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妖怪村の異類婚姻譚  作者: 鍵の番人
第一章  花と河童と、予期せぬ出会い
3/81

3.

 ――だが、小姫の宣言もむなしく、次の日には左足が消えていた。


「な……、なんで……!」


 絶望し、真っ青になった小姫を見て弥恵がつぶやいた。


「あらあ。腕だけじゃなかったのね。この調子だと、左側全部が消えちゃうかもしれないわ。そしたらどうなるのかしら。右半身だけで生活できるのかしら。物とか食べたらどうなるのかしら?」


 小姫とは対照的に、弥恵はこの期に及んでも能天気なセリフを吐いている。小姫は弥恵の言葉を想像し、体の真ん中から縦に真っ二つにされた自分を思い浮かべた。本当にそんなことになったら……ショックで気絶する自信がある。

 固まってしまった小姫に向かって、弥恵はしかつめらしい顔をした。


「小姫。こうなったら観念しなさい。握手なんて場当たり的な対処法じゃ、いつまでたっても解決しないわ」

「……、で、でも……」


 やはり結婚しろというのか。しかし、王子様が河童になるなんてあんまりだ。それに、十六歳では法律的にも結婚はできないはず。


「……仕方ないわねえ。じゃあ、婚約ならどう? 結婚ほどの結びつきはないけど、多少は効果があると思うわ」


 小姫が必死に訴えると、弥恵はため息をついてそんな妥協案を提示した。

 なぜそんなに結婚させたいのか。母親として、そんな適当でいいのか。娘の将来が心配ではないのか。

 いろいろ言いたいことはあったが、背に腹は代えられない。小姫はしぶしぶ了承した。婚約の方が、結婚よりは断然ましだ。籍も入れなくていいし、撤回もしやすいだろう。

 そう言うと、妖怪とは口約束だけで成立するのだと弥恵が言った。結婚も婚約も、言葉を交わすだけで意味があるのだと。だから、妖怪と話をするときは言葉に気を付けなければならないのだと、おまけのように注意をされた。

 しかしとにかく、これで乙彦とつながりができ、接触しなくても妖力を補ってもらえることになる。

弥恵はすぐに乙彦を呼び、契約を交わした。

 おかげで嘘のようにすんなりと左足は元に戻ったが、初対面がアレなだけに、小姫はじとっとした目で彼を睨む。


「……言っとくけど、これ、ただの時間稼ぎだから。他の方法が見つかったら、すぐに婚約は解消だから!」

「私も、人間と婚姻なんてごめんなのです」


 乙彦の細められた目と、小姫との間で火花が散る。

 それを、弥恵が微笑みながら見つめていた。


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