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指環の執行官──警視庁捜査一課第四特殊犯捜査係  作者: 柊ユキヤ


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第35話 最後の一撃

「絢音を離せ!」

「あら? そんなこと言われて離す人っているの?」


 西園寺がククッと嗤う。


「あなたこそ、下がりなさい。指環も外しなさいよ」


(クソッ、動けない。どうすれば……)


 ノーモーションで最大出力を放つことができれば──いや、方法がないわけではない。セーフティを外したら原理上は可能だ。だがそれは、運用規定により固く禁じられている。

 一歩間違えたら何人にも防ぎようのない力を発揮するリングデバイス。その法的制限は絶対で、一切の例外は認められないのだ。


「主任……」


 横で波木が困惑した表情を見せている。波木もこの状況をひっくり返す方法が一つしかないことは分かっているはずだ。そして、それは刑事として終わりだということも。

 だが、ここで絢音を見捨てること、西園寺を逃すこと、どちらも諦めたくない。ならば──

 思わず、右手を固く握りしめていた。


「主任、ダメっす。……指環を外しましょう」

「波木、分かった。まずは俺から離れろ」

「主任!!」


 波木は唇を噛み締め、ゆっくりと数歩、後ずさった。

 波木の後退を確認すると、西園寺は満足げに頷いた。


「さあ、次はあなたよ」

「言うとおりにしたら、絢音を離してもらえるか?」

「フフッ。お利口な犬には、ご褒美をあげようかしら」


 西園寺は見下すような視線を見せた。やはりコイツは自分以外の人間を何とも、いや、人だとすら思っていない。言うとおりにしたところで、事態が好転するわけではないだろう。


 大神は目を閉じると、意識の中で、ある一点に集中した。それは、かつてリングデバイス講習でしか経験したことのない──セーフティ解除の意識操作だ。

 〈そこ〉へ集中した瞬間、指環が熱く熱を持ち、脳内に無機質な警告音声か流れた。


『警告……セーフティを解除しようとしています。このまま操作を継続すると、運用規定違反となります』


 当然だ、もう決めた。

 ここでやらないと、何のための〈指環使い〉なのか。守るべきは運用規定ではなく目の前の大事な少女であり、青春を謳歌すべき無垢な生徒たちだ。


(解除パス……jhg42p6m)


 リングデバイスIDに紐付いた八文字のパスコードを脳内に思い描いた瞬間、目を閉じていたはずの視界から、すべての色が消えた。同時に、意識にモザイク状のノイズが走り、指環と脳が太い線で繋がれた感覚が襲いかかる。

 もはや、自分の意識か指環の意思か区別がつかない。


(放て)


 そう思った──いや、そう思う0.5秒前の瞬間に、指環から純白の閃光が走り、西園寺の右手を貫いた。


「ウッ!」


 西園寺が膝をつき、絢音が崩れ落ちる。

 予想もしていなかったのか、西園寺は右手を押さえると目を見開いた。


「首輪を、外す……なんて」


 西園寺は右手を左手で支えながら、必死の形相で闇の線を放つ。だが、大神の純白の閃光がことごとくそれを霧散させる。

 西園寺は歯ぎしりした。その表情はもはや聖母からほど遠く、切れ長の目は大神を鋭く射抜いていた。


「クソオッ!」


 西園寺の吐き捨てるような声が響く。


 だが、西園寺の闇の線を確実に抑えこんでいる大神も、目は血走り鼻血が出ていた。セーフティを解除した反動は小さくない。無事ではすまないのだ。


 大神の意識が指環に飲み込まれるように、徐々に薄らいでいく。


(あと……少しなんだ……)


 意識を保てるのもあとわずか。それまでに仕留めないといけない。


「主任!!」


 波木が飛び出し、淡く緑色に輝く障壁を巡らせる。

 だが、西園寺はさらに闇の線の本数を増やした。


(こうなったら、数で勝負よ)


 西園寺としては、こんな泥臭い戦法は取りたくなかった。だが、大神のまさかのセーフティ解除。犬と蔑んでいた刑事が、よもや自らの立場、そして身体さえも顧みない狼だったとは──誤算だった。


 対する大神も、薄れゆく意識を糸一本でかろうじて繋げていた。


(これで……決める!)


 右手の拳をふわっと緩めた。

 その瞬間、太陽がその場に出現したかのような強烈な光が西園寺を襲う。

 だが、西園寺は足掻くように闇の線を振り乱した。


 その時、軌道を外れた一本の線が脇に転がっていたプロパンを貫いた。


 ──ズドオォォォォォォォン!!


 プロパンは凄まじい爆発音とともに炸裂し、その衝撃が大神と西園寺を直撃した。だが、大神の意識はすでに純白の光の中に消えていた。

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