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第21話 水狼将軍・クリス(1)

 土と風の猛攻が止み、巨大な軍艦から人の姿が消える。


 しかし、ただ一人の例外がいた。


 水狼将軍クリス。船の先頭にたった一人残った彼は、防御態勢を解いて顔を上げる。そして、その赤く光る目で将也たちを睨み付けた。


「ここからはスピード勝負ですわ! 一気に行きますわよ!」


 アイリスの声がこだまする。

 その直後、水狼将軍が膨大な魔力を放った。


 周囲の海面から四本の水柱が立つ。それらは豪速で天高く伸び、将也たちに向けて進んでいく。うねりながら敵に向かうその姿は、まさに獲物を前にした蛇のようだ。


 アイリスは左手で将也の右手首を掴み、転移魔法を発動させた。

 将軍からの攻撃が激突する寸前、二人の姿はそこから消える。


 取り残されたルシアの目玉は、慌てて急下降した。標的を見失った四匹の水蛇はそのまま互いに頭からぶつかり合い、盛大に水を散らしながら崩れていった。



 アイリスと将也は、水狼将軍の真正面に出現した。


 土だらけの甲板に二人は足を着ける。挨拶代わりと言わんばかりに、アイリスが右手で斧を突き出した。


 クリスは狼狽えることなく、その攻撃をしっかりと目で捉えた。彼は咄嗟に魔法の使用を中断し、後ろに跳ぶ。


 大斧は水狼の腹を掠め、衣服にわずかな裂け目を付ける。

 彼は間髪入れずに反撃した。


 空中で両手を振り上げ、アイリスに向けて巨大な水塊を放つ。その早撃ちの水砲にアイリスは反応できず、直撃を許してしまった。


 水球が爆発するかのように弾け、その衝撃で将也が吹き飛ばされる。


 クリスは空中で後ろに一回転し、甲板に足を着けた。


 彼の口元はわずかに上がっていた。だが、その目が小柄なシスターを捉えた瞬間、彼の顔はすぐに引き締められた。


 アイリスはまったく怯んでいなかった。バランスの崩れた状態で強攻撃をもろに受けたというのに、彼女はその場から一歩も退いていない。それどころか、その体には水滴一つすらついていなかった。


 地の聖者は斧の刃先を甲板に付け、左手を水狼将軍に向けて伸ばす。


 この少女に、半端な水属性攻撃は効かない。

 クリスはそう判断し、間を置かずに駆け出した。


 アイリスが魔法を放つより先に、水狼将軍が彼女に接近する。アイリスはその速さに対応することができなかった。


 水狼将軍の右足が、彼女の腹に突き刺さる。


 その強烈な蹴りを受け、アイリスは後ろに大きく吹き飛ばされた。彼女の体は甲板に落ち、跳ねるように転がって壁に激突する。


 だが、将也はそれをただ見ているだけではなかった。


「ウィンドショット!」


 彼は一瞬の隙を突いて風弾を放っていた。


 塊と化した豪風がクリスの頭部に直撃し、その体が大きくよろける。そのまま倒れ込むかと思われたが、彼の両手が甲板を鷲掴みにした。


 クリスはそこから強引に側転し、将也に体を向ける。そして、足を床に着けるのと同時に指笛を鳴らした。


 澄み切った高音が海上に響き渡る。


 それは将軍からの合図だった。周囲の軍艦がこれに反応し、魔法で無理矢理に方向を転換させていく。その行き先は、この将軍の船だ。


 援軍が来る。

 将也は水狼将軍に目を向けたまま、それを悟った。


 クリスは口から手を離し、腰に差していた二本のナイフを抜く。彼はそれらを両手に構え、重心をわずかに低めた。


 風聖と水狼将軍が攻撃態勢で睨み合う。


 軍艦に当たった波が、高い水しぶきを上げる。

 それを合図に、両者が攻撃を仕掛けた。


 将也が風弾を放つ。クリスはそれを最小限の動きで躱し、相手に接近して右のナイフを振り上げる。将也は後ろに一歩引いてそれを回避。その直後、水狼将軍が将也の後ろに回り込んだ。


(フェイント!?)


