第50話:新たな壁の向こうへ
次のステージに向けた練習が始まってから、美咲の日々はさらに忙しくなっていた。
学校が終わると練習へ向かい、家に帰ってからも振り返りをする。
以前の美咲なら、疲れた日は「今日は休もう」と諦めていたかもしれない。
でも今は違った。
ただ時間を増やすのではなく、自分に必要なことを考えるようになっていた。
どこが苦手なのか。
なぜ上手くできないのか。
少しずつ、自分自身と向き合う時間が増えていた。
しかし、順調に進んでいるように見えた練習の中で、美咲は新しい壁にぶつかった。
全体練習の日。
曲に合わせてみんなで踊った時、美咲は違和感を覚えた。
振りは合っている。
間違えてはいない。
でも、何かが足りない。
終わった後、先生が静かに言った。
「美咲、動きは良くなってる。でも、少し周りを気にしすぎてるかもしれない」
その言葉に、美咲は胸を突かれた。
周りと合わせたい。
迷惑をかけたくない。
そう思うほど、自分の踊りが小さくなっていた。
「……また同じことをしてる」
帰り道、美咲は一人でつぶやいた。
前にも似たことがあった。
失敗しないように。
間違えないように。
そう考えるほど、自分らしさが消えてしまう。
初舞台で感じた悔しさとは違う。
今度は、自分が成長したからこそ見えた課題だった。
翌日の練習。
美咲はいつもより早く練習場所へ向かった。
鏡の前に立ち、一人で音楽を流す。
完璧に踊ろうとするのではなく、まず自分が感じたままに動いてみる。
すると、少しだけ違う感覚があった。
まだ上手くはない。
まだ玲奈のようにはできない。
でも、そこには少しだけ「美咲の踊り」があった。
その時、後ろから声がした。
「今の方がいいと思う」
振り返ると、玲奈が立っていた。
「見てたの?」
「少しだけ」
美咲は照れながら笑った。
「でも、まだ全然だよ」
玲奈は首を横に振った。
「全然じゃないよ」
短い言葉だった。
でも、その言葉には今まで積み重ねてきた美咲の努力を認める気持ちがあった。
「前の美咲なら、今みたいに悩めなかったと思う」
「悩めなかった?」
「自分が何をしたいか、考えてなかったから」
その言葉を聞いて、美咲は静かに息を吐いた。
悩むことは苦しい。
答えが見えない時もある。
でも、それは前に進もうとしている証なのかもしれない。
夜、家に帰ると、母が美咲の練習動画を見ていた。
「これ、前に言ってたステージ?」
「うん」
母はしばらく画面を見ていた。
そして小さく言った。
「楽しそうに踊ってるね」
その一言に、美咲の胸が温かくなる。
母はまだ全部を理解したわけではない。
夢が簡単ではないことも、きっと分かっている。
それでも、少しずつ見てくれている。
美咲は思った。
自分だけではなく、周りとの関係も少しずつ変わっている。
次のステージは、ただ踊る場所ではない。
今まで積み重ねてきたものを、届ける場所になる。
そして、美咲がまだ知らない新しい出会いと挑戦が、もうすぐ待っていた――。




