119話 楽園 25/33
ユウナ率いるメイシアたちは、急いで御嶽を目指していた。
途中メイシアはマタラから、カマディがこのような事態になってしまった成り行きを聞いた。
「ひどい! おばあちゃんが、間違った事をするはずないのに、なんで、みんな信じられないの? みんな仲間のはずなのに……! 」
「……ごめんなさい、」
「……確かに、マタラさんにも責任の一端はある。でも、マタラさんはちゃんと、おばあちゃんがそんな人じゃないって気が付いたでしょ。だからもう大丈夫。一緒に信じよう? ね。」
「……はい、ごめんなさい、」
「もー、元気出して! おばあちゃんなら、こう言うよ。人は立ち上がるとき、謝らなくてもいいって。……これからの事を考えよ? 」
その時だった、前方から、清明たちが慌てて山を下りてきたのだ。
戸惑う一行。
もしかして、もうカマディが拘束されてしまったのかと、肝を冷やす。
しかし、様子がおかしい。
捕まえているいるはずなら、もう急がなくてもいいはずだ。なのに我先にと血相を変えて走って来る。
「ちょっと、どうしたさぁ? 」
異様なほどの急ぎ方にユウナが一人を捕まえて声をかけた。
「ユウナじゃないさぁ! こんな時に……。もー、どうしたもこうしたも無いさぁ! 御嶽が壊れて、トイフェルがこっちにチューンからよ、キジムナーが言いに来たんやっさぁ! アンクトゥ、早くヒンギロって言うからよー! ユウナも早くスイまでヒンギルばぁよ! マタヤーサイ! 」
そういうと、ユウナの手を振りほどいて、そそくさと行ってしまった。
「……。」
「ユウナさん、キジムナーって……、」
マタラが顔面蒼白になった。マタラの脳裏には、五年前の惨劇がよみがえっていた。
足がすくんでしまう。
それを知らないはずはないのだが、ユウナから檄が飛ぶ。
「マタラ、しっかりするやっさぁ! ワーから離れなかったら大丈夫さぁ! ……それよりも、今は御嶽が壊れたって言っていたからよ、そっちの方が厄介ばぁよ…… 」
そういうと、全員を急かして、先を急いだ。
すると今度は、前方からナギィと森榮が走ってきた。
「ナギィ! 」
メイシアがたまらず、名前を呼んだ。
ナギィがそんなメイシアに気付き、そのまま駆け寄り抱きしめた。
「メイシア……! よかった……本当に良かった……、もう大丈夫なの? どこも痛くない? 」
「うん。心配かけてごめんね。マブイグミっていうのをしてもらってね……なんとか、大丈夫になったよ! 」
「そっか……そっかそっかぁ! 本当に良かった! 」
ナギィの横で森榮も、もじもじと何か声を掛けたそうにしていた。
「森榮も、心配かけてごめんね。ありがとう。」
「……ふんっ、ちょっとだけしか心配してなかったさぁっ。……元気になったんだったら、良かったからよ、」
「こら、森榮っ! ほんと、素直じゃないんだから。」
「ふふふ。……って、それより、おばあちゃんは? 」
「そう、それやっさぁ! メイシア、それから……皆さん、オバアを助けてください! 」
ナギィが頭を下げた。
「でも、ネーネー!オバアはメイシアを御嶽に連れてきちゃダメって言ってたばぁよ! 」
森榮がナギィの着物を引っ張った。
「わかってる! わかってるけど……、放っておけるわけないばぁ……、」
ナギィの目は涙を今にもこぼしそうだった。
「……。」
森榮はそれ以上は何も言わなかった。姉のこんな顔を見たのは初めてだったのだ。
「わかった。大丈夫、ナギィ。私たちがおばあちゃんを助けるから。ね、みんな! 」
と、メイシアは周りを見渡した。
次々に、「もちろん! 」「任せて! 」と頼もしい返事が返ってきた。
「でも、……おばあちゃん、私は御嶽に行っちゃだめって言っていたの? 」
「……違うの、御嶽はオバア一人で十分だから、ここへは来ないで、メイシアがしようとしている事に協力をしなさいって。だから、すぐにメイシアと魚釣を出なさいって……事だと思う。」
「なぁんだ! じゃぁ、問題無いわ。だって、私がしようとしている事って、おばあちゃんを助けることだもんっ! 」
「……ヤサヤ! 」
ナギィの顔がくしゃっと笑顔になった。
「じゃぁ、行くばぁよ! 」
ユウナが気合を入れると、改めて全員で御嶽へ向かって走り出した。
「メイシア、友達と合流できたんだね。」
「うん。おばあちゃんの言う通りだった。すごいね。彼女がウッジで、こっちがストローと、おんぶされているの子がチャルカ。」
三人ともそれぞれ挨拶をした。
「私は、御殿から参りましたチルーと申します。海榮さまにお世話になっております。」
「ワーはナギィです。よろしくやっさぁ。あと、このヤナワラバーが、弟の森榮。」
森榮は恥ずかしいのか、何も言わず前を向いて走り続けた。
「ナギィは、私を助けてくれた恩人なの。今から助けに行くおばあちゃんも。……ナギィ、絶対、おばあちゃんを助けようね。」
「……うん。」
ユウナ率いる一行は先を急いだ。
チューン / 来る
アンクトゥ / だから
ヒンギル / 逃げる
マタヤーサイ / またね
ヤサヤ / そうだね