1話 自分勝手なチンピラ
誰かを助けたい、という気持ちはある。
それは基本的な道徳が備わっている人間ならば正常な気持ちだ。
けど結局は自分が一番大事で誰かの為になんて割り切れない事も当然あるだろう。
俺はどちらかというとやっぱり自分を大事にしてしまう。危険が迫れば逃げる手段だって取るし、当然卑怯とされる事だってする。
けれども目の前で気に食わない事があれば叩き潰すし、自分のことを棚に上げて文句を言ったりもする。
多分俺は気分次第で動く人間なんだ。そんな奴は善人なんて言わない。善悪で例えるのであれば悪人なのだろう。
だからもう俺は割り切ることにした。
「俺の前でクソみてえな真似してんじゃねえぞゴミ共が──────!!」
ドアを開けてすぐ目に入った上級生に向かって走り出し、膝を顔面に叩きつけて少し離れたフェンスまで吹っ飛ばす。
それくらいの事はやる。目障りだったんだから仕方がない。
それから三分も経たない内に決着がつく。
倒れている上級生二人。…………というより今倒したゴミ二つ。その内の一つがちょうど目の前に転がっているからその背を踏みつけ──────。
「俺らの! 溜まり場で! 堂々と! カツアゲ! しやがって! せっかく勝ち取った弁当が不味くなったらお前らに弁当代請求するからな! ゴミ共が!」
言葉の区切り区切りで踏みつけ怒りをぶつける。勿論ソフトかつ丁寧に。こんな事で人殺しにはなりたくないからな。
「勝手にオレ達が独占してるだけなんだけどな。そもそも屋上は基本立ち入り禁止だし」
屋上のドアの後ろに隠れながらツッコミを入れる奴。何処にでも居そうな顔をした頼りなさそう────というより頼りない見た目と雰囲気と態度の男。中学の時から何かと連んでいる仲。
「なあ中一よぉ」
「ちゅういち呼びすんな。オレの名前は中一だ」
「いつからこの学校はこんなゴミ共が湧くようになったんだ?」
「さあな。新木が入学して以降じゃないの?」
「新木か。そろそろ目障りになってきたな……潰すか」
「やめとけやめとけ。マジでヤバい奴らしいから」
飛び降り防止の為フェンスでガチガチに囲まれた屋上。開放されてはいるが好んで来る者もいない。
この場所を俺たちは昼休みに溜まり場として利用している。
今日はこのゴミ共が先に来ていて一年を二人で脅し金銭を…………いや簡単に言うとカツアゲをしていた。
邪魔な上にうるさかったから目に付いた奴から跳び膝蹴りを食らわせ吹っ飛ばしたのち、もう一人の頬に肘を入れて殴って蹴って──────こうなっている。
「うぅぅ…………お、オマエらただじゃおかねえ…………! 新木さんが黙ってねえぞ……!!」
現在俺に踏みつけられている方のゴミが一丁前に敵意剥き出しで威勢よく負け惜しみを吐く。
「どいつもこいつも新木新木うるせーな。地に這いつくばってる奴でも威勢だけはいいのか? そのエネルギー、もっと別の事に使った方が世の為だぞ」
「うるせぇ!! オマエらなんて新木さんが──────」
「だから新木がどうしたよ。新木ママがいないと何もできないお子ちゃまなんでちゅか?? つーかお前らみたいな自分でやり返す選択肢もない奴を新木が助けるかね?」
うるさい口を蹴り上げて今度こそ黙らせた。
「あ、そういえばさっきのカツアゲされてた一年は?」
勝敗が確定すると安心して屋上の真ん中まで来て座り、自分の弁当箱を開く中一に訊く。
「さっき怯えて出て行ったよ」
「なんだよ。感謝と報酬はありがたく受け取るのに」
「それカツアゲじゃない?」
「俺は脅して金品を奪い取るとかはしない。あくまで自分から望んでやる場合のみに限る。つまりカツアゲじゃない。オッケー?」
「オッケーではないだろ野蛮人。それよりも良いのか? あいつらここぞとばかりにお前の隙を見て逃げようとしてるぞ」
言われて振り向くと確かに、さっきまで踏みつけていた奴は口元から血を一筋流しながらもう片方のゴミに担がれて逃げようとしていた。
気を抜いていたとはいえドア付近まで移動している。まあだからといって一々追ったりとかはしないけど。
「お前らの面覚えたからな!! ぜってえぶっ殺す!!」
「ん────お前らって…………! オレも含まれてるじゃねえか!!」
まるで他人事のように弁当の中のおにぎりを頬張っていた中一が慌てて口の中の物を飲み込んで焦る。
「どうしてくれんだよ九留須!」
「おいバカ名前言うんじゃ──────」
「くるす………….くるす? ……お前が高杉九留須?」
焦った中一が口を滑らせる。
中学卒業前にやったことによって俺はある意味有名人となっている。だから名前を聞けばピンとくる人も多いのだろう。いつから俺は指名手配犯みたいな存在になったんだ。
「へッ、まあいいさ! お前らの顔と名前! しっかり覚えたからな!!」
そう言ってそそくさと屋上を去って行った。
ドアが半開きになっているのを気にしながらも面倒なので放置する。
「……………………」
「なあ一くん。この屋上から宙吊りにされるのと俺らよりも遥かに小さい子供たちが遊んでいる公園でお前の黒歴史大発表、どっちがいい?」
「あの……九留須さん? いつもの中一呼びは? それからなんで笑顔でそんな恐ろしい事を日常会話の如く言えるの…………?」
