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92・城内探索

 地下通路を通る。

 うむ。この調子だったら、予想通り寮の外まで繋がっていそうだ。

 敵の本拠地であるシェヌベイル城にもな。


 俺とアヴリルは、ララ達と一旦別れてから、シェヌベイル城への侵入を果たしたのだ。


「あの子等は大丈夫なのか?」


 アヴリルが尋ねる。


「心配することはない。ララもマリーズもシンシアも、俺とよく行動しているから、こういうことには慣れている。他の生徒達も導いてくれるだろう」

「お主達はその歳でいくつの修羅場を乗り越えてきたのだ……」


 アヴリルが唖然としている。


 修羅場か。

 なんせ俺にしたら前世もあるからな。

 修羅場……と思ったことは一度もないが、面倒事に巻き込まれたことは人より多いかもしれんな。


「早く急ぐぞ。お主が言う黒幕とやらのところにな」

「まあ待て。その前に情報収集だ」

「情報収集?」


 アヴリルの問いかけに答えず、俺はシェヌベイル城の中を動きはじめた。

 城内がどんな様子になっているか。

 そして黒幕がどこに潜んでいるのか……しっておきたいのだ。


 城の中も厳戒態勢になっている。

 城内では至る所で、鎧を着た人間が闊歩していた。

 ちなみにどこにでもあるような、なんのヘンテツもない鎧である。


 騎士団の連中とかだろうか?

 おそらく、黒幕は俺がシェヌベイル城の中に、なんらかの方法で乗り込んでくると読んでいるはずだ。


 俺とアヴリルは隠蔽魔法を使って、ヤツ等に見つからないようにしながら、城内を歩き回っていった。


「見つけ次第殺せ! あの御方の話では、クルトという少年がこの城に乗り込んでくるだそうだ」

「はっはは! たかが子どもだろう? なぶり殺しにしてやるぜ」

「あの御方に逆らえばオレ達だって命がない。取り逃がすことは許されないぞ」


 物騒なことを宣うことだ。


「私達は舐められているようだな」


 アヴリルが嘆息する。


「ああ。とっくに俺はこの城に侵入を果たしているというのに……間抜けな連中だ」


 さて、それにしてもヤツ等が語る『あの御方』とは誰のことだろうか。

《白き鎧》を作り出していたヤツのことだろうか。


 しかし鎧の連中に指示や命令を出しているのは、もっと上……王や王女にあたるのか?

 ならばそこに行けば、そこで俺の考えている黒幕が待ち構えている可能性も高そうだな。

 もっとも王と黒幕が同一人物である可能性もあるが。


 そんなことを考えながら、城内を進んでいくと、


「や、止めて……ボ、ボクはなにも悪いことをしてないっ!」

「うるせえ!」


 子どもと野太い男、二人分の声。

 さらに腹を殴るような音も聞こえた。


 俺は足を止め、物陰に潜んで様子をうかがう。


「今、城内は混乱している。フォシンド家のメサイアス様が、クルトとかいう少年に殺されたからだ。それなのに、城内で薄汚い奴隷がうろちょろしていたら、腹が立つのも仕方ないだろう?」


 ゲラゲラと鎧の男が笑う。


 さらにその男に見下され、床に倒れているのは八歳くらいの小さな男の子であった。

 服はボロボロ。体中にはアザが出来ている。

 少年は鎧の男達を見て、ぶるぶると震えている。


 それでも気丈とした態度で、


「お、お前達はいつもそうだ! むしゃくしゃした、なんて理由でボク等奴隷をいたぶるじゃないか!」


 と力強い言葉を放った。

 しかしそれが男の気に障ったのか、

 

「奴隷が口答えをするな! それに……いたぶる? なにを言っている、オレはお前を教育してるだけだ」


 子どもの髪を持って、無理矢理に立たせた。


「そもそもずっとむかついてたんだ。お前はいつもオレ達に反抗的な目を向けやがる」

「そ、それは、なにもないのにお前達がボクを殴るからだろう!」

「はあ……薄汚い奴隷は口答えもしやがるな。オレとお前の間には、大きな隔たりがある。身分というのな。それなのに……いくら雑用をやらせている奴隷とはいえ、同じ空間にいるってのが我慢ならねえんだ!」


 そう吐き捨て、鎧の男は子どもの腹を続けて殴った。


「奴隷とはいえ簡単に殺しちゃ、お上になにを言われるか分からん。しかし……今ならお前を殺しても、クルトとかいうヤツのせいにしておけば問題ないだろう。くくく……クルトとか野郎はどうせオレがいなくても、他の連中が見つけるだろう」


 鎧の男が子どもを蹴る。

 体重が軽い子どもは、それだけで宙に浮き壁に叩きつけられた。


「だから! 今から優しい俺はお前に楽しい楽しい教育をしてやる! 覚悟しておけよ。死なないように頑張れよ、ははははははは!」


 子どもの目に恐怖が宿る。

 ここから見ても分かるくらいに、カタカタと震えていた。


「クルト……どうするのだ?」


 とアヴリルが俺を見上げた。


 あの子どもを助ける義理もない。面倒事に巻き込まれてしまうし、首を突っ込む必然性が感じられなかった。

 だが。



「面白そうな話をしているではないか。俺にも聞かせてくれるか?」



 このような胸くそ悪いことを見過ごすのも、気分が悪い。


 それに良い機会だ。

 少し話を聞かせてもらおうか。


 俺は鎧の男の前に姿を現す。


「ああん? 見たことねえ顔だな……ま、まさか!」

「名乗ってやる必要もないな。ああ、あと叫んでも無意味だぞ。周囲に結界を張らせてもらったから、外から見てもなにもないように見えるだろうからな」


 そう言いながら、ゆっくりとした足取りで鎧の男に近付く。

 鎧の男は剣を構え、


「バカなヤツだ! わざわざ飛び込んでくるとはよ。お前を殺せば、オレも後であの御方から報酬をたくさん貰えるだろう。領地も貰えるかもしれない。そうなれば、こんな騎士団みたいな生臭いことは止めて、悠々とそこで暮らしてやる!」