 将也はそれを視界に収めることはできた。だが、対処はできない。


 振り返る途中の彼に向けて、水狼将軍は左のナイフを突き出した。


 その瞬間、二人の間に突如としてアイリスが現れた。彼女は斧の柄でナイフを受け止め、そのまま両手で斧を押し出す。その重さに耐えられず、クリスは後ろに弾き飛ばされた。


「あなたの相手は、このわたくしです!」


 アイリスが檄を飛ばす。


 水狼将軍は舌打ちをしながらも、砂一粒無い甲板にしっかりと両足を着けて体勢を立て直した。


 その直後、彼の頭上に巨大な土塊が降りかかってきた。

 クリスは即座に反応し、その場からバク転で飛び退いた。


 彼が居た箇所に大量の土が叩きつけられ、板が割れて宙を舞う。土塊の威力は絶大だった。もしこれを受けていたら、水狼将軍はその時点で戦闘不能に陥っていたことだろう。アイリスは転移魔法の直前に船上の土を操り、敵の上空に集めていたのだった。


 渾身の不意打ちを避けられたが、アイリスは魔法を続行した。


 甲板の穴から土が浮き上がり、小粒な弾となってクリスへと発射される。水狼将軍は次々と向かってくる土弾を見極めながら、大きな動きでそれらを回避した。


 標的が動き回るせいで、狙いが定まらない。アイリスは土とともに呼び寄せていたツタを、水狼将軍に差し向けた。それで手足を拘束しようとしたが、クリスはそれを器用に避けていく。


 歯痒い状況が続く。


 将也はその光景を見ながら、クリスに攻撃する機会を冷静に探っていた。


 だが、ふと周囲に目を向けると、援軍の船が近づいているのがわかった。このままでは、水狼将軍と同時に大量の兵士を相手にしなければならなくなる。


「こっちくんじゃねえよ! トルネード!」


 将也は魔力を全方位に発散し、周囲に無数の竜巻を起こした。


 援軍の行く手を阻むように、海面から緑色の風が巻き上がる。その強風に襲われ、船は帆や外装を剥ぎ取られていく。旗艦の救援に向かっていた十数隻すべての軍艦が、将也の妨害によって急減速を余儀なくされた。


「やりますねショウヤ! そのままお願いしますよ!」


 アイリスは水狼将軍を攻撃しながら、将也に称賛の声を向ける。

 しかし、将也は魔力の急激な消費に顔を歪めてしまった。


「ああ! でも、これ以上のことはできねえぞ!」


「構いません! 水狼将軍はわたくしが倒します!」


 アイリスは豪快にそう言って、左拳を握り締めた。


 彼女の転移魔法と地属性魔法が合わさり、上空に大量の土が現れる。それらは軍艦を覆う面積にまで一瞬で広がり、急降下した。


 クリスには逃げ場がなかった。


 甲板すべてに茶色い土が降り注ぐ。将也とアイリスには当たらなかったが、水狼将軍には大量の粗粒が直撃した。


 土がすべて空から落ちると、静寂が訪れた。砂埃が立ち、聖者二人の視界が大幅に制限される。


 手応えはあった。だが、これで倒れるほど四狼将は甘くない。

 それを証明するかのように、水狼将軍が地聖に向けて突進してきた。


 彼は二本のナイフでアイリスに斬りかかる。その狙いは、顔、腹、首、肩の順。アイリスは斧の柄で攻撃を防ぐ。しかし、肩に突き出された四撃目を無理矢理避けたことで、彼女は体勢を崩してしまった。


 次の五撃目で、クリスが彼女のへそに向けてナイフを突き出した。アイリスの身体能力では、これを避けることはできない。


 アイリスは咄嗟に転移魔法を使い、その場から姿を消した。


 ナイフが空を突くと同時に、アイリスは水狼将軍の背後に足を着ける。それと同時に、彼女は敵の胴に向けて大斧を横薙ぎに繰り出した。


 クリスは攻撃動作の真っ最中。目では背後の地聖を捉えられない。そのうえ、回避をするにしても大きな動きが必要となる。避けられるはずもない。


 しかし、水狼将軍は瞬時に体を前に倒した。

 彼はその場に伏せることで、背後からの断撃を見事に回避してみせた。


 アイリスはその反応速度に目を見開く。彼女は斧を全力で振り切ったことで、致命的な隙を生み出してしまった。


 クリスは目にも留まらぬ速さで起き上がりながら振り向き、アイリスに向けて左手のナイフを振る。


 これを避けるには、転移魔法を使うしかない。アイリスは反射的に、船の先頭部分にまでワープした。


 だが、彼女の眼前にはナイフが迫って来ていた。


 アイリスは混乱した。なぜナイフが飛んで来ている? これほど遠くにまで逃げたのに、なぜ攻撃されている?


 彼女は困惑しながらも、斧で顔を覆ってナイフを弾き返す。


 その刹那、水狼将軍がアイリスに向かって駆け出した。


 なぜ転移と同時に攻撃されたのか、その答えは簡単だ。クリスが地聖の転移先を瞬時に見極め、そこへ右のナイフを投擲していたからだ。


 そうして作り出した隙を突き、水狼将軍はアイリスに接近する。そして、弾かれたナイフが落下を始めるより早く、彼は少女の腹を右足で蹴りつけた。





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