第1話 前編
ミホが目覚めた時、小屋の中は目玉焼きの香りに包まれていた。
下着姿のミホは欠伸をしながら両手を上げて伸びをする。
キッチンでは親友のサーヤが朝食の盛り付けをしているところだった。
ちなみに彼女は下着姿でエプロンを着けていた。
「ミホー、ご飯できたよぉー」
「はーい」
間延びした返事の後、ミホは眠そうな顔で起き上がる。
二人はちゃぶ台を挟んで座った。
卓上にはコーヒーとベーコンエッグトーストが用意されている。
サーヤは自慢げに胸を張ってみせる。
「じゃーん! 完璧な焼き加減です。どう?」
「最高じゃん。ありがと」
「どういたしまして!」
二人は両手を合わせて「いただきまーす」と言ってからトーストに齧り付いた。
一口目を味わったミホは目を僅かに見開く。
「うまっ」
「やったー!」
「サーヤ、いいお嫁さんになれるね」
「じゃあミホが貰ってくれる?」
「やだ」
「えー、ケチー」
冗談を言い合う二人は楽しそうにトーストを頬張る。
小屋の外では波の音や鳥の鳴き声が聞こえていた。
コーヒーを飲むサーヤは、ふと思い出したように提案する。
「海で泳ぎたいなぁ。ビーチバレーとかスイカ割りしようよ!」
「水着あったっけ」
「ないかも。制服のままでいいんじゃない?」
「確かに」
なごやかに話していた二人だが、ほぼ同時に真顔になる。
サーヤはぽりぽりと頬を掻き、ミホは億劫そうにため息を洩らした。
「……サーヤ」
「うん、仕方ないねー」
二人は手早く食事を済ませると、干していた制服を掴み取って着る。
どちらも白シャツに紺色のスカートで、サーヤはネクタイを結び、ミホは大きめのパーカーを羽織った。
サーヤは悲しそうな顔で口をへの字に曲げる。
「うえぇ、生乾きだぁ……」
「すぐ汚れるし別によくない?」
「でもさー、この中途半端な感じが気持ち悪くて……」
「サーヤは気にしすぎ。さっさと準備するよ」
「はーい」
渋々と応じたサーヤは、太腿にホルスターを装着して拳銃を挿し込む。
テーブルに置かれた短機関銃はスリングで斜めがけにして、手にはポンプアクション式の散弾銃を持つ。
各種予備弾はポーチに詰め込んでいた。
一方、ミホは錆だらけの工具箱をひっくり返し、そこからスパナとマイナスドライバーを拝借してパーカーのポケットに忍ばせる。
愛用のコンバットナイフはベッドの枕裏から掴み取った。
武装を整えたミホは、埃だらけのラジカセのボタンを押し込む。
ノイズ混じりの歌謡曲が大音量で流れ出した。
リズムに乗って身体を揺らすサーヤはミホに尋ねる。
「準備できたー?」
「うん」
「それじゃ、いつも通りで」
「よろしく」
二人は互いの武器をカチンと打ち鳴らす。
その直後、小屋の外から叩きつけられた斧によって壁の一部が割れた。
割れ目越しに室内を覗く男は、甲高く不気味な声を上げる。
「にゅひひひひひひひひひ」
「うるせえよ」
冷たく言い放ったサーヤが散弾銃を突き付けて引き金を引く。
轟音と共に壁が爆発し、その先にいた男の頭部が丸ごと吹き飛んだ。
倒れる死体は鮮血を撒き散らし、四肢を痙攣させている。
素早く銃の排莢を行ったサーヤは散弾銃を肩に担ぐ。
ミホも屈伸をしてからナイフを握り直した。
「さーて」
「行きますかー」
施錠した扉を開けて二人は小屋を出る。
雲一つない青空の下、砂浜には十数人の男達が凶器を携えて待ち構えていた。
ある者は獣のような牙を剥き出しにして、またある者は異様に長く鋭利な指を蠢かせて、また別の者は尻尾で地面を叩いて二人を威嚇する。
彼らは奇声や笑い声、呻き声或いは呪詛を唱えながら二人を包囲していた。
共通するのは男達が明確な殺意を抱いているということだった。
しかしサーヤとミホに動揺は見られない。
二人ともこの状況を予想しており、何より欠片の恐怖や絶望を感じていなかったのである。
それどころか挑戦的な眼差しで見つめ合って笑う。
「どっちが多く殺れるか勝負しようよ」
「いいね。負けたらどうする?」
「次にカラオケ行った時に奢るとか」
「さんせーい。じゃ、よーいドン」
ミホが不意に飛び出し、ナイフで男の首を掻き切る。
そこから身を翻すと、的確なナイフ捌きで次々と異形の男達を仕留めていった。
くり抜かれた眼球が転がり、切り取られた指や耳が宙を舞う。
溢れ出した臓腑が美しい砂浜を穢す。
これにはサーヤも頬を膨らませて抗議した。
「ちょっと! いきなり始めるのはズルじゃん!」
「勝負は非情なのだよ、サーヤくん」
「もう! ミホがそういうことするなら容赦しないからっ!」
眉間に皺を寄せたサーヤは、憂さ晴らしとばかりに散弾銃を連射する。
至近距離で散弾を浴びた男達は顔面や四肢を吹き飛ばされて崩れ落ちていく。
慌てて反撃を試みる者もいたが、近付く前に弾丸を受けるか、ミホのナイフで首や心臓を貫かれていた。
生乾きだった制服が、鮮血で瞬く間に染まる。
悪意に満ちた異形達の声は断末魔の叫びに変わり、お返しとばかりにサーヤとミホが爆笑する。
弾ける笑顔を輝かせて二人は青春を満喫していた。




