33・父親。
勇者・勇都と聖女・リンゴの息子・ケンタはすくすくと育っていった。
街の孤児院に隣接したロブの家に老聖女と共に住み孤児院の子供達と共に育つ。
ロブは老聖女の弟子ということで神官戦士の資格で冒険者になった。
仕事で留守にすることも多いが今は街が彼の居場所だ。
私(コルナス神官)も時々訪ねている。
まあ、目的は老聖女様のご指導を頂くためだ。
神殿の長老方でさえ老聖女様の残した資料を全部は理解できなかったのだ。
私にはソレラの資料を解析が命じられている。
書いたご本人に聞いてもなかなか理解が及ばなかったりするのだが。
意外なことにロブはかなりのことを理解しているらしい。
ちょっとした拍子にソレがうかがえたりする。
本物の神官でもないのに……
神官戦士はあくまでも偽装だったはずなのだが。
「勇者」はかなり万能な能力を持っているという話は聞いたことがある。
ロブもやっぱりそういうことなんだろう。
……ケンタは只の子供に見えている。
でも「勇者」だからなぁ。
やっぱりいろんな才能にあふれて居るんだろう。
ロブが魔石を集めつづけているのはケンタを迎えに勇都が来た時のためだ。
だがケンタの魔力は増えてゆくばかりだ……
果たしてコレで迎えが来た時に送れるだろうか?
今でさえ並みの大人の魔導師を軽く超えるくらいなのだ。
「お父さんが迎えに来るってホントなの?
オレ……ロブや老聖女達とココに居ちゃあダメなの?
孤児院の子達と遊べなくなっちゃったら面白くないと思うんだ。
ココに居たいってお父さんに言ったらダメかなぁ」
ケンタはココが好きらしい。
でも、母のリンゴもきっとケンタを待って居るだろう。
産まれてすぐに無理矢理手元から離されてしまった息子。
元の世界に帰るときリンゴの意識は無かった。
意識があったらきっと……
リンゴがきっとケンタを待って居ると言い聞かせる。
やんちゃだけど素直な良い子のケンタ。
ロブはいつでも丁寧に向き合ってやって育てている。
結婚もしてないし子育ての経験も無いはずなのにまるで父親のようだ。
まあ、こんなことを言ったら勇都が怒るかもしれないが。
時々故郷の村にケンタを連れて出かけている。
あのリンゴの木とソレから作られた苗だったリンゴの木々は
この地方の名物になった。
ロブの実家のあの木は大木になっている。
ロブはその側に小屋と言っても良いような小さな家を建てた。
たまに帰省したときの為に。
そうしてケンタにあの木が母親が植えたモノだと教えた。
花の季節・実の成る季節折々に訪れていた。
きっと迎えに来ると言っていたと勇都の言葉を添えながら。
七年……もう迎えには来ないかもしれないと内心で思っていた。
勇都はケンタの前に立つ。
そうして跪いてケンタと目線を揃えた。
「遅くなったけれど迎えに来たよ。
待たせてすまなかったね。
お母さんが待っている。
一緒に家に帰ろう。健太」