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第15話 西国侵攻騎馬軍団

 黄色い光が二つの空間を繋ぐ。


 将也とリーシャは東のヒガトン国での炎狼将軍および水魔の撃破に成功した。それから間もなくして、二人はルシアとともにセルトア国の北国境の防衛線に帰還した。


「はーい! 戻ってきましたー! みなさんお疲れ様でーす!」


 転移魔法の光が消えるや否や、ルシアは両手を高く挙げて緩んだ笑みを浮かべた。彼女には疲労の色など一切見えない。


 しかし、そんな大魔法使いとは対照的に、従者の四人は息を荒げていた。


「はぁ! はぁ! つ、疲れたぁ!」


「わ、わたしもだ……四狼将、そして、同じ属性の、三魔将を、続けて、相手、したのだからな……」


 将也とリーシャは堪らずその場に座り込んだ。


 防衛線に残っていたメディとアイリスは、巨大なバリアに両手を押し付けて踏ん張っている。二人の目は血走っていて、体の至るところに血管が浮かび上がっていた。


「おい! ルシア! さっさとバリアの維持に戻れ! 破られるぞ!」


「その前に回復をお願いいたします! この状態では防衛も攻撃もできません!」


 メディとアイリスはルシアに顔を向け、怒号にも似た声を浴びせる。


 その間にも、キターノ国の兵士たちはバリアを攻撃し続けていた。敵の猛攻を受け続けたせいか、魔法壁は無色透明から淀んだ灰色へと姿を変えている。


 火聖と地聖の言葉を受けて、ルシアは小さく跳ぶ。


「はいはーい! では、まず回復から~!」


 彼女は両手を広げ、その場で横に一回転する。


 すると、従者四人の体が緑色の光に包まれた。癒しの明かりが体の隅々まで行き渡ったかと思うと、三秒も経たないうちに光が弾けるように消えた。その時にはもう、従者たちの顔から疲労の色が抜けていた。


「お? なんか体が軽くなったぞ」


 将也は立ち上がり、その場で軽く跳ねる。


 ルシアの声は戦場の最前線には似つかわしくないものだったが、その回復魔法自体は本物だった。将也の体は全快し、今すぐにでも戦える状態になっていた。それは、他の三人の聖者も同じだった。


 従者四人を回復させた後、ルシアはバリアに歩み寄った。彼女は特別なことなど何もないといった様子で、左手で魔法壁に触れる。


 その直後、バリアの淀みが一瞬で無くなった。無色透明に戻ったバリアは力を取り戻し、攻撃している敵兵士たちを一斉に後ろへ弾き飛ばす。


 キターノ兵が次々と落下するなかで、ルシアは将也に振り返った。


「ふふーん。大魔法使いの私は、戦闘以外ならなんだってできちゃうんですから」


 彼女は得意げに胸を張る。

 ついでに鼻まで伸びていきそうな様子だった。


 だが、実際にはそうはならず、ルシアはすぐに真面目な顔をして指示を飛ばし始める。


「では、リーシャとメディは交代です。私とリーシャとアイリスはバリアの維持を、ショウヤとメディは西のウェッセイ国で岩狼将軍マーカスと火魔ベルブティを倒しに行ってください」


「「おうよ!」」


 将也とメディは揃って返事をする。


 二人の快諾を受けて、ルシアは微笑んだ。そして、彼女は右手を高く上げる。


「では、お願いしますよ。ジャーンプ!」


 その言葉と同時に、将也とメディの足元に魔法陣が現れる。そこから発せられた黄色い光が二人を包み込み、弾けて消えた。





 転移魔法の光が消え、将也とメディの視界が明らかになる。

 二人は草原の、ど真ん中に立っていた。


「うわあ、草ばっかり」


「ま、お馬さんが走るにはうってつけの場所じゃねぇのか?」


 将也は呆けた顔で率直な感想を述べ、メディは不敵な笑みを浮かべながら北方向の山脈を眺める。


 その直後、数多の重い足音が二人の耳に届いた。それに伴って地面が微かに揺れ、その振動は時間とともに強さを増していく。


 メディは腰の鞘から剣を抜き、その切っ先で音のする方向を指す。


 そこには、飛び抜けて低い山があった。


「案の定、ヒック山を越えてきやがったぜ。岩狼将軍マーカス率いる、キターノ国軍騎馬部隊がな!」


 メディは口元を上げたまま、剣の柄を強く握る。


 次の瞬間、開けた山道から一気に騎馬兵の大軍が押し寄せてきた。道を埋め尽くすほどの騎馬部隊は、緩やかな坂を豪速で下っていく。その部隊の兵士や軍馬は、目が赤く光っている。