「大層な夢なことだ」

「死ねえええええええ!」


 恐れを知らない無謀な男は、勢いそのままに襲いかかってきた。


 構えもメチャクチャだ。

 それだったら、オリハルコンの鎧一枚ですら真っ二つにすることが出来ないだろう。

 こんなヤツが帝国の騎士団を名乗っているなんて……帝国のレベルの低さに溜息が出た。


「〇・一秒」


 そいつが俺のところに辿り着くまでにかかった時間だ。

 相手が俺を斬りつけようとした瞬間、俺を魔剣を鞘から抜いて、()()を一閃した。


「ははは、手応えあり! クルトとかいうヤツも、大したことねえ……ん?」


 そこで鎧の男は気付いた。


「ど、どうして剣が折れているんだ?」


 鎧の男は根本からポッキリと折れている剣に視線を移した。


 簡単なことだ。

 そいつが斬りつけようとした瞬間、俺はそれに合わせるようにして魔剣を振るっただけのことだ。


「随分柔らかい剣を使っているんだな。ケーキのスポンジかなにかだと思ったぞ」

「そ、そんなバカな……! これはオリハルコン製の剣なんだぞ。簡単に折れるはずが……」

「ならば仕方がない。オリハルコンは()()()()素材を使っているならな」


 俺は右手を上げ、彼にナイトメアという魔法を発動する。


「そういえば、自分の領地で悠々自適に暮らすのが夢みたいだな」

「な、なにを……っ! あ、ああああああああ!」


 男の悲鳴。

 今、俺の魔法によって、彼は辺境の地で暮らしている『夢』を見せられているのだ。


 そこには耕す田んぼも領民もいない。

 そんな辺境……どころか未開の地で、なんの道具も与えられず奮闘する夢をだ。


「た、食べるものもねえ。水もねえ。なにもねえ! しかも魔物も襲ってきやがる! い、嫌だ……王都に帰りてええええええ!」

「お前が本気なら、そのような状況からでも成り上がれるはずだ。せいぜい悠々自適を目指して頑張ることだな」


 もっとも、そうなるとは思えないがな。

 永劫の夢を見せられた男は、いずれ精神が崩壊してしまうことになるだろう。


「クルト。相手の自業自得とはいえ、なかなかに恐ろしい魔法を使えるのだな」

「なにを言う。そいつの夢を叶えてやっている素晴らしい魔法じゃないか」


 とアヴリルに応えてから、俺は子どもの方を振り返る。


「あ、ありがとう……! もう少しでボク、殺されるところだった。お兄さん、とっても強い!」

「うむ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだがな。急いでいるものだから、少し話を聞かせてもらえるか?」

「話?」


 子どもが首をかしげる。


「これを……仕組んでいるものは何者だ? 俺を殺そうとしているヤツはな」

「お、王様だよ! 多分余裕ぶっこいているから『玉座の間』にいると思う」

「王様というのはどんなヤツだ」


 問いかけると、子どもは首を振ってこう続ける。


「分からない……王様の顔は見たことないから。というか、帝国の人達みんな王様の姿を長らく見てないんだ」


 王の姿を見ていない?

 どういうことだ。人前に出てきてないということだろうか。


 しかし『みんな』という言葉が引っ掛かる。

 この子も、城内で働いているのだろう。

 ならば、一目くらい王の姿を見ていてもおかしくはない。


 それなのに誰も見たことないとは……?


「なにはともあれ、やはり玉座の間とやらに行くべきか。そこに行けばなにか分かりそうだ。ありがとう。もう少し行ったところに、地下通路がある。そこから外に出るといいだろう」

「う、うんっ!」


 俺が地下通路の場所を教えてやると、名残惜しそうにしながらも、子どもはそっちの方向に走っていった。


「クルト、良かったのか?」

「なにがだ」

「もしかしたら、あの子ども……私達のことを喋ってしまうかもしれぬぞ。そうなっては面倒なことになる」

「大丈夫だ。さっき隠蔽魔法をかけてやると同時に、口封じの魔法をかけておいた。もし俺達のことを喋ろうとしても、上手く口を動かせなくなる」

「今の一瞬でそれをしたのか? 抜け目のないヤツだ……」


 当たり前だ。

 なんせ千年前から、帝国の帝国連中は薄汚かったからな。

 あの子がそうとは思えないが……念のために、それくらいおいても罰は当たらないだろう。


 さらに……この人助けも、ただ胸くそ悪いヤツをぶっ飛ばすというのが目的ではなかった。


「ふんっ」


 俺は頭がお花畑になっている鎧の男の頭を強くつかみ、そのまま力強く床に叩きつけた。


 気絶する男。

 その男から鎧をはぎ取り、俺はそれを身に付けた。

 少々大きいし動きにくいが、細かいところは魔法で補ってやれば、歩けないことはない。


「これがあったら、城内も歩き回りやすくなるだろう。情報収集もしやすくなるしな。黒幕との決戦の前に、無駄な魔力を使いたくない」

「そ、そんなことも考えていたとは……さすがクルトだな……って、ん?」


 アヴリルが目を丸くする。


「鎧は一人分だぞ」

「そうだな」

「私の分はないのか?」

「ない。というよりアヴリルのサイズに合う鎧はないからな。悪いが、引き続き隠蔽魔法を使ってくれ」

「う、うむ……」


 そう言ってやると、何故だかアヴリルは納得がいってない顔をしていた。

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