたちゃあ、あと3日もしたらここを立って南に向かう、ぼやぼやするとこのあたりは雪になっちまうからね。南に移動するのさ。」


…なるほど。旅をする人たちだものな。


ここの冬はなかなか厳しい。フール国との間にある高い高い山脈に雪が降りだすとあっという間だ。その山が、うちの国がフールに狙われながらも独立を保っていられる要でもある。


「ああ、ありがとう。その時はあなたのテントにでも逃げ込むよ。ふふっ。」




僕は、その時はまだ知らなかった。


そう、何一つ。





城に帰ると、城門は閉鎖されていて、僕はすぐさま拘束されて、牢に閉じ込められた。


母上が父上を刺殺した?…あり得ないことが起っていた。


目撃者は側室殿とその息子の義弟と側近のグルツ候。

お二人は義弟、アベリオを立太子させることで揉めていた、と証言した。王妃がいきなり陛下を隠し持ったナイフで刺し殺し、側室殿の命も狙おうとしたので、グルツ候が仕方なく応戦した…と。



窓もない牢で、降り出した雨を感じていた。転がされたレンガの床が急に冷たくなる。



将軍のガイスカが…祭りのケンカで顔の造形がわからなくなるほど蹴り殺された金髪の死体を牢に運び込み…僕は雨の中を走った。



振り向かずに走れ!と、ガイスカの声が、大雨でかき消される。

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