おまけ
作るか悩んだのですが、作りました
王と王妃は、王女3人、王子2人の子供達に恵まれました。皆、優秀ないい子達です。
城には笑顔が絶えず、国全体も活気に溢れていました。他国との仲も良好で、誰もがその代の王と王妃を讃えました。
王妃は、68歳で病に倒れました。子供達もほとんど巣立ち、国をより良くするために全力を尽くしてくれています。王は、王妃に付きっきりで看病を続けました。ですが、なかなか回復の兆しは見えません。
「大丈夫だ、リゼ。ほら、ここで死んでしまえば、最後の末っ子の結婚式を見られなくなってしまう。」
「……はい、陛下。
……お姉様は、来て下さるでしょうか…?」
「あぁ。きっとお前の回復を祈ってるよ」
リゼットは、老いても尚その容姿と聡明さが衰えることはありませんでした。そんな彼女を王は深く愛し続け、側室や妾は一切娶りませんでした。
ついに王妃は起き上がれず、ほとんど一日を眠って過ごすようになりました。子供達も心配して頻繁に見舞いに来ますが、日に日に体調は悪くなるばかりです。
王は、国中……いや、世界中から医師を呼び寄せました。ですが、どの医者も王妃の体力に任せるしかないと言い、よくなることはありませんでした。
そんな、ある日のことです。穏やかな日差しの差し込むその日に、王は寝ている王妃の傍で読書をしていました。
「………へい、か」
「……! 起きたのか、リゼ」
目を覚ましたリゼットは、近くにいた陛下を見て笑いかけました。王は本を置き、王妃の方に向き直ります。
「どうした、水飲むか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。」
穏やかに笑うリゼットは、もう死を感じているのかもしれません。
「………ねぇ、陛下」
「……どうした」
「これまで、本当にありがとうございました」
「………っ! 何を…」
突然の言葉に、王は驚きました。
「陛下が私を何よりも大切に、愛してくださっていた事は知っております。大変な事もありましたが、本当に穏やかで、かけがえのない日々でした。」
「……やめるんだ、そんな……こと……を…」
死ぬようなことを。その言葉を、王は口に出来ませんでした。
「…………本当は、分かっていたのです。
お姉様は…………もう、この世にはいないのだと」
「……………!」
「……私が、間違ってしまったから。お姉様は、きっと最初から罪を被るつもりだったのですね。私が、陛下と結ばれるために。グリフィース家の者を、残さないために。」
リゼットは、泣いていました。そう、本当は、分かっていたのです。最初は確かに壊れてしまっていたリゼットは、陛下の包み込むような愛で少しずつ心は癒えていきました。
「……ですが、怖かったのです。認めてしまえば、もうお姉様はいなくなってしまわれる。リジーと呼んでくれる人は、もう居なくなってしまう。お姉様だけが呼んでくれたあの愛称………愛おしげにリジーと呼ぶお姉様が、大好きでしたから。」
「……やめてくれ…………本当に、全部、私が悪いのだ…………リゼ」
王も、泣いていました。あの過ちは、ずっと王の心の中にありました。
「陛下ではありません。愚かだった、詰めが甘かった、私の責なのです。
…………陛下は、ちゃんと私を愛してくださった。壊れていた私を、包み込んで下さった。十分です。本当に……嬉しかった」
「…………本当に、すまなかった………だから、やめてくれ。逝かないでくれ…」
「………陛下」
リゼットは、王を見つめました。その目には、確かに、王への愛が宿っていたのです。姉の死を悼んでいたあの虚ろな目ではなく、ちゃんと。
「…………愛して、います。これからも、ずっと」
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王妃は、沢山の子供達や孫に囲まれて、王の腕の中で息絶えたと言われています。
王妃の死を悲しんだ王は、長男の王子に王の座を譲り、退位しました。
王妃の亡骸は、城の墓地に唯一移動させられていたロゼットの隣に埋められました。
国中が王妃の死を悲しみ、長い喪に服しました。前王が死んだ後、国にはとある物語が生まれ、大流行しました。
それは、王妃を深く愛し続けた王と、そんな王の愛に包まれて心を癒した、王妃の話。
王がリゼットのことをリジーではなくリゼと読んでいたのは、王なりの誠意でした。