33.報告会 ~N.A.Reports 「セアン尋問調書」~
その日、”セアン捕獲”の報を受けた全国の組関係者達がN.A.事務局に集結していた。
大きな会場に所狭しとひしめき合う各組の関係者達。
(受付で並ぶ組員達は所持品チェックを受けている)
会場の照明が暗くなったところで、僕はステージに上がった。
「ご来場の御歴々の皆々様、本日はご足労頂き誠にありがとうございます。
私、司会を努めさせていただきますタロと申します。
至らぬところもあるかと存じますが何卒宜しくお願い致します」
頭を下げた僕に、会場からパラパラと拍手が鳴る。
僕の挨拶に続いて、タジマがスクリーン横の幕間から姿を現した。
(僕はステージ横の卓上ミキサーから操作し、タジマにスポットライトを集めた)
「N.A.事務局のタジマでございます。お初にお目にかかる方も、しばらくぶりにお目にかかる方も、どちら様も平によろしくお願い申し上げます」
タジマの丁寧な口上を受けて、会場から大きな拍手が鳴り響く。
タジマちゃん元気かい?と声が掛かると会場の一角で笑い声が上がった。
まいったな、とタジマは頬をぽりぽりと掻く。(全国の組長達にかかるとタジマも肩身が狭いらしい)
「それでは、今回の”報告会”を始めるに当たって、ナリタ会長からご挨拶がございます」
幕間からゆっくりと登場したナリタ会長にスポットライトが移動する。
「や、皆さん。ずいぶんと懐かしい顔が並んでおるようですな」
会長が大きく片手を振った瞬間、会場の全ての人々は立ち上がり、頭を下げた。
(それは、会長との力関係がはっきりと示された瞬間であった)
そして・・・某”D”国スパイの報告会が始まった。
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会場の舞台に設置された巨大スクリーンが明るく輝いた。
-N.A.Reports -
パソコンと連動したタイトル文字が浮かび上がるのを確認し、僕はマイクを手に取った。
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[セアン尋問調書]
警察を装ったタジマたちと共に、日本中から集まった協力部隊(名だたる組の代表達とその利き腕たち)はタロの部屋に集まり、
某”D”国スパイのセアンを捕獲した。
その報せは彼ら”D”国の仕掛けた盗聴機器によって遠い”D国”軍事参謀本部へとリアルタイムに伝わった。(彼らは自らの策に溺れてしまったのだ)
日本の警察機関が絡んだと聞いて、セアンの義父(モルトケ叔父)は当案件を無かった事案として切り捨てた。
セアンハラルドソンはこの瞬間から存在を否定されたものと推測される。
(N.A.率いる協力部隊の諜報結果によれば、”D”国の記録からセアンの存在そのものが抹消された事が判明した。
さらに”D国”軍事施設からの遠隔操作によりセアンの電子機器は全てのデータが消去されていた。)
セアンの回想によれば「もしもの場合には、私達は一切の縁故を切らなければならない」とモルトケ叔父は言っていたらしい。
(尋問担当役・タロ(N.A.) 記載より)
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「以上が尋問から得られた事実です」 僕はスクリーンの照明をOFFにしてマイクを会長に譲った。
静まりかえった会場に、張り詰めた緊張感が密やかに満ちていた。
(みな驚いていたのだ)
僕は用意していたローソクに火を灯す。
暗闇に満ちた会場の空気がゆったりと変化する。
緊張が少しずつほぐれる。(あちこちからため息が零れた)
ローソクの灯りが仄かに揺らぎ始めた。