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にぎやかな大晦日

 12月31日、大晦日。


「ありがとうございました! また来年もお越しください!!」


 去年同様、今年も大晦日は午後9時に名代辻そばは営業を終えた。

 最後の酔客を送り出すと、自動ドアの鍵を閉め、従業員全員で店内の掃除を始める。いつも隅々まで掃除はしているものの、今日は特に念入りだ。何せ1年の締め括りの日、その年の汚れを残らず落として新年を迎えよう、というような気持ちで臨む。


 従業員総出、1時間かけて本当に隅の隅までピカピカに磨き上げたところで本日の営業は終了、そして去年同様、今年も従業員全員で、忘年会も兼ねて年越しそばを食べることになった。

 もしかすると家族がいて通いで来ているアンナなどは、家族と年末年始を過ごしたいからと不参加かもしれないと文哉は思っていたのだが、彼女は「面白そうだから」とこちらへ来てくれたのだ。アレクサンドルも「1人身だから」とのことで参加してくれた。チャップも去年同様参加、ルテリアとシャオリンは同居しているので当然参加と相成った次第。

 このアーレスという世界、少なくともカテドラル王国では年末年始を特別に祝うようなことはないと知ってはいたのだが、それでも1人も欠員が出なかったのは嬉しいことである。


 今年は去年以上に腕によりをかけて料理を用意しなければな、と文哉は意気込んでいた。

 去年の時も言及したかもしれないが、夏川家の年越しそばはシンプルなかけそばだ。その分おかずをたんまりと用意して豪華な食事とする。それが夏川家に代々伝わる年越しスタイルだ。異世界に転生したとて変わらず踏襲する。きっと、来年も同じように年越しをするのだろう。


 去年は去年で心尽くしの料理を作って供したのだが、ギフトのレベルが上がったことにより、あの頃よりも扱える食材の数が劇的に増えている。ということは、去年よりも更に豪華な料理を用意出来るということだ。


 料理の下拵えは営業中に済ませており、後は調理するだけ。

 調理は文哉が1人で担当し、同時進行でルテリアたちに食器洗いや後片付けなどしてもらい、パパッと手早く作業を済ませる。

 今回用意したものは、エビの身だけをたっぷりと使った豪華なエビかきあげ、カレーパン用の濃い目のルーを使ったカレーコロッケ、ラーメン用の煮干しを使った田作り風甘辛煎り、去年好評だった和風煮卵、そして米が好きなシャオリンの為に作ったミニソースかつ丼だ。デザートには紅生姜アイスとハーフサイズのクールッシュもある。

 今年は去年以上に色々と用意したつもりだが、特に田作りなどは新年を迎えるのに際しめでたいのではないだろうか。普段は出汁取りにしか使用していない煮干しだが、ちゃんと調理してそのものを食べられることを皆にも知ってもらいたい。こういう地味なやつが、意外に良い味をしているのだと。


 調理を終え、皆で出来立ての料理を取り囲むように席に座る。

 去年もそうだったのだが、今年も料理を見る皆の目が輝いていた。きっと、普段見ない料理が並んでいることにワクワクしているのだろう。文哉としても、彼らの期待を裏切らないだけのものを用意したつもりだ。


「さて、それでは今年も1年お疲れ様でした! 乾杯!!」


「「「「「乾杯!!」」」」」


 それぞれ酒やお茶などを入れたジョッキを手に、ガシャンとぶつけて盛大に乾杯をする。いよいよ宴の始まりだ。


 まず、すぐにジョッキから唇を離したアンナがカレーコロッケを口に運ぶ。


「おぉー、これ、カレー味のコロッケだ! コロッケのタネに入れても合うもんだねえ、カレー! カツドンにも合うし、万能選手だな、カレー!!」


 また、その隣の席ではアレクサンドルがエビのかき揚げを頬張りながら感心したように頷いている。


「ふうむ、この何処を噛んでもザクザクプリプリとした食感が楽しめるエビ尽くしのテンプラ、実に良いですね。塩だけのシンプルな味付けで十分に美味い」


 今年から加わってくれた2人、アンナとアレクサンドル。名代辻そばで働く前からプロの料理人として活躍していた彼らが味を認めてくれるというのは、文哉の大きな自信に繋がったものだ。名代辻そばの料理は一般の人々だけではなく、プロの料理人すらも認めるものなのだと。


