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三姉妹傾国記  作者: 梢瓏
第一章 次女の章
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色んな魔法

 レインとヴィンセントが陣痛室に着くと、さっきの看護師に聞いた通りに担当の者と思われる別の看護師が待機していた。

「殿下!?それに料理長まで、一体どうしたんですか・・・もしかして、お湯を沸かしに?」

 2人が持つ、たらいと鍋二つに目を向けた看護師は、レインが説明する事無く状況を判断する。

「分かりました、ではこちらの流し台で鍋に水を溜めてください。殿下の持っているたらいには、水を適量、手首が浸かる位までの量を入れて、こちらの台の上に置いてください。

 2人は看護師に指示された通りの行動をして行く。

 流し台の方では、鍋に水が溜まりつつあった。

「料理長の鍋の水ですが、温度調節は可能でしたよね?一つは沸騰した直後の様なお湯でお願いします。もう一つはお風呂のお湯位の温度で。出来ますか?」

 看護師に問われたヴィンセントは、

「あたぼうよ!ワシを誰だと思っとるんじゃい!!」

と言いながら、鍋に向かって水の温度を操る魔法をかけていく。鍋の上にかざした右手は、青い光に輝いていた。

 その光景を見ながらレインは、

「ヴィンセントってさ~、元はスレアドニスの生まれなんだっけ?」

と尋ねる。すると、

「ワシが生まれたと言うより、ワシの両親がスレアドニスの生まれと言うのが正しいな。それでこの魔法は遺伝と言うか、両親が一つくらい何か魔法を使えた方が良いって言って、小さい頃に厳しい鍛錬を積んだ・・・と言いたい所だが、実は生まれた時から使えた。そんな所だな。」

 そう言って、ニカ!っという感じで笑った。

「へぇ~!生まれた時から、それはかなりの才能だな。」

 レインは、鍋の中の水が火も使わずにみるみる熱湯になっているのを感心しながら見ていた。

 魔法が使えるって凄いな、自分には使えない。まぁ、生まれも育ちもラフェトニカでは難しいだろうな~と、半ば羨まし気にヴィンセントの手を見ていた。

「でもなぁ、殿下。魔法が使えるったって生かせる場所を見つけないと宝の持ち腐れなんですわ。」

 レインの心の中を読み取った様な事を、不意にヴィンセントは呟く。

「この、水の温度を調節する魔法、昔は何に使ったらよいのか皆目見当も付かなかったんだ。だが、料理と出会ってからようやくこの魔法の使い道が分かったってもんで。それがほんの20年前の話でさ~。殿下がまだ、ほんの子供の頃の事なんですわ。」

 ヴィンセントがそう言い終わると、

「はい!口動かさないで手を動かす!今分娩台では、生死を分ける大魔法が執行されようとしています。ルクレイツィア様が、2人目の子供を帝王切開と言う方法で取り出そうとしているのです。あと、一人目の産湯使うので、殿下のたらいと熱湯少し貰っていきますね!」

 レインとヴィンセントの昔話の途中で、物凄い事をサラリと言って看護師は産湯の入ったたらいを持って隣の分娩室の方に去っていく。

分娩室は男子禁制のため2人は入れないのだが、看護師の言葉の中にあった『大魔法』と『帝王切開』と言う単語が異様に気になった。

「ヴィンセントは、誰か親戚とか家族の出産に立ち会った事ってあるか?」

 レインは、隣の部屋で行われていると言う壮絶な状況を想像しながら、初老な年齢のヴィンセントに尋ねた。

ヴィンセント位の年齢なら、それ位の経験も何度もしているだろう?と言う想像の上だったのだが。

「いや、無いな。まずワシ独身だし。今は。昔は妻帯者だったこともあったが、その時は子供に恵まれなかった。だからこの水の温度を操る魔法もワシの代で終わりだな。誰に受け継がれる可能性も残っていない。」

そう言って、自分の右手の手のひらを見た。

 ああ、そうか。

 ヴィンセントの魔法は両親の遺伝で生まれた時から使えていたのだ。

 もし、これから先何か良い運や巡り合わせに出会う事が無ければ、この魔法はヴィンセントだけで終わってしまう可能性があるのか。

 レインは、受け継ぐ者の居ない希少な能力が絶えるのは、あまり良くない事だと思っていた。

けれども、それをレインにはどうすることも出来なかった。ただ、今はその力を思う存分に発揮しつづけてもらうしか無かった。


 看護師が産湯を持って行ってほんの数分後だっただろうか?

それとも10分以上は経過していたであろうか。

 レインが少し疲れた様子で椅子に座っていると、

「はい!2人とも!!今度は多めに産湯が必要です!そこの大鍋にお風呂のお湯の温度のお湯をたくさん!作ってください!!」

と、やたらと意気揚々な感じでやってきた。

 慌ててレインとヴィンセントはお湯の準備に取りかかる。その様子を見ながら看護師は、

「やりましたよ~!ルクレイツィア様は凄いお方です!!あんなに難しい出産を成功させてしまったのです!つまり、三つ子は無事です!!」

とても嬉しそうに、分娩室で起こった奇跡をレイン達に話した。

 レインは、

「へ、へぇぇ~!それは凄いな?俺は全然見てないから何が起こったか見当も付かないけど、でも凄い事をルクレイツィアがやって、そしたら赤ん坊は全員助かったって事なんだろう?」

「ですです!!」

 看護師は、レインの見解を手短に肯定した。

 ん?何かこの看護師、今日初めて会った様な気がするのにやたらとフレンドリーじゃないか?とレインは思ったが、まぁこの国じゃそんなの当たり前だったな?と気持ちを切り替えた。

「へい!ご依頼のお湯がたくさん出来たぞ!って、こんな重いの一人で持って行けるか?」

 ヴィンセントが、依頼されたお風呂のお湯と同じ温度のお湯を完成させ看護師に声をかけると同時に、何となく思っていた事を問いかけた。すると、

「大丈夫です!私これでも重さを調節する魔法がちょっと使えるんですよ。なので、この重いお鍋も・・・えいっ!」

 看護師がお湯が大量に入った大鍋の両手の持ち手を掴んで持ち上げようとすると、普通なら「うう~~ん!」と言う風な掛け声をかけなければ簡単には持ち上がらない筈な所が、

「お!軽~い!」

と看護師が言って持って行ってしまった。

「へぇ~!ヴィンセントの水の温度を調節する魔法にも昔はかなり驚いたけど、持っていくモノの重さを調節出来る魔法ってのもあるんだな、これまた驚いたぜ!」

 一連の看護師の行動を見ていたレインは、顔では平静を装っていたが、心の中ではかなり驚きを隠せないでいた。

 こんな便利な魔法があったら、特に街中ではいろんな仕事に引っ張りだこだろうな~と。

 そして、何の魔法も使えない自分の手のひらを見て、短い溜息を吐いた。

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