第47話 楽しい(?)調理実習 その9
シュークリームのカスタードクリームを冷蔵庫で冷やしている間に萌達は不必要な食器類を片付け、シュー生地を作り始めようとした。
その時、蓮は喫食スペースですやすやと寝息を立てている。
「さて、シュー生地作りを始めましょう!」
『ハイ!』
「まずは事前に準備しておいてくれた牛乳と水、塩とバターを鍋に入れて中火にかけまーす」
萌が鍋に牛乳、水、バターを入れ、塩ひとつまみを鍋全体に行き渡るようふりかけた。
「えぇっ!?」
「まさか……!?」
「萌さん、また混ぜるんですか?」
彼女がコンロに鍋を置いたと同時にミルクと木龍、ココアの表情が曇った。
彼女らの表情を見た萌は「そうですよ」と返事をし、こう続ける。
「この木ベラを使ってバターが溶けるまで混ぜるのです」
彼女は木ベラでゆっくりと焦がさぬよう、丁寧に混ぜ始めた。
「本当にシュークリームは混ぜる工程が多いですよね」
「これを蓮は毎日、シュークリームの他にたくさんの種類のヨウガシを作るんだから凄いよな」
ミルクと木龍が毎日たくさんの種類の洋菓子を作っている蓮を想像しながら、口々に呟いている。
ココアが「ヨウガシ作りは体力がかなり必要なんですね」と少し俯きながら、少しずつ溶けていくバターを眺めていた。
「両親が洋菓子店をやっているので、私やお兄ちゃんはその背中を追ってきました」
「蓮と萌ちゃんの実家もヨウガシ関係の仕事なんだな」
「ええ。洋菓子作りは大変ということは働いている両親の姿を見て必然的に学んだようなものですね。自分達で作ったものがお店に並び、お客様に買ってもらえた時は凄く嬉しいものですよ」
「よって、萌ちゃん達は両親の背中を見て育ったんだな?」
「ハイ。あとは幼い頃におやつとして食べた洋菓子もですよ! 美味しかったなぁ……」
萌と彼の話を静かに聞いていたミルク達はこの調理実習を通して「洋菓子作り大変さ」を肌で感じ、「店頭に並んだ商品を買った時のお客様の嬉しそうな顔を見ることができる素敵な仕事」だと思っていた。
彼女らが話している間に鍋に入っていたバターは溶け、ぐつぐつと沸騰している。
「いい感じに沸騰してきたので、一旦、火から放しますね」
萌は火からおろし、小麦粉を先ほどの鍋に一気に入れた。
そして、その鍋をココアがゴムベラで粉っぽくなくなるように手早く混ぜる。
「また中火にかけて混ぜます! では、ミルクさんから混ぜ始めていきましょうか?」
「分かりました!」
ミルクはココアからゴムベラを受け取り、鍋を再びコンロにかけ、中火で混ぜ始めた。
「みんな、途中で抜けちゃってごめんねー」
先ほどまで喫食スペースで眠っていた蓮が目を擦りながら、厨房に戻ってくる。
「お兄ちゃん、まだ寝てても大丈夫だったのに」
「あれ? 僕、難しいところに入ったかなぁと思ってたんだけどなぁ……」
「今は小麦粉を入れたところまで行ったから、まだ時間がかかりそうだよ」
「そうなんだ」
「あっ、蓮さんだ!」
「おはようございます!」
「蓮、よく眠れたか?」
ここまでの状況が分かっていない蓮に萌が大まかに説明を受け、ふと視線をずらした先には1つの鍋に集まって混ぜる工程をしているミルク、ココア、木龍の姿があった。
「おはよう、みんな!」
彼は厨房にいる全員に挨拶をし、再び調理実習に加わるのであった。
2018/04/02 本投稿