「はぁー、レモンサワー美味しい! 私、実はビールとかよりフルーツのお酒の方が好きなんです!」


「この煮干しの煎ったやつ、甘辛くてついつい酒がすすんじゃうなあ。店長、これビールがパカパカいけちゃいますよ!」


「ソースカツドン、いつものカツドンと違ってサクサク甘じょっぱくて美味しい。私はこっちも同じくらい好き」


 ルテリア、チャップ、シャオリンたちもそれぞれ酒や料理に舌鼓を打っている。

 彼らは去年も美味しい美味しいと年越しの料理を口にしていたが、今年も変わらず美味しいと言ってくれた。つまりは、変わらずに文哉の料理を愛してくれているということに他ならない。店長として、そして料理人として、それはとても嬉しいことである。何度食べても飽きない。いつ食べても美味しい。それこそが日常生活の中で気軽にふらりと立ち寄れる立ち食いそば屋の強みなのだから。


 お客様方に愛され、従業員たちにも愛される名代辻そばの料理と酒。

 食べてくれる人が誰であろうと、やはり自分が作ったものを「美味しい」と言ってもらえるのは料理人として嬉しいものだ。

 文哉はニコニコ顔でビールを飲みながら、ルテリアたちの会話に耳を傾ける。


「しっかし、ナダイツジソバは料理も酒も美味いし、まかないまで全部美味いよねぇ」


「だって、お客さんに出す料理は当然として、俺らに食べさせてくれるまかないまで手抜きなしなんですから、それは当然ですよ!」


「しかもお店で出してないものも作ってくれるんですから、従業員冥利に尽きますよね!」


「オニギリが食べられるのは従業員の特権……!」


「いや本当に、定期的に新しい料理に触れさせていただける機会をいただけてありがたい限り。来年も新しい料理に触れさせていただけることに期待しています」


「アレクサンドルさん、いいこと言った!」


「そうですね、私も期待してます!」


「私も……!」


「あ、なら俺も!」


「そんならあたしだって期待してるっての!」


 5人は顔を寄せ合った笑顔を浮かべると、示し合わせたようにその顔を文哉に向けた。


「「「「「期待してますよ、店長!!」」」」」


 声を揃えてそう言う5人。

 茶化している様子はない。本当に、文哉がこれから作るであろう新しい料理の数々に期待しているようだ。

 そんな彼らの期待のまなざしを受け、文哉は思わず苦笑してしまった。


「いや、ははは……。まあ、期待に応えられるようがんばるよ」


 ギフト『名代辻そば異世界』のレベルが上がり続ける限り、そして文哉のアイデアが尽きぬ限り、彼らの期待を裏切ることはないだろう。そして名代辻そばをご贔屓にしてくれているお客様方の期待も裏切りはしないだろう。

 いつも変わらぬお馴染みの味と、いつもとはひと味違う新しい刺激。それらが共存するからこそ、名代辻そばは広く愛されるのだ。地球であろうと異世界であろうと、その点については変わらない。

 来年も皆に愛される名代辻そばでありたいものだ。その為には、より一層の進歩あるのみ。ただ我武者羅に働くだけではなく、更に新しい従業員を加入させてみるのもいいかもしれない。月イチで実施している店舗オリジナルメニューについても、一考の余地はあるだろう。

 試してみたいことは色々とある。来年は挑戦の1年だ。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 そう頭を下げる5人に再び苦笑を返しながら、文哉は新年への意気込みを新たにした。


本日2月19日はコミカライズ版『名代辻そば異世界店』の更新日となっております。

今回はチャップの弟チャック編の最終回です。


コロッケそばを口にし、兄チャップの想いを感じ取ったチャック。

実家を離れ、1人の料理人として歩み始めたチャップに対し、チャックが思うことは……?


兄弟の想いが交錯するエピソード、是非ともお楽しみください!!


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