コイツが口を滑らせたせいで今後校内とかで連中に絡まれた時に人違いなり偽名なりの手段が使いづらくなってしまったじゃないか。
名前がバレたなら簡単に教室なりで出待ちされる。
先が思いやられるというのはこういう事か、とため息を吐きながら座り、屋上に来てゴミ退治直前に置いておいた弁当を食べることにする。
「ハァ…………ったく。この先新木とかいう奴にちょっかい掛けられて怪我とかしたらお前が通院費とか払えよ」
そういうと露骨に嫌そうな顔をする中一。
「…………し、仕方ないじゃんか! 過ぎた事は流そうぜ! な!?」
「中学から一緒のお前は当然知ってると思うけどさ、俺、名前とかの個人情報が安易に漏れるの嫌ってんだよね〜〜。自分の名前名乗るタイプの不良じゃないの、俺。……ってか不良じゃないし」
「そうだな。不良ってよりチンピラだよな。あんまり変わらないと思うけど」
やかましかったからその辺に転がっている小石を持って弾く。
「あいたッ」
それを中一のおでこに当てて黙らせた。
ただでさえゴミをボコしたせいで昼休みが削れて気分も良くないのにこれ以上気分を害されてたまるか。
今日の弁当はあの木曜限定メロンソーダ風味の玉子焼き入り海苔弁当。週に一食のみと競争率の高い弁当なのだ。
なんでもこの弁当を作れる職人さんが世界に一人しかいないのと、その日の朝方に作りそのまま全国の系列学校の購買にも回しているというのが理由で一食のみとなっているらしい。
お値段なんと500円+税。学生にも優しいお値段になっている。
「オレ初めて見たわ。その弁当もそれ食べる奴も」
普通のおにぎり弁当を食べてる中一がなんか言ってる。
「今日も凄かったよな。あれ何人くらいいたんだ?」
「知らんけど……ざっと四十人はいたんじゃね? クラスの人数と同じくらいだったと思う」
「お前たまに参加してるけど海苔弁目的じゃなくて乱闘目的だと思ってたわ」
「まあそれも間違ってはいない。乱闘十割弁当ゼロ割ってとこだ」
「何が間違ってないだよ! 花丸大正解じゃねーか! ────今日とか御田斬先生殴ってる時のお前の眼、キラキラしてたぞ」
「あの野郎、昨日偏頭痛で頭上げる気力なかったから片肘立てて頭寄せて、ぐで〜っとしながらノート書いてたら寝てるとかだらしないとか将来が〜〜とかいちゃもん付けてきて晒し者にしやがった」
「それで殴るなよ……」
「良いんだよ。海苔弁乱闘はもはや合法だから俺の肘が御田斬の鼻に直撃しようが御田斬のヅラを毟り取って踏みつけようが合法なんだよ。それにあの人混みじゃ誰がやったかも分からないし最初の方で気を失ってたからな。全く問題ない。バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
もはやこの学校の名物となっているが、この学校では毎週木曜日に弁当争奪戦が玄関前の狭い購買スペースで行われている。
毎週一食の限定弁当を求める人間の中には生徒だけでなく教員も含まれる。
販売開始時その美味さに圧倒された生徒が翌週言い争いを始め、それが大乱闘にまで発展し、今でも続いている。
過去に殴り合いを止める為、ある教員が限定海苔弁を一時廃止にしたり食券制にしたところ、その教員の授業のみ全校生徒がボイコットするという事態となったり、ありもしない噂を広められたりと散々な目に遭い、結果現在の週に一回の大乱闘が購買前で繰り広げられる事態が黙認されているという状況に落ち着いているのだ。
「でもなんで今回は残ってやってたんだよ。いつもなら何人かボコって帰ってるくせに」
「いやさ、あれっていつも最終的にラグビー部のゴツい奴とか柔道部のゴツい奴が勝つじゃん」
「まあな。毎回ガタイのいい奴が勝ってるイメージだわ」
「なーんか癪だな〜〜って思って」
「は!? ……え、何? じゃあ癪だからボコした結果弁当買ったってこと!?」
「そゆこと。────よし、やっと紙取れた」
貴重品かと思い弁当の包み紙を丁寧に剥がして蓋を開けるとそこには、定番の海苔ご飯の脇に、虹色に光る卵焼きが四切れ入っていた。
取り敢えず……、虹色に光る卵焼きを箸で掴む。
光るという言葉は比喩表現ではない。卵焼きそのものが発光しているという意味合い。
「うわぁ……。マジかよそれ食べるの? やめといた方が良くない? うぅ、すげー食欲失くす色してんだけど…………」
「あの場にいた全員叩き潰してやっと勝ち取った弁当だぞ! ぜってー食べる! ラグビー部のデカブツ倒すのにどれだけ苦労したと思ってんだ…………」
卵焼きそのものが発光していると流石に手が止まる。くそッ……! ゴミ共のせいで昼休みの時間も少なくなってる! 食べるならそこそこ早く食べなきゃいけないのに口にこれを入れる事を否定している自分がいる。
香りは全く漂ってこない。無臭? 食べ物で完全無臭とかあんの? やっぱやめるか…………?
「…………な、なあ中一くんよ。これ一つあげようか?」
「いやいやいや。それは勝者のトロフィーみたいなものだろ? お前だけに食べる権利がある」
…………………………………………………………そもそもだ。
そもそも美味いからずっと販売されている。美味いから争奪戦があるんだ。見た目だけで気圧されて食べないんじゃ勿体ないじゃないか!
