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第13話 新しい朝。

朝、目が覚めたら、珍しくディヤがまだ寝ていた。

髪も縛っていない。


雪道をかなり歩いたし、風呂に入れて、テンションが高かったから、疲れたんだろう。俺の腹に背を当てて丸くなって寝ている。ごろりとうつぶせ気味に寝返りを打って、ベッドから落ちそうになったので、慌てて脇に腕を回して引き寄せる。


…ん?


こいつは…いつも思っていたが、男にしては柔らかい。もう少し筋肉をつけた方がいいな。昨日、こいつがフールの兵を倒したのを観察したが、動きは悪くはない。短いナイフを使い慣れていない、って感じかな。弓ももっと引けるはずだ。


それにしても…胸筋がふわっふわだな?もう少し、こう…


「…なにやってんだ?サティシュ?」


「ん?起きたのか?おまえがベッドから落ちそうだったから、救出した。」

「…あ、ありがとう…あの…手…」

「ん?お前もう少し胸筋を付けた方がいいぞ。弓を引くにもこんなに胸筋が柔らかかったら力入んないだろう?」


ちょうど片手に収まるぐらいの胸筋。なんていうか…結構、癖になる弾力。


「ん?ディヤ、耳が真っ赤だぞ?どうした?耳だけ冷えたか?」


「……」

「前から思ってたんだけどな?筋肉少なすぎ。体中、柔らかいし。もっと、鍛錬をだなあ…」

「か…体中?」

「ああ。お前、寝相悪いし。寒いと、毛布にもぐってしがみついてくるしな。尻も柔らかすぎ。」


「…尻?…尻も触ったのか?」


「うん。尻の筋肉も大事だ。あと、昨日着替えてるのも見たけど、腰が細すぎる。背筋もつけろ。」

「え?…いつ見たって?」


「ああ。俺は夜目が効くんだ。」


「…って!いつまで触ってんだ!!!」


ガバリと起き上がったディヤ。顔が真っ赤だぞ?あ?怒っているのか?筋肉無いって言ったから?昨日風呂に入ったからか、ディヤは珍しくシャツ一枚だ。


怒りながら押し相撲でもするつもりらしい。俺の両腕を押してくるが、腕力もない。

「くっそおお!!!」


くくっ、自棄になってもかわいい。


…ん?



*****


こいつはいつまでも私の胸をもんでいる。反撃しようとサティシュの腕を押し戻そうとムキになって腕を押していて…自分の腕に顔料を塗っていないことに気が付いて、愕然とする。


しまった…。


早起きして、皆が起きる前に顔料を縫って乾かそうと…寝る前は思っていたのに…今日に限って寝過ごしてしまった!


サテッシュを押し倒して置いてから、事の重大さに気が付いた。


あわてて毛布に潜り込む。そうだ…昨日風呂に入って浮かれて…顔もそのままじゃないか…ばれたか?


「お、お前…」


震えるようなサティシュの声を、毛布の中で聞く。

…だよな…ばれたよな?


「…お前…女か?」


は?

そこ?


しかも…今?



*****


確かに今まで、動きやすいようにシャツにズボンだった。だけどさ…普通気が付かない?声とかさ。まあ確かに私は、グラマラスなスミタにはいつも胸が小さすぎるとバカにされてはいたが。


「うん。男にしては声が高いと思っていた。変声期前の子供なのかと思っていた。」


サティシュの包帯を替えて、着替えさせる。昨日まで着ていた服は、今日洗う予定だし。こいつは本気だ。嘘を言っている気はしない。なんか逆に腹が立つ。


「レマの女は、皆、お前みたいに戦うのか?」


暖かいチョッキの上に上着を羽織らせていると、そう聞かれた。


「どうだろう…戦える人もいる。かな。ここのパヴァンはその昔、帝国軍の傭兵だったらしい。男衆は結構傭兵に出ていたみたいだな。旅に戻ってきた人もいるし、そのまま残った人も、死んじゃった人もいるらしいけど。はい。靴下履こう。」


サテッシュをベッドに座らせて、靴下を履かせる。


窓の外はもさもさと雪が降りだした。

ウマばあさんたちはもう、南の国までたどり着いた頃だろうか。


こんなふうに降り出すと、ビダル国ではもう春まで雪だ。

王都のあたりはそうでもなかったが、それでもかなりの積雪だった。鉱山のあたりはもう埋まっているだろう。


ほんの3年前、か、もう3年も前か…ずいぶん遠くに来た気がする。


私も久しぶりに長いスカートに着替えて、ショールを羽織る。


居間に行くと、皆起きて食事をとっていた。


にまっと、おばあが笑う。


まあ、私が転がり込んだ最初から知っているパヴァンは別として、おばあもサハジも顔料を塗っていない白い私の顔を見ても何も言わない。


…と、言うか…サティシュに至っては、女だった衝撃が大きすぎて、皮膚の色なんて気にも留めていないようだ。それはそれでどうなの?まさか、風呂に入ってついていた汚れが落ちた、とか思っていないわよネ??


朝食後に、風呂の残り水で洗濯を終わらせて、干す。

サハジがサティシュに、籠編みを教えていた。

パヴァンは勝手口で昨日せしめてきた剣を研いでいるところだった。


午後に、テーブルを綺麗に片づけて、皆でお茶にする。薬草茶だ。


ヴァミばあさんがカードを広げている。

「……」

「占いは、自分を見つめなおす道具みたいなもんさ。占いで人生が決まるわけじゃない。どうするか、どう生きるか、最後に決めるのは自分自身だからね。」

「……」

「ディヤ、この金貨を手に取ってごらん。昨日のフールの兵が持っていたものだ。」


サハジが少し低い声でそう伝えて、私にビダル国金貨を一枚手渡す。


見たところ、何の変哲もない金貨だが…持つと、ほんの少し違和感があった。


「…少し、重いですね?」

「……」

「そうだ。混ぜ物がしてある。ビダルは、こんな金貨が流通するようになった。」

「……」

「……」

「こんなことで済めばいいな。昨日フールの兵の話も聞いたのだろう?春には、ビダル国が帝国の将軍を殺害したと言いがかりをつけて、帝国軍が入ってくるだろう。ビダルの国軍はどこまで持つかな。両国が散々戦った後に、フール軍があたかもビダルを助けようとするかのように山を越えてくる。そんなあらすじらしいな。」

「……」

「ディヤ、ウマはいい名を付けた。さあ、一枚カードを選べ。」


顔料を塗っていない、白い私の指が、一枚のカードの背を選ぶ。









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