152 工房への来客
一通りの作業を終えた兄妹は片付けに入るべく昇降口の扉を開いた。
「あれ?」
その途端ライアスが声を上げる。階下から上がってくる人影が見えたのだ。
「……カムトだな。なんか、悪いことやったか?」
気まずそうに呟く。
作業場である屋上には防腐剤の粉が散らばり、工具や皮の切れ端などもまだ片付いていない。そんな場を直接神官に見られることに、兄妹は緊張を覚えた。
階段を上るカムトが兄妹に気付き、軽く手を振る。そのまま作業場の有り様に目が届くところまで来たが、にこやかな表情は変わらない。
「やあ。仕事してる間にちょっと見えたけど……随分と大胆にやるよねえ?」
カムトは屋上を見渡し呆れるように言った。この散らかり具合を先に予測していたようだ。
低い声でライアスが尋ねる。
「……やっぱり、ダメか?」
「いや、ちゃんと片付けてくれれば僕はいいけど。兄さんたちに見つからないようにね」
カムトは苦笑気味に言った。呆れた様子ではあるが怒ってはいないようだ。
兄妹は一安心して頷く。
「ああ、今から片付けるつもりだ」
そう伝えるとカムトはふうと吐息して、
「で、それからでいいんだけど、話がしたい。一時間後にキミの事務所でいい?」
そう話を切り出した。
表情を見る限り深刻な話ではなさそうだが、含みのある物言いに兄妹は顔を見合わせた。
「どうしたんだ?」
ライアスが尋ねる。カムトはまた小さく息をつき、口を開いた。
「姉さんのアトリアの外交で進展があったんだ。直接キミにお願いするわけじゃないけど、話だけはしておこうかと思って」
「お、おう」
はっきりしない答えに兄妹は首をひねる。だが再び疑問を投げかける前に、カムトが言葉を継いだ。
「詳しくは部屋で話すよ。イリューアは部屋にいたから時間だけ伝えておいてくれる?」
そう言って昇降口へと身体を向ける。ライアスが「ああ、わかった」と応じるとカムトは頷き、足早に階段を下りていった。
その背中を見送り、兄妹は再びお互いの顔を見やる。
「今のって……」
気にかけるようにフライアが呟き、ライアスは腕組みをした。
「まあ、関わることはなさそうだけど。時間が、一時間後だって言ったか?」
「うん……あっ! 皮の配送!」
一時間後、という言葉にフライアが反応する。
適当に返事をしたが片付け以外にも作業は残っている。キマイラの皮はなめしのため一旦シェラタンへと送らなければならない。
妹に言われ、ライアスもハッと口を開く。
「ああっ、それ! シェラタン行の、どこの誰に渡すって?」
ベベルから聞いている運搬方法、それはいつもの鞄の中だ。そして、それを確認するためにも作業着から着替えなければならない。それから皮を所定の場所に運ぶなどしていれば一時間なんてあっという間だ。
先程までののんびり感はどこへやら、思わぬ予定が入り、兄妹はあくせくと片付けをはじめた。