………………いやでも噂が独り歩きした可能性も………………。
「………………これ以上考えても仕方ない────食べる!」
思い切って一口で四切れあるうちの一つを頬張った。
なんだこれは──────。
玉子焼きの甘さがメロンソーダに置き換わる。
おまけにパチパチするキャンディが入っているわけでもないのにパチパチと弾ける感覚が口の中に確かに広がる。
しかも噛めば噛むほどメロンソーダの味がするのに手作りや市販品で売ってる物とは別格の卵焼きの味に置き換わっている!
頬張ってしまったが勿体無い!! これはじっくり味わうべき食べ物だ!
「……なあ」
「これは俺のものだあ!!」
「うわぁびっくりしたぁ!」
心配そうに話しかける中一から弁当を遠ざけ警戒心剥き出しで言ってしまい驚かせてしまった。
「あ、ごめん。────でも弁当はやらんぞ」
「その様子だともしかして美味いのか? それ」
「うん、美味い。マジで美味い。回らない寿司屋の玉子なんかと比較する事すら憚られる美味さだ。────美味い…………。食べたかったら勝って掴み取れ。つーかこれはその方がさらに美味く感じると思う」
「スポーツ漫画っぽく言うな。勝てるわけないだろ。あんな魔境みたいな空間で」
諦めた風に言って弁当を食べる中一。
「指導料1000円からで鍛えてやろうか?」
「金取るのかよ!」
他愛もない話。大体いつもこんな感じで、その後も中一と雑談しながら屋上で過ごし、チャイムの音が鳴ると屋上を出た。
────
放課後。
午後授業をやり切った。
帰宅部の俺はとっとと学校を去る。
電車通学なので登校は中一とよく会うが、他クラスなのもあって下校時はほとんどバラバラに帰る。
下校中特に変わったこともなく、いつも通りの道で住処に到着した。
アパートの一番下の階一番右側の部屋に一人。
歓迎とは真逆のしーんとした音無き音が俺を迎える。
鞄を放り投げ上着を脱いでベッドに腰掛け、散らかった部屋を見て片付けようかなと思いはするがどうせ誰も来ないだろうと思い結局放置する。
枕の隣に置いてあるリモコンに手を伸ばして静寂を少しでも紛らわせようとテレビをつける。
『今週の街の凄いヤツ。今回は外頭市の高校生にして強盗事件や殺人事件を解決した有名人、時島瞬くんです』
『え、……あ。どうもこんにちは』
『いや〜〜正にこれが高校生探偵ってやつなんですね〜〜』
『いやいや、そんな大層な肩書きを付けられるような者でもないですよ。僕は好きでやっているだけですし、寧ろ警察の邪魔をしていると言われても仕方がないと言いますか──────』
『そんな謙遜しなくても良いですよ。もうみんな知ってるんですから〜。いやぁ〜〜これで外頭市の治安もどんどん回復、安泰ですね〜〜』
『そう言ってもらっているところ申し訳ないのですが近々転校する予定でして──────』
高校生探偵とか本当にいるんだな。
それにしてもリポーターのテンションが高すぎてあの高校生探偵も困ってたじゃないか。
これ以上あまり興味をそそられなかったからチャンネルを変える。
『続いてのニュースです。主長の河川敷で身元不明の男性の死体が発見されたとして警察が捜査を──────』
夕方のニュース。
街のお得情報とかならまだ流していてもいいんだけど、こういうニュースはやっぱり気分が沈む。
『警察内ではここ数ヶ月付近で多発している殺人事件との関連性も視野に──────』
チャンネルを変える。
『おおっーーーーと!! 大和田決めたーー!! 見事PK戦に勝利したああああああ!!!!! 優勝だあああああああああ!!!!!!』
終盤アナウンサーの声が裏返っている。凄まじい熱気が視聴者にも伝わってきて熱苦しい。
そういえば最近はスポーツ界隈が賑わっているらしい。昨日もこんな感じのニュースやら特番やらやっていた。
今もサッカーの試合映像が流れている。サッカーのルールすらろくに理解していないが他のチャンネルも大したものもないし、無音よりはマシだろう。
このチャンネルを流したまま今日出された課題を始めるとしようか──────。
あとはいつもの繰り返し。
適当に作った料理を食べて、寝る前に漫画を読んでちょっとゲームをやって寝る。
ただそれだけ。
しーん、と何も音がしない部屋で余計なことを考えずに眠りにつく──────。
────
「目覚めなさい」
「──────────」
聞き覚えのない、だが妙に耳心地の良い女の声で徐々に意識が覚醒していく。
ぼんやりとした視界から正常な視界へと徐々に戻っていき、何度か瞬きをしてその景色を改めて認識する。
身体を起こして初めに視界に入ったのは、下半身を覆うほど多く濃い白いようなピンクっぽいような色の霧。立ち上がってみると膝下くらいまでの高さ。
………………というかいつから俺はここに転がっていたんだ……? この霧って吸い込んでも健康的に問題ないよな?
