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三姉妹傾国記  作者: 梢瓏
第一章 次女の章
12/24

忙しい?日々

 新しい部屋での生活が始まってからもう、一週間ほどが経っただろうか。

 ルクレイツィアはには改めて『仕事』らしい役割が与えられていた。それは、ラフェトニカ軍の軍医だった。

 ラフェトニカ軍は主にラフェトニカの国自体を守る仕事の他に、従属しているメルルーク・ラングルスでの自衛の任もあった。

 メルルーク・ラングルスは昨年の侵攻戦の一件以外にも、以前から周辺諸国の特にナル・アルファストラ王国との小競り合いが多く、年にどころか月に数回はある年もあったりで、とにかくその辺との攻防で傷付く兵士は多かった。

 また、ラフェトニカの様にメルルーク・ラングルスに特にコレと言った不満や反発心を抱いていない従属国ばかりではなく、メルルーク・ラングルスが従えている他の2つの国ルシルラドとニルギリシアのうち、特にニルギリシアは数年に1度は反旗を翻してメルルーク・ラングルスに宣戦布告していた。

それを鎮圧するために、同じ従属国のラフェトニカやルシルラドの兵士も駆り出されるのだが、出来れば同じ立場の国同士でドンパチやるのは精神的にも肉体的にも疲弊するので、メルルーク・ラングルスの王はもちろんの事、ルシルラドやラフェトニカの王も、ニルギリシアの考えている事を理解するのは難しいと思っていた。

 そんな感じで、ルクレイツィアが働く軍の病院では、怪我をした兵士がたくさん入院していた。

最初に配属された時は、数百人は入るであろう講堂の様な所にズラリとベッドが並べられていて、そのベッド一つ一つに誰かしらが寝かされている。

中には腕に点滴や薬を入れられている者も多数存在していた。

「嗚呼・・何てことでしょう・・・」

 オルトフレイルにも軍の病院はあったが、ルクレイツィアの様な治癒の魔法が使える者が常時十数人程度常駐していたので、ベッドに長期間寝かされて入院生活を送る者は少なかった。

 この、ラフェトニカのスメルリナ城の病院の様な光景は、今までの人生で初めて目にしたのだ。

「いつもこの病院では、こんな状況なんでしょうか?」

 ルクレイツィアは、配属された初日に病院の治療担当の偉い人に質問した。

「ああ、そうだ。この状態がいつもだ。ベッドが半数空になった所をワシはここ30年は見とらん。いつかこの病棟のベッドが全部空になる日が来るのだろうか?生きて回復してベッドを後にする者が増えて欲しいものだが。」

 後半の言葉には、死んでしまってベッドが空になる事の方が多い・・・とルクレイツィアには聞こえた。

それ位にこの病院では怪我人や病人の数に対しての治療魔法担当者が少ないのだ。

 よくある野戦病院の様に、傷は怪我人の回復力に頼って包帯を巻いて鎮痛剤を飲ませると言った、必要最低限の事しかされていない人が殆どだった。

 この状況を何とかしなければ。自分が少しは今治療に勤しんでいるお医者や看護師や治療魔導士の助けにならなければ!と、一歩前に出た。そして、

「緊急で治療が必要な患者さんは誰ですか?」

と、近くにいた看護師に尋ねた。


「あの時はもう~!凄かったんですよ!」

 レインが書類系の仕事を主にする執務室には、ほぼ幼なじみの従者3人がたむろしていた。

ルクレイツィアはまだ、そこには来ていなかった。

「オルトフレイルの治癒術って、ラフェトニカに伝わっている治癒術なんかより全然!高度なんですよ。」

 先程現場に行ってルクレイツィアの仕事ぶりを目の当たりにしてきたエルマキアが、かなり興奮した様子で話す。

「殿下は見に行かないんですかな?ルクレイツィア様の事は、かなりお気にされていたご様子でしたが。」

ソフィールが、眼鏡のズレを人差し指で直しながらレインに、更に圧力?をかける。

「・・・・」

 レインが何か言った様だったが、

「殿下、今なんて言いました?」

アルマーが、レインに近づいて今発した言葉の内容を確かめる。

「・・・・ってる」

「え?聞こえませんでした、もう一度。」

 段々と、肩が震え始めるレインを認識しながらも、3人はレインへのちょっかいを止めなかった。

「し・・・ってる?一体何をですか?」

 アルマーが再度尋ねた直後、レインは急に椅子から立ち上がり、

「お前らぁぁああ~!!仕事の邪魔だ!!出て行け!!あと、ルクレイツィアの魔法は俺は何度も見て知ってる!!」

と、かなりのご立腹を示した。

 こうなるともう、レインは何をやっても無反応になる事を3人は知っていたので、

「はいはいはーい!撤収撤収!皆持ち場に戻ろう~。」

エルマキアが他の2人の背を叩いて、レインの執務室から出ていく。

 去り際に、

「さっきお嬢(ルクレイツィアの事)に会ったら、何か淋しそうでしたよ。レインとしばらく話せてないって!」

そんな言葉を投げかけて、扉を閉めた。

 廊下に出た3人は、

「あ~、何か根詰めすぎなんだよな~レイン。」

「本当ほんと!何か恋する乙女みたいな感じになってるよね。」

「僕らにはバレバレってまだ気付いてないみたいだけど。」

今のレインの状態について談笑しながら、各々の持ち場に戻って行った。

 にぎやかしな3人が去った執務室では、暑くもない部屋の中で一人汗だくになりながら書類を作成しているレインの姿があった。

「アイツら・・・クソぅ・・・羨ましいんだよ!」

 何やら本音を垂れ流している。

 ルクレイツィアが軍の病院に配属されて以降、レインは気軽にルクレイツィアと話す機会を失ってしまっていたのだ。

 今度の住まいでは、何らかの役割を与える。

 と言うのが、ルクレイツィアをスメルリナ城に住まわせる条件の一つだったので、それはとても仕方が無い事と言うか、避けられない運命でもあった。

 それにレインは気付かずに、ここ一週間の間ずっと自分の判断や決断は間違っていたのか?いやいなかったのか?と自問自答しながら執務室に籠っていたのだが。

「あーー!!もう!!止めた!!」

 ガターーン!!

と、大きな音を立てながら、レインが座っていた椅子が倒れた。それを気にすることなく、レインは執務室のドアをババーーン!と言う音を立てて開いて、廊下に駆け出した。

 ここにあの3人が居たら、もっとにぎやかしくレインの決断に応援の言葉を浴びせたかも知れなかったが、誰も居なくともレインの頭の中には、3人の騒がしい言葉が響いていた。

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