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続・タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第二章 -冒険- (異なる次元)
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34/59

34.報告会2


 会場の全員が会長の言葉を待っていた。


 「わたしたちは・・・」 会長の言葉に、会場へ静寂が波のように広がる。

 「わたしたちは、ヤクザと言う”枠”にこだわりすぎていました。それを近年、憂慮しておったわけです。

仁義にこだわり、恐怖で支配し、その先に何を求めたのか?

今、時代は明らかに変わりつつあります。あなた達にもこの機会にご理解頂きたい」


会長は一呼吸置いて会場をぐるりと仰ぎ見た。異を唱える者が現れない事を確認し、言葉を続けた。


「・・・わたしは思うです。

今のわたしたちに欠けていた”その先”、その答えを・・・わたしはタロさんから学ぼうと思っておるのです」

(会長の言葉を合図に僕は曲を流した)


-防人の詩 -(さだまさし)


 『・・・大切な人も故郷も自然もないがしろにしてしまいますか』と問いかけるその歌は、

かつての大英帝国が寄るべく先もなく戦い散った時代を想い起こさせるような悲しい歌だ。

しかし同時に命の温もりを確かに感じさせてくれていた。

(会場の筋者達の表情に明らかな変化が現れていた)



 「タロさんは私達N.A.の『導く者』であります。彼はひたすらに純粋で暖かです。と同時に、模索し続けて生きる者です。

 実を申しますとわたしらナリタ組がヤクザから”N.A.”へと転換すべく尽力した背景には、『ミルグラム実験の教訓を正しい方向に導く』という目的がありましたです。※

(※前作【タロと今夜も眠らない番組】33話より)

あの実験からわたしが学んだ事、それは恐怖で支配した先に待ち受ける世界が地獄であるという事実ですわい。

第二次世界大戦のホロコースト、わたしは今でもそれを憂慮しておるのです。

恐怖は恐怖しか生まない。ではそれを教訓として何を目指すのか。


タロさんが教えてくれたのは・・・『愛』でした。


 わたしらの心には『愛』と『憎しみ』という相反した原点があるわけです。

愛も憎しみも『力』の発生源と考えられるわけですな。


組織立って方向を指し示す時、個人のモラルは無意識に抑圧されてしまうです。

問題は・・・目指した先に立った時、自分達が本来あるべき姿と現実の姿との乖離があるか否か。


その時正しくあるべき姿であったなら、そこからやる気が産まれる。組織はさらなる高みを望めるわけです。

間違った姿であったなら、個人のレベルでやる気が損なわれ組織は失速するでしょう。

そんな事にわたしは気がついておったわけですが、果たして『正しい方向』とは誰が気がつき指し示す事ができるのか、これが最後の課題でした。

 その答えを教えてくれたのが、タロさんでした。

彼はわたしの甥っ子を・・・救える道のなかった甥を、正しい方向に導いてくれた功労者です。

 そのタロさんを、今度はセアンが全面的に頼ると言っておるです。

尋問を通じ、タロさんを全面的に信頼したそうです。

 どうでしょうな、皆さん。タロさんに我等の未来を任せてみてはどうでしょうな」


会長が語り終わり、会場はしばらくの間静寂に包まれていた。

(僕は会場の明かりをONにして少しずつ明るさを上げた)


 会場の一角から一人の小柄な老人がゆっくりと立ち上がり、真っ黒なサングラスを震える手で外すとおもむろに拍手を始めた。

それは合図だった。

広域暴力団の中でも総元締めと名高い老師が”N.A.”を承認した瞬間だった。

気がつくと会場全体に拍手の渦が鳴り響き、祝福の歓声が舞っていた。


 「あんたがタロちゃんやな、ナリタさんの事まかせたで」


 そう声を掛けられて顔を上げた僕の目の前で、先ほどの老師がしわだらけの大きな手を差し出していた。

僕はあわてて立ち上がり、老師の手を両手で握り、何度も頭を下げてお礼を繰り返した。

「ナリタさんから聞いたで。タロちゃんのパスタはごっついうまいちゅうてな」

今度ごちそうしてぇな、と笑って老師は再び背中を向けて屈強な付き人に囲まれた。


 老人から感じる圧倒的な威圧感に、僕はひたすら立ちすくんで見送った。


---


 帰り道、僕は再び巨大なベンツに乗りこんでいた。


「驚きましたね」 運転席からタジマがバックミラー越しに話しかける。

「こ、怖かった」 と答えた僕を見て、タジマは朗らかに笑いだした。

「あなたのそういうところが好きなんです」 なんだか嬉しそうにタジマは言う。

もちろん人として、と付け足されて僕は胸を撫で下ろす。(ホモなのかと思ったのだ)



 家ではエレーンがお腹を空かせて待っているだろう。

僕は車窓を流れる街を眺めながら献立に想いを巡らせた。


 これからもっと驚く事になるのだが、それはまた次のお話である。


挿絵(By みてみん)


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