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第32話:近づくほどに
舞台に立つと決まったことで、練習の意味がわずかに変わった。同じ振り付けを繰り返しているはずなのに、一つ一つの動きに対する意識が強くなる。間違えないことではなく、見られることを前提に動くこと。その違いが、想像以上に大きかった。
玲奈の動きは、相変わらず自然だった。むしろ以前よりも滑らかに見えるのは、美咲自身の視点が変わったからかもしれない。近づこうとしているからこそ、差がより鮮明になる。その現実が、静かに心を締め付けた。
わずかなズレが気になる。ほんの少し遅れるだけで、全体の流れから浮いてしまう気がする。その意識が強くなるほど、体の動きは硬くなり、余計にズレが生まれていく。焦りは声を上げることなく、内側でじわじわと広がっていった。
「続けてるだけ」
玲奈の言葉が頭をよぎる。けれど今は、その言葉が救いではなく、重さとしてのしかかってくる。自分も続けてきたはずなのに、その“質”が違うのではないかという疑いが消えない。
距離は確かに縮まったはずだった。だがその分だけ、越えられない差がはっきりと見えてしまった。近づくほどに遠さを知る。その矛盾に、美咲はまだ慣れることができずにいた。