辺りをキョロキョロ観てみる。
薄いピンク色の空。足元の霧以外辺りには何もない空間。障害物もない。
「──────つーかここ……どこだ…………?」
「此処は夢の──────ッ!!」
さっき寝ている時に聴こえた女の声が突然右耳から囁かれたのに驚いて、つい反射で裏拳をお見舞いしてしまった。
「────ッたあ!!! え、嘘イタい! 痛いんだけど!! 殴った!? 殴ったの!? 女の子を!!?? ちょっと待ってなんで私がこんな目に遭わなきゃならないのよ!!」
裏拳が当たったと同タイミングで「あ、ごめん」と反射的に言ったのだけど……向こうは聞いていないみたいだ。
「────って……へ? 嘘、鼻血!? 女神である私がこんな人間に鼻血が出るほどの大怪我を負わされたの!? ──え、最悪!! もしかしたら鼻が折れてるかもしれないわ!!」
振り返ると赤い派手……というより豪華なドレスを身に纏った女が鼻の辺りを両手で覆い身を屈めてギャーギャー喚き散らしている。指の隙間から微量だがポタポタと血が垂れているのを見ると痛そうではあるな。
「どうしてくれるのよ! 不敬どころの騒ぎじゃないわよ!!」
「知るかよ。こんな訳の分からない所に急に連れてこられて、おろおろしている人間の耳元で囁く方が悪い」
「おろおろ? おらおらの間違いじゃないの?? アナタの態度のどこにそんなものがあるっていうのかしら!? そもそもね、目上のものに対しての敬いが足りないんじゃないの!?」
「敬える相手なら目上だろうが下だろうが敬うが敬えない奴を敬う気はない。アンタの事は女神って事と俺をこんな場所に誘拐した誘拐犯って事以外は一ミリも知らん。一ミリも知らん奴を敬う気にすらならないし、自分を誘拐した奴を敬えるわけないだろ。寧ろ反省しろ」
「反省ですって!? ふん! これだから最近の人間は!! ベラベラベラベラと! ──────ん、ちょっと待って。なんでアナタ私が女神だって知ってるの?」
ぷいっとそっぽを向いたかと思えば、少し置いてキョトンとした顔で言う。
「いやだってアンタ自分で言ってたじゃん。女神がなんだ鼻血がなんだって。ってかここティッシュとか無いの? 鼻血出てるよ」
「アナタが殴ったからでしょうが!!」
そう言って、その場にしゃがむと霧の中を手探りで探し出した。
全く見つけられないところを見ると、どうやらこの霧の底の部分は女神自身にも見えないみたいだ。
しばらくやっていると何かを見つけたのか、手に当たったものを持ち上げそれがティッシュ箱だと分かると嬉しそうに何枚か取り出して丸めて両鼻に押し込んだ。女の子が男子の前で絶対にやらないであろう顔の完成である。女神というのはそういう恥じらいのない種族なのだろうか?
「そういえばアナタ、自分で訳の分からない所に来たとかなんとか言っておきながら随分冷静ね」
鼻にティッシュを詰めながら話すせいでもごもごしていて聞き取りづらい。
「慌てふためけば此処から出られるのか? 慌ててパニックになるくらいなら冷静に周りを見た方が解決に繋がるかもしれないだろ。それに自分の事を女神とか言う女も現れた。ならこれは、超常バトル系のイカれ能力者に捕まったか異世界系アニメの導入かのどちらかだ。──────もう一回訊くけど、慌てれば帰してもらえる?」
「帰すわけないでしょ。何の為にアナタを呼んだと思ってるのよ」
ティッシュを鼻に詰めてる女神はいつの間にか出現しているふかふかの高級そうなソファに踏ん反り返り、白い丸テーブルに手を置き。足を組み替えながら言う。
「知らねーよ。異世界救えとかならごめんだぞ。なんで知らん世界を救わなきゃならないんだ。アホらしい。俺は断じて善人ではないからな」
「安心なさい。アナタに頼むのはそういう系じゃないから。────アナタにはね、新木千影から神具を取り返してもらいたいのよ」
「は? 新木だぁ? なんで新木の名前が出るんだよ。────つーか何自然に物語本題の導入みたい話進めてんだ。俺は引き受けるなんて一言も言ってないからな」
「アナタが引き受けなくたって結局新木と衝突するのは確実なんだから私が一つや二つお使い頼んだって同じでしょ」
何処から出したのか分からないがいつの間にかテーブルの上に大量に出現しているお菓子の山から、チョコが付いてるスティック系のお菓子を手に取り、それをサクサクと食べながら訳知り顔で言う。
「同じじゃないだろ。学校全体を掌握してるラスボスみたいな奴とやり合うなんて面倒な事、俺はしないぞ」
「でも目障りだったら潰すでしょ?」
「…………………………」
コイツ鼻にティッシュ詰めてるくせにまるで俺の事を熟知しているみたいに言いやがって。でも実際そろそろ目障りになってきたから潰そうかと思っていたのも事実…………。
「それにアナタ、今日屋上で新木の手下をボコボコにしてたじゃない。完全に目をつけられたわよ」
「目の前にゴミがあったらゴミ箱に捨てるだろ。それと同じことをしただけでなんで目つけられなきゃなら──────ん?」
今日の屋上にいたのは上級生のゴミ二つとカツアゲされてた一年が一人、中一と俺……それ以外にはいなかったはずだが…………どうやって知った……?
あの場にいたのなら透明とかでない限り俺は気付けたはずだ。もしかして女神というだけあって俺らの世界をここから見る事が出来るのか?
………………まあこんな事今考えても仕方ないか。
「────はぁ。まあいいわ。引き受けるかはともかく話だけは聞いてやる。椅子くらいだせよ」
「人間のくせに生意気ね」
「こんな所に誘拐した自称女神の誘拐犯にこれくらい要求したっていいだろ。────それと、いつまでティッシュ詰めてんだ? 女神なら治癒とかそういうの使えないの?」
言うと女神は思い出したように鼻を触った。
当然そこには折角の美形を台無しにしているティッシュが詰まっている。
慌ててそのティッシュを取って霧の中に叩きつけると片手を広げ鼻を覆い、真っ赤な顔で──────。
「人間のくせに生意気ね!!」
怒りをぶつけてきた。
ぷんぷんという擬音が似合いそうな顔で怒る。原因を作ったのは俺だけど治癒能力よりもティッシュを詰める方をとったのはそっちなんだからその怒りは理不尽なんじゃないか?
