家族でのお出掛け
康稀が望んでいること、それは、家族全員で暮らすこと。
そして、家族全員で出掛けること。
――家族全員で暮らすこと――それは、お泊りという形でしか叶えてあげられない。
それは、康稀の望みをほんの少し掠る程度のことなのだ。
だから、せめて家族全員でのお出掛けは叶えさせてあげたかった。
康稀が行きたがっていた場所へ出来る限り私も行くことにした。
康介と会うのが怖くても……自分の心よりも康稀の望みを叶える方が大切だと思ったからだ。
だが………それを望むなら店長の言うように康介との結婚しかない。
それは分かっているが……どうしても過去を完璧に乗り越えていない私には難しい事だった。
康介に傷つけられて辛かった過去の私。
でも、愛し続けた今までの私。
康介との結婚を望んでも「愛されるはずが無い」ことを知っている私。
「また捨てられるのでは無いか」という恐怖が募る私。
⦅ひろちゃん……ごめんね。
本当はお母さん………お父さんから愛されてなかったの。
嘘ばっかりで………ごめんね………ごめんね……ひろちゃん……。⦆
康介との結婚など叶わぬ望みだと分かっているから、店長の言う康稀の望みを叶える方法は無理なのだ。
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康介が車で迎えに来た金曜日の夜。
その日は真由子と私も康介の家に泊まる日だ。
翌日は全員で出掛けることになっている。
行き先は大型商業施設。
モールではなくタウンと名付けられた大型商業施設。
その施設にはスポーツエリアがある。
バッテングセンター、ボーリング場、スケート場があり、卓球も出来る。
康稀はバッティングセンターとスケート場に前から行きたがっていた。
一度、社長に連れて行って貰って、もう一度、連れて行って欲しい場所だと康稀は言った。
「僕………お父さんと一緒がいい。」
「お父さんでいいのか? 社長さんでなくても?」
「社長さん、好きだけど………お父さんがいい。」
「そっか………お父さんがいい……のか……。」
康介は凄く嬉しそうだった。
――康稀が教えて欲しいこと――それは、私には教えられないことだ。
野球とか絶対に無理だ。スケートも……。
どちらも康介が手取り足取り教えていた。
座って見ている私に、二人の姿は微笑ましい父と子。
このまま私は⦅時が止まればいいのに……。⦆と思った。
バッティングセンターとスケート場は康介の父も康稀に教えている。
どう見ても、父と息子で康稀を張り合っているように見える。
「あの人ったら……もう……恥ずかしいわ。」
「いいじゃありませんか。」
「良くありませんわ。ひろちゃんの父親は康介ですのに……。
息子に孫のことで張り合うなんて……。」
「うふふっ……それほど大切に想って頂いて、ひろちゃん幸せです。」
「とっても、いい子です。
杏さん、あんなにいい子に育てて頂いて、本当にありがとうございます。
真由子さんも……今まで色々とありがとうございました。」
「いいえ……私の娘ですから……杏は………。」
「左様でございますわね。」
「………おば様……お養母さん……ひとえに周りの人たちに助けられたお陰です。
私一人では無理でした。」
「そうね……感謝しないとね。特に社長さんには!」
「ええ、そうね。」
お昼ご飯を施設の中のレストランで食べる為に康介は予約してくれていた。
その店に入って予約席に着いて、料理をそれぞれが注文して待っている時のことだった。
若い女性の明るい声が響いて私の耳を突き刺した。
「課長! 来られてたんですね。」
「………橋本さん……。」
「お姉さん、だぁれ?」
「可愛い~~っ、課長にソックリ。
課長、紹介して下さい。」
「こちらは僕の会社の部下。
この店を教えてくれたんだ。
ありがとう、橋本さん。」
「いいえ、そんな……当たり前です。」
「部下ってなぁに?」
「あ………ひろくん、あのね、それは………難しいな。
ひろくん、お父さんと一緒に働いている人だよ。」
「同じ会社なの?」
「そうだよ。」
「課長、この子ですか? 課長の息子さん。」
「あぁ……そうだ。」
「可愛い~~っ。」
「橋本さん、今はプライベートだ。
僕は家族と一緒に来ている。
悪いが、君は君の席に戻って欲しい。」
「ええ―――っ!」
「済まないが、僕のプライベートだ。
君は君のプライベートの時間を大切にして戻りなさい。」
「………はぁ――い。」
「はい、は、短く……。」
「あなた………。」
「父さんの言う通りだ。
社会人だ。しっかりした返事をするように……気をつけて下さい。」
「……はい。失礼しました。」
「ああ。」
綺麗な女の子だった。
⦅あんな綺麗な子が傍に居るんだ……。あの娘は、康ちゃんのことが好きなんだろうな……。⦆と私は思った。
私は諦めるように言い聞かせていた自分に再度「諦めなさい!」と心の中で告げた。
その日、私は昼食後に見せに行くようにしていた。
康介は車で送ると言って聞かなかった。
私が何度も「一人で行きます。お気になさらずに……。」と言ったが、その言葉を無視して康介は康稀に「お母さんを送って来るからね。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとばぁばと待ってて。」と言った。
康稀は「うん! 待ってる。」と元気よく答えた。
私は拒否出来ずに康介に送って貰うことになった。




