16チュン目
あぁ……なんてことだ……。
わたしは完全に油断していた。
あの森で過ごした一週間がわたしには敵はいないと思い込ませてしまった。
王城で過ごした日々がわたしは幼子の様に守られていると思い込んでしまった。
ここは異世界で。
魔法がある世界なんだって。
忘れてしまっていた。
皆様。おはようございます。そして助けてください。
わたしは、誘拐されました。
真っ暗で何も見えない。顔を覆われている感覚が無いから暗い場所である事はわかる。音の響きが無くまるで無限に続いているかのような空間。
わたしは口と手足を縛られ何者かの小脇に抱えられ運ばれているようだ。
この人物はこの暗闇でも目的地が分っているかの様にズンズンと進んでいく。
しばらくすると闇は薄くなりぼんやりと周囲が見えるようになった。
風の音が、虫や鳥の鳴き声が聞こえる。
何となく状況を察するに、夜の山や森の中にある小屋といった感じだろうか?
そっと藁の上に下ろされた。そして口の拘束は外された。
「よう、お嬢ちゃん?気分はどうだい?」
男性の声だ。それも結構歳のいった低いしがれた声だ。
パチン
何かの弾く音の後、小さな火がともり周囲を照らす。
照らし出されたのは昼間パレードで見かけた男だった!やっぱり怪しいやつだったんだ!
「お嬢ちゃん、迷い人だろう?」
な!?この男一体何者!?
「何でかって?そりゃあ分るさ……教えてやるよ」
この男一体何を知っているんだ?
冷や汗が一滴背中を流れる。
「あんな……クッ……もうダメ、思い出しただけでもウケル!あははははは!ありえないでしょ!?だってスクール水着だよ!?うちらももう使ってない古いデザインのやつでしょ!?あははは!お、お腹痛い!ひひっひっひっ」
……ん???
あれ?今スクール水着って言った?
「……もしかして、同郷の人?」
「はっはー……ちょ、ちょっとま……ひーひー!?」
「過呼吸なってんじゃん!?」
右手からナイフ出して手足の拘束を切断。
後から考えてみればロープでの拘束って無意味だった。
「大丈夫。落ち着いて。吸って、吐いてー吐いてー」
「すっはっはー」
前になっている人の応急処置を見た時の真似だけど……。
しばらく繰り返すと段々呼吸が落ち着いてきたようだ。さらに続けさせる。
完全に落ち着いた所で確認する。
「大丈夫?気持ち悪いとか、頭痛いとかない?」
「……うん、大丈夫。ありがとう」
「はー焦ったぁー」
「全然、そんな風には見えなかったわよ」
「こう見えて大人なんでね」
「いや、どう見ても子どもだわ」
「中身の話ですー。君は女性か」
「ピッチピチの女子高生でーす。まさかこんな好みのおじ様になるなんて思いもしなかったけどね」
「アラサーの男性とだけ言っておく」
「なにそのネカマみたいなの?ウケル」
「それを言ったら君だってネナベじゃないか……こういう話題は止そう。目的はそういうのじゃないんだろう?」
何か口調まで男に戻ってしまった。実家に帰ると方言出ちゃうみたいなやつだろうな。
「えっと、あなた……あ、まず名前は?あたしはアーノルド。前の名前は忘れちゃった。」
「ミコと名乗ってる。同じく前の名前は忘れたよ。」
「ならこれは確定ね。外見が変化してから転移した迷い人は前の名前を失っている」
「君は他の迷い人に会ったのか?」
「会った。3人。いずれも交通事故で死亡し、こちらに転生。前世の記憶と特別な力を持っていた」
「なかなか興味深い話だね」
「そしてあたしの場合だけど、この体……つまりアーノルドと言う人物はこの世界に実在した人物」
「な!?ではわたし達は誰かの体に入ってしまったという事か!?そんな馬鹿な……」
「TSとか転移とかマンガの世界だし、今更馬鹿な話もないんじゃない?」
「……う、ううん……それもそうか……。他には?」
若干気持ちの悪い物というか、この幼子の体を乗っ取ってしまったのなら魂はどこへ行ってしまったのだろうと考えてしまう。
「大精霊からの依頼で各地を解放している。ぐらいかな。」
「それはわたしもやっているよ。水と風には会った。これから風の依頼ををやるところで君に攫われた。」
「それは失礼しました。でもこんな話誰かに聞かれる訳にもいかないし。あたしは火。はぁ……戦闘向けじゃないから苦労したわ」
「君の能力と言うのは……もしかして、ここに来る途中の暗闇かい?」
「そう。……よく分ったね?」
「不自然に音が無かったからね。」
曰く、アーノルドの能力は影を操る力らしい。影に入って移動したり、影絵を投影するとあたかもそこにいるかのような動きをさせられるらしい。ちょっと言葉では説明しにくいと苦笑いだった。
こちらの精製と吸収の能力を教えておいた。
「なら解放はあなたに任せよう!あたしは戦闘よりも情報収集とかの方が得意なの。」
「まぁいいけど。どうせそのつもりだったし。」
「この世界救済はこの世界だけの話じゃないの。えっと言い難いんだけど……日本が滅んだのは聞いた?」
無言で肯く。
「この世界の歪みをちゃんと修正できれば、日本を救えるかもしれないの」
「そ、それは本当か!?」
「火の大精霊からそう聞いた。正直、あたしは前の自分の事とか、友達や家族のこともあまり思い出せないけど……周りに誰か居たのは覚えてるから……良くしてもらったのは覚えてるから!あたしは帰れなくてもみんなを助けたい!だからお願い!力を貸して!」
「わたしよりよっぽど目標持って生きてるんだね。勿論。役に立てるといいけど。」
「ありがとう!」
ガバッ
最近、抱きしめられてばっかだなぁ。まぁいいか。
その後は今後の打ち合わせをした。
わたしは本来の予定通り力技で魔物から土地の解放する旅を。
その間、アーノルドは他の姿が変わってから転移した迷い人を探す旅をすることとなった。
しかしそうなると連絡手段が問題だ。
アーノルドはお約束の冒険者ギルドに所属し、ギルドを経由した情報のやり取りができると言う。
しかし、わたしは大国の王族に囲い込まれてしまっているし、年齢的にも冒険者ギルドを利用できない。
アーノルドに王族とやり取りできるコネも持っていないし、わたしと直接やり取りするにはぱっと出であやし過ぎる。そもそも不審者報告してしまったし、こうして誘拐までやってしまった。
「アーノルド犯罪者じゃん!ウケルー。」
「ちょっと!やめなさい!仕方なかったじゃん!」
ちょっと苛めておいた。
ピリリリリ
「え、何!?」
「あ、もしかしてスマホ持ってる?」
「えーっと、あ!SNSが使える!やったーあああああ」
「うん?」
「リスト空だった……」
「まぁそうでしょうね」
今更、元の世界と連絡取れてもねぇ……だって滅んでるんでしょ?誰と連絡とるのさ。
と言う訳で活動状況はSNSアプリを利用して行う事となった。これでいざと言う時にも合流できるので安心。
「それじゃ、あたしは行くわ。またね」
と一言残してアーノルドは影に消えていった。
……うん?どうやってここから出るんだ?
扉が打ち付けられていて……出口が無いんですが……その。
壊しちゃってもいいんだろうか?いやダメだよなぁ……多分、きっと。
始めてのSNS使用は救難だった。無事に部屋まで帰れた……こんな調子で大丈夫だろうか……。
今回はちょっとシリアスな内容でした




