第3話 月夜。
春祭りを渡り歩きながらゆっくりと北上する。
どの町で、いつ、どんな祭りをしているのか、ウマばあさんは把握しているようだ。書き留めた物とかを見たことはないから、覚えているんだろう。
女子供も含めて、総勢30人ぐらい。途中、気に入った男が見つかって嫁に行く人や、嫁に行ったが子連れで戻ってくる人とかもいる。もちろん、働きぶりを買われて農家に婿に入る者も。
歌い手のヴァニは出戻り組らしい。
嫁に行ったが無性に旅に出たくなって、家を出てきてしまったらしい。
おおらかなのか、一人では生きていけないほど厳しいというのか…来る者は拒まず、去る者は追わない。
旅の途中の森のはずれでテントを張った。
ヴァニが歌っている。
これは古典語らしく、私には意味が分からないが、お祭りで歌っている早い拍子の歌と違って、ゆっくりとした物悲しい歌だ。
「故郷を思う歌なのよ。」
そう世話役のミーナが教えてくれたが、この人たちの故郷は、もう記憶にもないほど遠い土地らしい。
月が明るくて、どこまでも歩けそうな夜だ。
「…昔な、こんな月夜に一人の身重の高貴な女が訪ねてきてな…もう、18年も前になるか…。」
灯を落としたテントの中で、寝ころんでヴァニの歌を聞いていたウマばあさんが、思い出したように語りだす。
「この子…腹の子は男か女か、見てほしいというのさ。ちょうどあの頃、セルブロ帝国の皇帝陛下の正妻が死んでしばらくしたら、近隣各国がこぞって自分のところの王女を皇帝の側室にあげだして…そのうちなんでそうなったのか…子供でもなんでも…しまいにゃあ赤ん坊まで後宮に召しあげるようになってな。」
「……」
「あの頃、帝国は…後宮に王女をあげない国を謀反だのと言いがかりをつけて攻めこむ愚行に出だしたんだ。おかしな話だよ。」
「…それで?おばあは…その方の未来を見たんですね?」
ディヤは薄汚れたテントの天井を見つめながら、ウマばあさんの次の言葉を待っていた。
「いや、その腹の子の未来を見た。」
「……」
「若い頃は苦労するが、必ず太陽を手に入れる子だ、ってね。」
「……」
「その女は二度も流産して、この子が最初で最後でしょうから、って…。月明かりの中を帰っていったよ。産まれたのは…。」
「…女の子だったんですね。」
「…ああ。その女は旦那と相談してその子を男の子として育てた。もう少しで、跡取りにできる年齢だったんだけどな…。」
「……」
おばあの顔を月明かりが照らしている。
「お前は何度見ても、太陽を手に入れる。運命の波が来たら、それを逃すな。」
「……」
3年前のビダル国の王都の秋祭りで、私はこのおばあを助けた。酔っ払いの鉱夫たちにテントをめちゃくちゃにされかけていた。ちょうど警備で通りがかって…。
お礼だと言って、おばあは私の過去、現在、未来を見てくれた。あの日…。
私は父も母も、何もかもなくして…。
「その時…素直に女の子として育てていれば?」
「お前は今頃は帝国の後宮にいて、この月を眺めていただろうな。」
「でも…そうしたら…父も母も死ぬことはなかった?」
「なあ、ディヤ、過去の、もしも、は占えない。占っても仕方がない。あるのは今と未来しかない。」
「……」
「ビダルは、ちと、大変な状況らしい。帝国の将軍が動くという話もある。あの国は中立が守れず、フールに傾いた。あの位置にある国がフールに傾くのを帝国は許すまいよ。」
「……」