女神は不服なのが丸わかりの表情をしながら指をひょいと動かす。なんとなく気配を感じて背後を見ると、いつの間にか安っぽいソファが置かれていた。
座り心地が悪い。絶妙に埃っぽい上に硬い。
「不満そうな顔をしたって返品返却却下は致しません。言った通りに出してあげたんだからありがた〜〜く座りなさい」
またしてもいつ出したか分からないが片手に扇子を持ち口元を隠して嘲笑する誘拐犯のクソ女神。
嫌がらせで出されたソファに深々と、堂々と座って足を組んで肘をつき、頬杖をついて踏ん反り返ると、予想通りイラついてくれたみたいで、扇子をパチンと畳んで後ろに放り投げた。
地面に落ちた音がしなかった。何処かに消えたのだろうか。
「────それで、何を取り返して欲しいんだっけ?」
「神具よ神具。神が使う武器とか物とかそういう物の総称────みたいなものよ」
「その神具って俺が見て分かるものなの?」
「今回のは現世でいうビー玉と同じような物よ。色はオレンジ色」
へぇ〜、と適当に言ってイメージしてみる。
オレンジ色のビー玉……そんな物を新木が肌身離さず持っているならともかく、机の中とかロッカーとかに入れられていたら探すだけでも大変なんじゃないか? そもそも家に置いてたりしたら新木を倒した所であまり意味がないのでは?
「…………ってかさ、なんで新木が神具なんて物を持ってんだよ。もしかして異世界か何か救ったりしてその報酬で貰ったとか?」
「! ………………いや、そういうのじゃないわ。別世界の管理とか私の役割じゃないし──────そんなのどうでもいいじゃない!」
「……………………」
「ちょっ、何じろじろ見てんのよ気持ち悪い!」
急に焦り出した。目が泳ぐというのをまさか女神で見るなんて思ってもなかったぞ。
「…………お前なんか隠してる?」
「はあ!? 隠すって何?! なんで私がアナタなんかに隠し事しないといけないわけ!!??」
慌てふためくあまり挙動不審になって、その勢いのまま立ち上がる女神。
「お前、何故か俺の事に詳しかったよな。性格とかも把握しているのかもしれない。と考えると、その隠し事が俺にバレたら俺は手伝わないと思っている。だから隠してるんじゃないのか」
「…………………………」
風船の空気が抜けて縮んでいくような音を出しながらゆっくり慎重に座る。当然その視線は俺から露骨に逸らされていた。
「露骨に黙るじゃん。冷や汗出てるぞ。拭けよ」
俺は寝る時はパジャマに着替えたりせず体育で使う白いラインが入った黒のジャージ上下を着て寝る。そのせいか今もその格好をしている。
ポケットに入っている水色のハンカチをヒョイとテーブルの上に放った。
女神は少しそのハンカチを見つめると、万引きでもするような素早い手付きで取り、謝罪会見で見るような額の汗の拭き方をしてハンカチを折り畳んでテーブルに戻した。
そういえば大量に置かれていたお菓子はいつの間にか消えている。こういう超常現象みたいなのは考えるだけ無駄なんだろう。強いて言うならコイツの気分次第で出たり消えたりするみたいな…………? 知らんけど。
「あのな。そもそも俺はお前を手伝うつもりはない。けど話くらいは聞いてやってもいいかもな〜、くらいには思っている。こんな所に誘拐されたんだからな。折角だ。…………だがその上で隠し事をされたんじゃこれ以上話を聞く気もない。───隠し事を言え。言わないなら俺は帰る」
立ち上がって帰る素振りは見せるけど正直帰り方を知らないからこのまま話が詰まるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
「………………順を追って話すわよ」
明らかに言いづらそうに話し始める女神に少し安堵しながら元の埃っぽいソファにどっしりと座る。そのせいで埃が舞ってしまい多少咽せてしまった。咳き込む俺を無視して女神は話し始める。
「──────私は九十年くらい前から神具担当の女神なの」
「し、……ごほッ…………神具担当?」
「正確には神具保存担当ね。アナタ達の世界でいう銀行の貸金庫みたいなもの。神達が手元に置いておかなくてもいいと判断した時に預ける場所、そこの担当なの。主な仕事は管理と維持。定期的に紛失してないかをチェックするのと、神具の掃除とかよ。…………これでも頑張ってやってたのよ!」
涙ぐみながら必死に訴えてくる女神。
「何年か前に一部の神具をここに持ってきて磨いてたの」
「……ちょっと口挟むけど、神具ってそこから持ち出していい物なの?」
「…………………………」
「………………うん分かった。続けて」