 部隊の先頭集団が草原に辿り着いた途端、ひづめの音が急激に増幅した。また、新たに銀色の甲冑が擦れ合う音も聞こえてくる。


「ありゃりゃ~。やっぱり山を越えると滅茶苦茶速いですね~」


 将也の横から聞き慣れた声が聞こえた。


 彼はそこに目を向ける。グロテスクなほどに精巧な作りをした目玉が一つ、浮かんでいた。


 将也は反射的に飛び退く。


「うわぁ! ってなんだルシアかよ!」


「なんだとはなんですか。炎狼将軍の時だってこれだったんですから、今回もこれで出てくるのは当たり前じゃないですか」


 ルシアの目玉は冷静にそう言って、再び騎馬軍団に視線を向けた。


「しかしまぁ、こっちも一万以上いますねぇ。しかもあの機動力。ウェッセイ国があっという間に蹂躙されるわけですよ」


 その魔法のカメラは左右に動きながら、感心したような言葉を発する。


 その時、メディが将也と目玉を睨み付けた。


「ごちゃごちゃ言ってる場合じゃねえだろ。岩狼将軍マーカスってのは、あの先頭のゴツイおっさんでいいんだよな?」


 メディは剣の先で示す。


 そこには、大きな赤い馬に跨った、大柄の騎士がいた。他の兵士とは違って甲冑の色は茶色で、兜の頂上からは金色の縄が二本伸びている。右手には黒色のハルベルト。壮年期らしい顔つきだが、その目は禍々しい赤の光を帯びている。


 先頭騎士の姿を確認して、ルシアの目玉は上下に動いた。


「はい。あれが、キターノ国の岩狼将軍、マーカスです。45歳、現役バリバリのクソ真面目な騎士です。ステータスはレベル95、体力93、魔力85、力93、速さ90、防御93、戦闘センスS。魔王軍との小競り合いで成長を重ねてきた、正真正銘の化け物です」


 ルシアは冷静に言う。


 その間にも騎馬軍団は次々と山を下り終え、草原を走って将也たちに近づいていた。


 メディは剣を斜めに振り、体の右斜め下に構える。


「そういうことなら話は早え! ショウヤ! まずは将軍と部下どもを切り離すぞ!」


「おう!」


 将也は威勢良く応え、風魔法を発動させようとする。

 だが、メディが左手でそれを制した。


「あたしが合図するまで待て」


 その言葉に、将也は出鼻を挫かれたような気がした。しかし、岩狼将軍マーカスと正面から戦うのは彼ではなくメディだ。将也は大人しく彼女の指示に従うことにした。


 魔力を昂らせたまま、将也とメディはその場で静止する。騎馬軍団が徐々に近づいてくるなか、将也のもどかしさは大きくなっていく。


「まだだ……まだ引きつけろ……まだだぞ」


 メディは自分と将也にそう言い聞かせながら、深呼吸をする。


 そうしている間に、岩狼将軍が二人を視認し、ハルベルトの先を彼女たちに向けた。マーカスの指示を受けた騎馬軍団が進路を微調整し、二人に向かって突進を始める。


「お、おい……まだかよ」

「焦るなって……ここは空中じゃねえんだよ」


 はやる将也を、メディが静かに抑える。


 前回の飛竜部隊戦では、将也たちは超上空という位置的な有利があった。飛竜を山脈に落とせば、兵士たちの戦闘復帰はほぼ不可能な状況だった。


 しかし、今回はそうはいかない。闇雲に魔法を放ったところで、全ての兵士を攻撃できるとも限らず、また、兵士が戦線復帰をしないとも限らない。


 できるだけ引き寄せて、魔法で分断する。標的の岩狼将軍と火魔を倒せる可能性が最も高いのは、この方法だ。


 将也とメディは我慢を強いられた。


 やがて全ての騎馬兵が山を下り切った。岩狼将軍マーカスはあと一分足らずで二人を轢き殺せる距離にまで来ていた。


 迫りくる暴走突撃兵団に、将也は恐怖を感じてしまう。


「な、なぁ……さすがにヤベエって」

「あと少しだ。我慢しろ」


 メディはそう言って歯を食いしばる。彼女もまた、焦りと恐怖心を抑えつけるので精一杯だった。


 そして、騎馬軍団が、二人に突っ込むまであと三十秒程度のところにまで接近した。


 その刹那、メディが目を見開いた。


「今だ! 魔力を爆発させろおおおおおおおおおおおお!」


「よしゃあああああああ! ウィンドブラストおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 メディと将也は叫びながら魔力を最大限に活性化させ、二人同時に火と風の魔法を放った。


 騎馬軍団は強大な魔力を感じて止まろうとした。だが、遅い。


 暴風と業火が騎馬軍団に真正面から襲いかかった。風を纏った炎がキターノ兵たちを呑み込み、暴れ狂う。


 兵士は馬から引き離され、地面を転がる。主のいなくなった馬は、迫りくる炎から逃げ惑う。陣形は一瞬にして崩壊し、騎馬軍団は大部隊としての力を失った。


 そして、炎の壁が地面から次々と立ち上がり、キターノ兵の行き場を塞ぎ、部隊を分断していった。


「よし! これで、こっちには来れねえだろ!」


 将也は額から汗を流しながら、目の前の炎壁を見てガッツポーズをする。このまま標的が力尽きてしまえばいいと、彼は望んだ。


 そこにメディの一喝が飛んだ。


「油断するんじゃねえ! 来るぞ!」


 その言葉を受け、将也は身構えた。

 彼は甘い考えを捨て、灼熱の炎壁を見据える。


 すると次の瞬間、一つの影が炎を突き抜けた。岩狼将軍マーカスだ。岩狼将軍は騎乗したまま、ハルベルトを高く掲げて将也とメディに向かって突っ込んでくる。


 マーカスとその馬は全身を炎に包まれながらも、単騎で駆ける。相手が弱ったこの好機を逃すまいとするその姿は、猛将と呼ぶにふさわしいものだった。





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