第10話 冬。
11月も中旬になると、雪が降るようになった。
少しずつだが積もってきた。
ディヤは俺が寝たのを見計らって、俺の布団に入ってくる。明け方冷え込むと猫のように丸まって俺の毛布まで巻き込んで毛布にくるまるので、俺が寒い。
「お前さ、こっち側で寝てくれない?明け方になるたびにお前に毛布取られて、俺、寒いし。」
「……」
まさに今、布団に潜り込もうとしているディヤに背中越しに声をかける。
「…ばれてた?だってショールだけじゃ寒いし。」
「ほかの人たちはどうしているの?」
「だってあの部屋、暖炉あるし。そっちで寝ようかとも思ったんだけど…足の踏み場無いし。」
「ふーん。ほら。こっち来い。」
しぶしぶ背中を向けて布団に入ってくるディヤ。
いつもそうだが、入ってきたばかりの時は冷ッとする。くっつかれた足の先が氷のように冷たい。
仕方がないのでディヤの足を自分の足で挟み込む。
「…なっ…」
「冷たい足だな。早く寝ろ。」
動かせるようになった右腕で抱え込むと、ちょうどスポッと収まって、いい塩梅の抱き枕になることが分かった。冷えた足が俺の体温と同じになるころには、奴は寝息を立てていた。
こいつ、思ったより柔らかいな。
そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまった。
*****
テントの中は雑魚寝だ。
寝相の悪いスミタが、今日もまとわりついてくる。でも、誰かの体温が感じられるのが嫌ではない。随分と気が弱くなったなあ…そんなことも考える。
朝起きると、私をぎゅうぎゅうに抱きしめて寝ていたのがサティシュだったことに気が付き、少し慌てる。でも、布団を出たくないほどぽかぽかだ。意を決して、そっとサティシュの右腕を外して、起き上る。
せっかく温まった足が冷える前に、急いで靴下を履く。
布団に潜り込んでいるのがばれてからは、こんなふうに普通に寝ている。
寝る前になんだかんだと質問される。私の分かることには答えている。
「レマ族はどこから来たんだ?」
「昔々…大昔に、東の大陸から旅をしてきたらしいよ。だから、みんな皮膚が褐色だよネ。歌も、エキゾチックだし。」
「そんな昔からいて、混血しなかったのか?」
「したよ。私みたいに、金髪碧眼の子も結構いるし。でもその子も多分レマの人と結婚するだろうから。」
「ふーん。」
「レマのグループ同士の交流は?どうしているんだ?」
「普段はそれぞれのグループであちこち帝国内を回ってる。お祭りとか。冬になると南に下るから、そこではたくさんのレマに会うよ。」
「なあ…旅ばかりでは疲れないのか?どこかに落ち着きたいとは思わないのか?」
「どうなんだろうね。みんな旅の途中で生まれて、旅の途中で死んでいくよ。ここのヴァミばあさんは特別なんだ。」
「……」
背中で…急にサティシュが黙り込んでしまったので、よっこいしょと寝返りを打って、サティシュの顔を見る。月明かりがカーテンの隙間からほんの少し差し込んで、なんとなく表情が見える。泣きそうな顔だな。
「どうした?」
「……俺は…」
「ん?」
「俺は13から旅をしてきた。帰るところのない旅は…辛い。」
「そっか。大変だったな。」
「……」
もぞもぞとほんの少し毛布から出て、サティシュの頭を抱えてやる。
「…いつか、どこか、帰るところが見つかると良いな。な?」
ぽんぽんっ、と、サティシュが寝付くまで、背中を叩いてやった。
月明かりが私たちの寝ている毛布に柔らかな光を落とす。
こいつは…皇帝の息子だというのに…帰るところがないと言う。
私は?
春になったらウマばあさんのテントに帰るのだろう。
仮住まいでも…こいつよりは恵まれているのかもな。
…そして?それからは?
子供の様にしがみついたまま眠るサティシュを抱きしめながら、考えても仕方がないとあきらめていたことを考えた。
ザザッ、と枝から雪が落ちる音がする。
その後の長い長い静寂を聞いている。