「……その日────その日はこの世界とアナタのいる世界のバランスが不安定になって繋がりやすくなる日でもあった。別世界から何者かが来ないように各自境界を強化するようにってアナウンスもされてたの。それを──────そのぉ………………」
「怠った、と」
「…………………………」
「黙るな。お前女神のくせに人間みたいな事するな」
「ちょっとそれどういう意味よ」
「都合が悪くなると黙る」
女神は今にも泣き出しそうな目でこちらを睨んでいる。
「…………はぁ。なんとなく分かったわ。つーか大体分かった。そのバランスが不安定になるそんな日によりにもよって神具を持ち出したお前は、境界の強化を怠ったことで新木が侵入してしまい、まんまと神具をパクられた。────そういう事だな」
女神は凄く溜めて往生際の悪いくらいゆっくりと頷く。嘘をついた子供が親に詰められてこんな感じの反応をしているのを休みの日に見かけたことがある。
とまあ、コイツが認めようが認めまいが、縮こまって小さくなった所でコイツのポンコツが引き起こった出来事だという事は覆らない。
「────つまりはお前の尻拭いをしろと」
「レディになんて物言いをするのよ」
突然スンッと言い返してくるポンコツのせいで一瞬で頭に血が上る。
「お前マジぶん殴ってやろうか!? なんでこの流れで平気な顔してんな事言えんだよ!!」
「もう開き直らないとやってられないのよこっちは!! 別に私はこの件放置したって良いのよ! でも近々神具の所有者が取りに来るって言うから仕方なくやってんのよ!! もうなんなのよ! あと五年かそこらで次の担当に交代して悠々自適に過ごせると思ったのに!!」
びぇぇ〜〜〜〜〜と机に突っ伏して泣き出したぞコイツ。
しかも交代したら今回の紛失の件も後の担当に擦るつもりだ。
「マジかよお前最低だな」
「だって外から人が来るなんて今まで一回も無かったのよ! しかも私が寝てる間に! もうなんなのよ!!」
「ちょっと待て、寝てる間ってなんだ」
「寝てる間は寝てる間よ!! なんか境界に違和感を感じだからこの空間の時間をほんのちょっとだけ戻して見てみたら、なんか知らない人間が入って来て、物珍しそうに神具持って、そのまま出て行ったのよ!! もう信じらんない!!」
何度もテーブルをドンドン叩いて訴える。
「…………………………想像だけど、お前が起きそうになったから神具持ったまま慌てて逃げ出したのでは?」
「…………………………あぁ〜〜。なるほどね」
さっきまでテーブルを叩いていた手を戻して腕を組み、深々と頷く女神。こちらの冷めた目なんて全く見えていないくらいに納得したのだろう。
「もう知らん。帰らせろ。こんなアホに付き合ってられるか」
「そんな事言わないでよ〜〜。ほら! 女神に恩を売っておけば後々いい事があるかもしれないわよ!!」
泣きべそかきながら俺に駆け寄り脚にしがみつくどうしようもない女神。ギャンブル中毒の男にしがみつく女のような構図。これだけ見たらまるで俺が悪いみたいに思われるじゃないか。ふざけんな。
「は、な、せ! 確かに女神に恩を売っておけば後々いい事はあるかもしれない、だがお前に恩を売ったところでいい事があるなんて到底思えん!」
「あるわよ! 私女神よ! 人間が欲しいものならなんでも出せるわ! 試しにお金出してあげましょうか!?」
「いらん! こんな所で出した金なんてどうせ使えないか偽札かってのがオチだ!」
「何処まで信用がないのよ私は!!」
「何処までもねえよ! 寝てる所誘拐してパシらせるような奴の信用度なんかマイナススタートに決まってんだろ!」
「くっ、……ぐぬぬぬぬぬぬ…………」
ようやく脚から手を離しその場に膝をつく女神。
拳を強く握りしめ悪役しかしないような悔しがり方をしていると、はっ、と何か思いついたのか下を向いていた顔をサッと上げる。
「そうよ! これよこれ!」
そう言うとまた手品師みたいに何処かから何かを取り出すとそれを俺に渡してきた。
赤いプラスチックの小箱のようなもの。上の方が透明になっていて、パカッと開くようになっている。中にはこの女神のドレスの色と同じ色の赤いボタンがある。
「何これ」
「これはね! いざとなったら女神に助けを求められる最強アイテムよ! でも乱用は出来ないわよ、一回だけ。本当にやばい時にしか使っちゃダメなんだからね」
「その女神ってのはお前?」
「そうよ!」
自信満々に────なんだったらドヤ顔までしている女神を見つめて。
「じゃあゴミじゃん」
ポイっと捨てた。
「ああ!! 女神ボタンがぁぁぁ!!!」
咄嗟に女神ボタンなる安直な名前の箱を拾って手で払ったり傷がついてないかを見たりしている。
思いつきで渡してきた割には意外と大事なものだったのか?
