117話 楽園 23/33
ナギィと森榮は、森の中に身を潜めていた。
御嶽から飛び出したものの、出てすぐの場所で、清明たちの声が聞こえたので、用心して身を隠したのだ。
案の定、清明たちがぞろぞろとやって来た。
清明は十三人。
どうやら、御嶽への侵入ができないようだった。
それだけ、カマディの力が他の清明に比べて強大だという事なのだろう。
しかし、清明たちも黙ってはいない。
あの手この手で、どうにか御嶽に張られた結界を破ろうと、念を込めていた。
「ネーネー、どうしよう……。オバアはどうなってしまうさぁ? 」
「しっ! 」
「ネーネーったらぁ…… 」
「ちょっと黙っているさぁ! 見つかったら、どうするばぁよ! 」
「でも……ここにいてても、オバアが言った事が出来ないからよ、」
「わかってるさぁ…… 」
ナギィは焦っていた。
このままでは、どうしようもない。家へ帰ることも出来ない。帰れなければ、オバアが言ったようにメイシアがここへやってきてしまう。
オバアがここまでして自分を行かせたからには、「メイシアの成すべきことに協力する」事は、とても重要なことなのだろう。
しかし、ここで動いたなら、絶対に清明たちに見つかる。
見つかったなら、どうなるだろう。
拘束は免れないかもしれない。
そこまで卑劣な事をする人たちではないと思ってはいるが、最悪の場合、自分たちの身の安全と引き換えに、オバアが御嶽から出されるかもしれない。
今するべきこと……
ナギィは考える。
オバアは、メイシアと共の行動しろといった。
しかし今、このスイはトイフェルによって攻撃されようとしている。
そして、それをきっとまだ、ここにいる清明たちは気が付いていない。
もし、今それを清明たちに告げたところで、オバアが手引きしたと清明たちは思うだろう。
だがオバアにかぎって、絶対にそんなことは無いのだ。それは、確実だ。
危機はそこまで迫っている。
オバアの力が絶大なのは目の当たりにしたが、トイフェルを今から迎え撃つとなると、この清明たちの力もきっと必要になるはずだ。どうにか誤解を解いて、清明たちが一丸となってほしい。
一体どうやったら……
『イヒヒ! ワッチに任せるさぁ!』
不意に、誰もいないはずの背後で、聞き慣れない子供の声がした。
「ひっ! 」
驚いて、振り返ったが、そこには誰もいなかった。
「ネーネー、どうしたさぁ? 」
森榮には聞こえていなかったようだ。
ナギィは咄嗟に声を出してしまった事を後悔しつつ、ゆっくりと前を向いた。
今の声で清明たちに見つかったかもしれないからだ。
しかし前を向くと違う理由で、状況が一変した。
清明たちが騒ぎ出した。
「ネーネー、あれ! 」
森榮が指さした。
ナギィは目を疑った。
初めてなのだ。
今まで、あんなに話には聞いたいたのに。
興奮して眠れない夜、布団の上で。好き嫌いして食べないとゴネた食卓で。時間を忘れて遊び過ぎて帰りが遅くなった玄関先で。散らかして、片づけをしなかった部屋で。
いつも話に登場していたのに、一度も見たことが無かったアレが、そこにいたのだ。
「……キジムナー………… 」
子供の体躯に、赤いバサバサの髪。目も鼻も大きく、耳はひときわ大きく、尖っている。
そして、褐色の背中には白い翼が生えていた。
その翼で、清明たちの頭の上をパタパタと飛んでいたのだ。
清明たちが悲鳴を上げてた。
恐怖に慌てふためく清明たち。
それを見て、キジムナーはいかにも愉快そうに腹を抱えて笑っていた。