箱を拾い上げた女神は俺を睨むと、その顔は一瞬でキョトンとした顔に変わる。
「………………というか。アナタさっきから帰る素振りは見せるけど全然帰らないわね」
「! ………………」
「あ、そっか! 私が連れて来たんだから帰り方知らないんだ〜〜!!」
思わず両手で目を覆い深くため息を吐く。
気づいていなかった事にも驚きだが気づかれたくはなかった…………。
「じゃあ引き受けなきゃここから出さないって事でどう?」
いよいよ本当に脅しみたいなことを嬉々として言ってきた、この女神。
「いい? 改めて言うわよ。どうせアナタは新木とぶつかる事になる。ならこの際もうついででもなんでもいいから神具を回収してちょうだい、って言ってるのよ。お助けアイテムとして使い捨ての女神ボタンもあげた。これから文句ないでしょ!」
ただでさえ面倒事は嫌なのにこんな奴のお使いまでしなければならないなんて心底嫌なんだけど……………。
「……くそっ、今のところここから出る方法も分かってないからな…………」
「小声でぶつぶつ言われても聴こえないんですけどーーーー」
「分かったよ!! ────クソッ! なんで俺がこんな目に…………!!」
人がイラついている目の前でキャッキャキャッキャと喜ぶ女神はその喜びのあまりその辺をくるくると舞いだした。もしも「わーいざまーみろーwww」なんてクスクス笑いながら言ってきたら本当に手と脚どっちも出てしまうかもしれない。
「あ、そういえばまだ名乗ってなかったわね。アンタがイレギュラー過ぎて段取りが狂ったわ。本当は最初に名乗ろうと思ったのに」
ピタリと舞をやめて言う。さらっと名乗れなかったのを他人のせいにしやがった。
「私はクレティ」
そう女神は俺の前で名乗る。
つい数分前の泣き顔なんて思い出せないくらい清々しい笑顔をしているが、この笑顔が俺に一杯食わせたことによるものだと思うと尚更腹が立つ。
「俺は中一だ」
「当たり前のように嘘付くんじゃないわよ」
「誘拐犯に本名教えるの抵抗あるなぁ……」
「じゃあ良いわよ別に。どうせ知ってるし」
「──チッ。なんだよ、やっぱ知ってんのか。知ってるなら偽名使う意味ねーじゃん」
こうなったなら自分だけ名乗らないのも歯がゆさを感じる。
「──────高杉九留須。北泉原第三の二年、高杉九留須だ」
「そう」
女神が右腕を上にぐわんと挙げると、その先の空間がシャッターのように開いてそこから光が溢れ出す。
「あそこに向かって歩けば元に戻れるわ。約束忘れんじゃないわよ」
「約束なんてした覚えはないが頭の片隅には入れといてやるよ。────癪だがな」
特にこれ以上話すこともない。
光の射す方に向かって歩いていく。
歩いて行くと徐々に眠気のようなものが襲ってきて、────徐々に────意識が──────。
「あ、そうだ。そういえばあのこと言ってなかった────けど聞かれなかったし、大丈夫でしょ」
────
翌日、登校中。
車が一台通れるくらいの車道、左右に歩道があり、住宅の背というのもあってこの道は電柱と壁しかない、ある意味殺風景な道だ。
「────って事が昨日あった」
昨日あったであろうの出来事を中一に話した。
クレティは口止めをしなかった。ならば誰に話したって問題はないんだろう。口止めし忘れていた場合だとしても俺には一切責任がない。
「って事があった、じゃねーよ。夢だろ流石に。そんな異世界転生ものみたいなのが現実にあるわけない」
「まあな〜〜。俺も夢だと思いたいけどよぉ〜。でも夢にしてはやけにリアルだったし────それにアニメとかと違って一々ムカつく女神だったんだよな〜〜」
何より朝起きた時にポケットを確認したらあの安直な名前の箱がちゃんと入ってた。物証がしっかり残っているのであればあれは夢ではなかったのだろう。
くそッ……。あの女神のことを思い出すとまた腹が立ってくる。
「それは知らないけど…………。まあ、それが本当だとしてよ、それを聞いたオレはどう反応すればいいんだ?」
「『そうか! それは大変だったな! だが任せておけ! この普段頼りないけど今回だけスーパーパワーで頼りになる主人公補正の塊のような一さんが! 新木とか神具とか諸々全部解決してあげるし報酬も全部あげるよ!! 安心しなさい!』────って言え。そしたら俺が『わぁありがとう中一! 全部任せるから終わったら教えてね!(全力の高音萌えボイス&全身全霊を込めたグッド)』って返してやるから」
「死ねよ! もういっそ死ね!」
「はい死なな〜〜い〜!! 俺にはたった今言霊呪い耐性が付いたのでそういう暴言は全く効きませ〜ん無意味ですぅぅ!!」
こんな会話をしている間でも、自分に向けられた感情みたいなもの────いわゆる殺気を感じてしまうものなんだな……と冷静になってしまう。
背後から殺気を感じ取る。
駆け寄ってくる音は聞こえなかった。
背後から何かで殴りつけようとしているのだろう。
「なあ中一」
何かを振り下ろされる寸前で横に逸れて躱す。
地面に叩きつけられた鉄パイプ。
再びそれを持ち上げる前に踏み付けて振り回せないようにする。
相手の思考はすでに鉄パイプを武器に攻撃するというものになっているから両手で力一杯引き抜こうとする。
その隙を突いて相手の鼻っ柱を拳でへし折って鉄パイプを押さえていた脚で蹴り飛ばす。
この騒ぎで周囲で様子を見ていた敵がこぞってこちらに向かって走り出す。
「今日から落ち着くまで出来るだけ人が多い所で生活しろ。可能なら学校休んで家から出るな。分かったら走って学校まで行け。…………ここにいたら死ぬぞ」
「────わ、分かった。──死ぬなよ!」
「こんな雑魚相手に死ぬわけねーだろバーカ。早く行け」
一人二人ならまだしも人数が多いと中一をカバーして倒すのは難しい。
それを中一本人も理解している。困惑する表情を隠せないまま、学校目指して走り出した。
同じ学校の制服を着た六人のチンピラが俺を取り囲む。しかも全員漏れなく鉄製のバットや棒を装備している。
「ねえ。素手相手に人殺せる武器持ってるのって恥ずかしくないの?」
「高杉ィ……。津島さんがテメェに賞金掛けたんだよ。生捕りでも死体でも関係ない。とにかくテメェを連れて来いだとよ!!」
囲んでいる六人全員がニヤニヤニタニタ気味の悪い笑みをしている。
「津島ぁ? 誰だそいつ。新木じゃないのか?」
「何言ってんだお前コラ!」
さっき喋った奴とは別の奴が口を開く。
「津島さんは新木四天王の一人! 多くの手下を従える最大派閥の津島和樹さんを知らねえってのか!?」
「え、知らんけど。ってか何、四天王? 今の時代に四天王名乗ってる奴らがいるの!?」
「テメェ笑ってんじゃねえぞゴラァ!!」
「津島さんバカにしてんのか!?」
「高校生にもなって四天王自称してる奴なんてバカにしてくださいって言ってるようなもんだろ」
ツボに入って腹抱えて笑っていると周囲のチンピラ達がイカつい顔をしながら「テメェ舐めてんじゃねーぞコラぁー!」みたいな暴言を吐き散らしている。
「もーいいや。六人対一人で勝てるわけねーし。半殺しにでもして津島さん所連れてこーぜ」
最初に喋り出した奴が手に持っている鉄バットをポンポンしながら言う。
朝方の道。登校中の生徒はいるがこの状況に関わろうとする人はいない。当たり前だ。この状況に首を突っ込んで目を付けられるリスクの方が大きい。だからこの状況を教員や警察に通報する生徒もいないだろう。
だが逆に、その状況は好都合とも言える。
何故なら裏を返せば俺が全員を倒しても俺が咎められることはないという事でもあるからだ。
「死ねやぁぁ高杉ィィィィィィィィ!!!!!!」
鉄バットを握りしめて向かってくるチンピラ。完全にガラ空きになってる胴体の中心を狙って蹴る。
「ぐあ──────ッ」
その場に倒れるチンピラを見て全員頭に血が昇ったのか、それぞれ奇声罵声雄叫びを上げてまるでレイドバトルみたいに俺に襲い掛かる。
俺は武術の達人とかではない、全くの素人だが、素人が武器を振り回しているのを躱しその隙にパンチやキックをキメる事くらいは容易く出来る。
上手い具合に密集させ混乱を起こし、それに掛からなかった残りはちょっと距離を離した所に誘導する。目当ては俺だから光に集まる羽虫のように寄ってくる。
よろけたチンピラ────仮にBとしておいて、Bの首元を掴んで転ばし顔面を踏みつける。Cがその場にいる俺に鉄パイプを振り下ろすが避けられて倒れているBに当たる事で完全に一人を戦闘不能に。
困惑するCに拳のラッシュを叩き込む。途中背後からの殺気に気づきしゃがんで避けて対応すると、Dにより勢いよく放たれた鉄バットがCの横顔を野球ボールの如く吹き飛ばした。
しゃがんだ状態で足払いをしてDを転倒させて蹴り飛ばす。
「──────ッ!!!」
Dを倒したのはいいが流石にしゃがんだ状態での不意打ち回避は難しく、スイカ割りを連想させる形で鉄バットを振り下ろされた。
頭への直撃は避けられたが右肩に直撃し激痛が走る。だがここで動かないと二撃目が来る。それどころか残りのもう一人も来てタコ殴りにされる可能性すら考えられる。
すかさず低姿勢から鉄バットを振り下ろしたE目掛けてタックルし力任せに壁まで押し込みぶつける。
Eにトドメを刺したいがその前に健在のFをどうにかしなければいけない。
真横から鉄バットを振り回すF。何度か躱していく内に目が慣れたお陰で利き手じゃない左手でもFの鉄バットを掴むことが出来た。
戸惑うFに構わず鉄バットを押し込んで、そのままの勢いで腹の奥深くへと突き刺す。
膝から崩れ落ちたF。鉄バットを握っていた力が緩みそのままそれを拝借する。
「高杉ぃぃ!!!」
残った最後のチンピラEが瞳孔ガン開きで迫ってくるが、それをヒョイと避けてE背後から鉄バットでトドメを刺す。右肩の痛みのせいで両手で持つことができないから鉄バットの重さを利用して振り下ろすことになったが、それでも効果は抜群。寧ろ完全に気絶しないいい塩梅で仕留めることが出来た。
鉄バットを放り投げ、深呼吸する。
ポケットからスマホを取り出して時間を見てみるととっくに始業時間を過ぎていた。
中一は無事に辿り着いているだろうか……?
ここ二年で見てきた連中の傾向から、教員や警察の目がある所で派手な行動はしない。放課後や昼休みの人気のない所とかでない限り襲われる事はないだろう。
「────ッて……。これ肩の骨とか折れてねぇだろうな…………」
言いながら意識のあるEの所に向かう。
地味に距離を取ろうと這いつくばって移動しているEの前に立ち、そのまましゃがむ。
「おいコラ。お前の一撃のせいで肩めっちゃ痛いんだけど。どうしてくれんのこれ」
「ケッ……。ざまあみろやクソが」
この状況で笑みを見せるE。中々に活きのいいチンピラだ。
「お前このまま済むと思うんじゃねえぞ。…………こうなったからには津島さんは全力で潰しに来る。調子乗れるのも今のうちだからな──────」
最後にそう言い残してEは気を失った。
「四天王とか知らねえし、ぶっちゃけ新木さえ潰せればって思ってたんだけど。──────こうも喧嘩売られたんじゃ津島って奴も潰すしかなくなったじゃん」
面倒事は嫌いだ。出来れば平穏に過ごしたい。
俺はずっとそう言うしそう思っているはず。
でも目障りなゴミは始末したいし、チンピラを殴るのは嫌いではない。
だからもしかしたら──────もしかしたら、こういうスリルを楽しいと何処かで思っているのかもしれない。




